第十九話 ていうか、久々にみんなと再会したけど、こっちの世界でまだやることがあるから……。
ボコボコのギッタンギッタンのグッチョグチョにしてやったマーシャンは、包帯でグルグル巻きにして石棺に叩き込んでから厳重に封印しておいた。
「……さて、帰りましょうか。ていうか!」
今さらだけど、リルをおもいっきりハグする。
「リル〜、マジで久しぶり〜! 元気してた?」
「ホントに今さらだな……けど久しぶりだ! 元気だったよ。母子共に健康そのモノだ」
「モニョだ」
「ていうか! いつの間にこんなに大きくなったの、リルジュニア!」
「ジュニア言うな。ターナっていう名前があるんだ」
「ターナちゃんって言うんだ」
そう名前を呼ぶと、当の本人は急に剥れて。
「ターニャ!」
「え? でもリルはターナだって……」
「ターニャ! ターニャ! ターニャニャニョ!」
「わ、わかったわよ、ターニャね……リル、どっちなの?」
「正式にはターナなんだが、周りに訛るヤツが多くてな……」
ああ、猫獣人ってな行がニャ行に変換されちゃうんだっけ。一応方言とも言えなくもない。
などとリルと話していると、背後から危険察知。接触する直前に右側へ退避。
「サーチィィィィ……あれ!? わ、わわ!」
急に私がいなくなってもつれたエイミアの足を、軽ーく足払い。
「わ、きゃ!」
ズゴッ ……ズズッ
……鈍い音を響かせて壁に衝突したエイミアは、そのままずり落ちて動かなくなった。
「リジーも久しぶりね。少し前まで一緒だったのに、何かずいぶんと長く離れていた気がするわ」
「久しぶり。私も同じ思いを抱いた……と思われ」
「それとエカテル…………あれ? エカテルは?」
「エカテル姉なら……」
リジーが指差す先には、壁際でチーンってなってるエイミアを治療するエカテルの姿があった。
「相変わらずエイミア命ね……エカテルも久しぶりー!」
「黙っててください!」
あれ? なぜかマジギレ?
「……サーチ姉、あの扱いをされたら、私でもマジギレすると思われ」
……そう? 緊急避難で無罪だと思うけど。まあちょっとイラッとしたから。
「……命令。なぜか手元が狂いなさい」
ボソッと命令。
「エイミア様、しっかりしてください! 今すぐに薬を……うわっ!?」
ゴッ!
足元が何故かすべったエカテルは、弾みでエイミアの頭にフラッシングエルボーをかます。
「うぐっ!? ……ぐふっ」
「きゃああああ! エイミア様しっかり! きゃああああ!」
「……エカテル姉よりエイミア姉が不憫」
……ちょっとやり過ぎちゃった。てへっ。
「何故避けたんですか!?」
「あのねえ、後ろからこっそり近づいてこられたら、普通の戦士でも反応するっつーの」
「確かにな。私でも反応するぜ」
「同意」
「申し訳ありませんがエイミア様、それは否定できません」
「そ、そんな!?」
「だいたい正面から堂々とハグしてこればいいじゃない」
「そのパターンだと『またデカくなりやがって……』とか言って、私を避けたり転ばせたりするじゃないですか!」
鋭い。ていうか。
「……またデカくなったのは間違いないのね?」
「間違いない。この間新しい下着を買っていたけど、Gと書かれていた」
「リ、リジー!?」
「……なるほど。遠回しに私に対して嫌がらせしてたわけか」
「ち、違います! そういうつもりは一切ありません!」
「えへん! 判決! 今回の言動は意図して行ったとは考えにくく、偶発的であることは明らかである!」
「そ、そうですよ!」
「ただ私的にはイラッときたので、八つ当たりで有罪とする!」
「そ、そんな理不尽なーーー!!」
「うるさい! 理不尽と書いてサーチと読むのよ! 久々に剥いてやる!」
「い、いやあああああああああっ!」
「……たく、ホントにデカくなりやがったわね……」
「ど、どこ触って……誰か助けてえええ!」
「サ、サーチさん! エイミア様への狼藉は許さ「命令! 手伝え!」お、お許しください、エイミア様! 身体が、身体が勝手にぃぃぃ!」
「のおおおおおおおっ!!」
「ふう、ストレス解消完了っと」
「……サーチ……エイミアから仕返しされるぞ……」
「大丈夫よ。寂しいけど、またお別れだから」
「え?」
「……でしょ、ソレイユ?」
私が天井に向かって声をかけると、何もない空間から手が生えてきた。
「な〜んだ、すっかりバレてたのね〜」
そこから出現したのは魔王ソレイユ。何か視線を感じるとは思ってたんだけど、まさか空間に隠れていたとは……。
「せっかくサーシャ・マーシャをブッ飛ばせるいい機会だと思って隠れてたんだけど……エイミアとリジーちゃんのお仕置き見てたら、流石に冷静になったよ……」
……マーシャン、なかなかに酷い状態だったからねぇ……そのうち自分で回復して出てくるとは思うけど。
「それと……迎えでしょ?」
「まーねー。連続発生した空間の亀裂によって、かなりの人数の冒険者がこのピラミッド近辺に運ばれたからさ。ギルドに頼まれて回収してるのよ」
「ていうか、ソレイユって空間を渡ることができるの?」
「まっさかー。偶然現れた空間の亀裂を魔力で固定して、そこから来ただけだよ」
そっか、ソレイユでもムリか。
「ただ悲しいことに、数人の犠牲者が出ちゃったのよね。サンドウォームに食われちゃったのと」
「ま、魔王様! あの女です! あの女に私は殺されたんですー!」
げ、あのときの女戦士!?
「……ま、この人も合わせて犠牲者はアタシが面倒見るからさ」
「あの女があの女がむっきぃぃぃ!」
「はいはーい、煩いから黙ってて」
「……っ! は、はい」
睨みだけで女戦士を黙らせたソレイユは、再び私に向き直る。
「……で、残るのね、サーチは?」
「ええ」
「えっ!?」
エイミアの悲痛な叫びが響く。
「な、何故!? 何故ですか、サーチ!」
「……ヴィーやナイアを置いてきぼりにはできないでしょ。それに」
「それに……≪万有法則≫の碑文が気になるから……だろ?」
「あれ、リルにはわかっちゃった?」
「ま、お前との付き合いも長いからな……こっちは私が何とかするから、サーチはヴィー達を頼むぜ」
「ええ、任せたわ」
「リファリス様も動いてる。何かわかったらソレイユ経由で知らせるよ」
「もういーかい? そろそろ亀裂が閉じちゃうから」
「あ、最後に一つだけ。ソレイユ、この空間の亀裂の連続発生って……偶発的なこと?」
「サーチにはわかってるんでしょ?」
……やっぱり……人為的なことか。
「わ、私、残ります! サーチといたいんです!」
「エイミア、ワガママ言うな」
「でも! でも!」
「……エイミア姉、ごめん」
ビシッ!
「はうっ……がくっ」
リジーの一撃で気絶するエイミア。それをリルが担ぐ。
「……じゃあな、サーチ。また会おうぜ」
「あおうじぇ」
「ええ、またね」
「じゃねー、サーチ。また連絡するよーん」
「うん、ソレイユまたね。みんなをお願い」
……ソレイユ達が消えていくのと同時に、空間の亀裂も閉じていった。
「……行っちゃったか」
「……行っちゃったと思われ」
………………おい。
「……何でリジーがいるのよ?」
「……立ち位置がよくなかった……と思われ」
「あのね……エイミアを気絶させといて、あんたが残ってちゃカッコつかないでしょうが!」
「……おう、失態」
「失態じゃねええええ!!」
こうして。
リジーがこっちに来た。
やっぱりリジーはリジーだった。