第十八話 ていうか、vsマーシャン!
「何だ、マーシャンだったの。あんたも捕まってたの?」
「…………」
……何の反応もない。ていうか、目が虚ろ。
「マーシャン怪我は治った? 良かったと思われ」
リジーが近づいていくと、マーシャンは手にしていた賢者の杖を振り上げ……って、まさか!?
「リジー! 危ない!」
「え?」
リジーが訝しげに振り向いた瞬間。
バヂィ!
ズドオオオオオン!
「きゃあああああああっ!」
ズダアン! ……ズズ……
すさまじい爆発に吹っ飛ばされたリジーは、激しく壁に叩きつけられて動かなくなった。
「エカテル! すぐに治療を!」
「は、はい!」
すぐにエカテルがリジーの元へ駆けつける。
「こ、これは……酷い……!」
すぐにいくつかの薬を取り出すと、全身に吹き掛ける。残った薬は水に溶いて、リジーの口に含ませる。
「……これで応急処置は済みました。命の危険はありません」
……良かったぁ……ていうか。
「命の危険? そこまでヤバかったわけ?」
「……あと十秒遅ければ手遅れでした」
!!?
「壁に叩きつけられる瞬間に頭だけは守ったのでしょう。そうじゃなければ即死でした」
……!!
「マーシャン、テメエ! 一体何のつもりだ!」
「リル、落ち着きなさい! 今までの冒険者と同じよ! おそらく操られてるわ……!」
「な……! マ、マーシャンが操られてるってのか!? 腐っててもA級冒険者だぞ!」
「操られてるって理由以外で、マーシャンがリジーを殺そうとすると思う?」
「っ…………ちぃぃ! マーシャンが敵となると厄介だな!」
リルがフィンガーリングを手にはめる。
「……こちらも本気でいかないと……!」
エイミアも正義の棍棒を取りだし……ていうか。
「エイミア、あんたの電撃で痺れさせればいいんじゃない?」
「…………あ、そうですね。それが一番早いですね」
そう言ってからエイミアがマーシャンに対峙した。
「……マーシャン、悪い子にはお仕置きです! ≪蓄電池≫フルパワー!!」
バリ……バチバチバチ!
「行っけえええ!!」
バリバリバリ!
エイミアの電撃がマーシャンに殺到する……が、防御魔術で防がれる。
「……! ぼ、防御魔術をぶち破ります!」
エイミアがさらに電撃に集中する!
そのとき。
ビシュン……ドシュ!
「ぐふ……!」
エイミアがお腹を押さえて片膝を落とす。その瞬間、私は走り出していた。
「≪偽物≫!」
ズズン! がぎぃんがぎぃん!
とっさにエイミアの前に作り出した鉄壁で、追撃を防ぐことはできた。
「エイミア、大丈夫!?」
「サ、サーチ…………痛い、痛い痛い痛いい……! うあああああぁぁぁぁぁ!」
……脇腹を貫通してる。これも危ない。
「エイミア様ぁぁぁぁ!」
すぐにエカテルが来て治療を開始する。たぶん命に別状はないけど……!
「……ちょっとお痛が過ぎるんじゃないの、マーシャン……!」
マーシャンから放たれた岩弾、追撃のヤツは明らかに頭部を狙っていた。
「…………」
マーシャンは相変わらず無表情のまま。虚ろな目に光はなかった。
ビシュン! ビシュビシュ!!
ギィン! ガギィン!
私にも容赦なく岩弾を連写するけど、全てトンファーで叩き落とした。
「……私もわからないわけ? ハイエルフの女王たる者が何てザマなの」
「…………」
言葉も届かないか。ならフルボッコにするだけ!
「リル、私が結界を斬り裂くから、その隙に矢を一発ぶち込んで!」
「わかった。死なない程度の威力でやるぜ」
いや、殺っちゃってもいいけど。
「エカテル、回復をお願い。あんたにも危害が及ぶ可能性は無くは無いから、自分の身は自分で守って」
「わ、わかりました」
よし……トンファーを日本刀に作り変えて……と。
「いくわよ、マーシャン! 殺す気でいくわ!」
ビシュ! ビシュビシュ!!
「……二番煎じは通用しない!」
一気に速度をあげ、あっという間にマーシャンの結界まで詰める。
「一発でいくわ! 秘剣≪竹蜻蛉≫!」
光速の刀から幾重にも刃が伸び、マーシャンの結界を削る!
ガギギギギギ! ザクンッ!
結界を斬ると同時に、マーシャンの左肩を深く斬る。
「今よ!」
「おうっ!」
ギリリリ……ビシュン!
腕のみの≪身体弓術≫で矢を放つ。やはり手加減はしているみたい。
ドスッ!
矢は見事に右肩に当たり、両腕を封じられたマーシャンはガクリと壁にもたれ掛かった。
「……勝負……ありか?」
リルが近寄ろうとする。でもイヤな予感がした私は、右手でリルを制止する。
「な、何だよ」
「リル、傷口を見て」
「……あ、あれは……!」
マーシャンが何か呟く度に、自身の傷が塞がっていく。そうだ、マーシャンの本業は回復魔術士だった……!
「しかも賢者の杖の効果で、MPは無限に回復するぞ! どうするんだ!?」
……う〜ん……手はあるんだけど……あまりやりたくない。
でも……マーシャンを止めるためには仕方ないか。
「エカテル、リジーとエイミアは大丈夫?」
「あ、はい。もうすぐ目が覚めると思います」
……オーケー……なら支障はないわね。
「エカテル、絶対命令。脱げ」
「え゛…………い、いやああああああ!」
「お、おい、一体何のつもりだ?」
困惑するリルは放っておいて、全裸になったエカテルの手を引っ張ってマーシャンの元へ。どうやら回復が完了したらしく、杖を私達に向けて身構えた。
「マーシャン、聞こえてると思うから、ここではっきり言うわ!」
「…………」
「ここにあんた好みの美少女がいるわ」
「…………」
「……好きにしていいわよ」
「「……は?」」
エカテルとリルの呆れた声が響くと同時に、マーシャンの瞳に意思の光が宿る。
「…………しょ……美少……美少女…………美少女じゃあああああ!」
「え、ちょっと、な、いや、いやああああああ!」
マーシャンがエカテルにのし掛かった瞬間に、≪偽物≫で鉄の壁を作って覆う。
「よし……リルー、エイミアとリジーの様子を見てくれない?」
「…………いいけどよ……お前、いつか背後から刺されるぞ」
「大丈夫よ、エカテルは私の奴隷だから」
「……世界一不幸者だな、エカテルは」
どういう意味よ!
その後、意識が回復したエイミアとリジーと共に鉄の壁を囲み。
「……よし、解除するわよ〜」
鉄の壁が無くなると同時にリルがエカテルを確保。ぐったりとしたエカテルの頬には、涙が伝っていた。
「エイミア、リジー、はいどうぞ」
「……マーシャン……!」
「よくも……!」
「な、何じゃ、何が起きたんじゃ!? さっきの美少女の次はお前らか!?」
「そう。次は呪われた刃と……」
「釘こん棒をたっぷりとお見舞いします……!」
「ちょ、ちょっと待て! 話せばわかる、話せば……」
ずばぐちゃどすごすんざくどすんざくどすんざくどすんざくどすん!
「ぎぃあああああああああああああっ!!」
マーシャン、南無。




