第十五話 ていうか、サンドウォームに食われてたどり着いたのは?
な、何々々々々!?
突然真っ暗になったと思ったら、周りはヌメヌメベトベト……!
「ヒ、ヒモが邪魔……!」
ワイヤーを出すヒマはないわね。仕方ない、とっておきの隠しナイフで……えい!
しゃきん!
よし! ロープが切れた! あとはこのヌメヌメを……!
ぬるん!
「あ、ありゃ。ナイフ程度じゃ傷も付かないか。なら」
両手が自由になってようやく取り出せた羽扇を短剣に作り替え、おもいっっきり突き刺す!
ずぶぅ!
シャギャアアアアアアアアア!!
「手応えあり。やっぱり生物の口の中か!」
なら手加減は一切無用。今度は天井に短剣を刺し、長い針をイメージして伸ばす。そのまま針を何回もグリグリ回した。
シャギャアアア………………ッ……
……ズズウン……
脳を針でぐちゃぐちゃにされた生物は、そのまま動かなくなった。再び短剣に作り替えて、頬っぺたの辺りを斬り裂いて、口から脱出する。
「……また真っ暗か。ホタルん!」
ピカアア!
私の呼びかけに応じてホタルんが光りだす。
「……砂のトンネル? かなり急勾配だけど……」
上に登ろうとしても、生物の身体がジャマだし。
「……ていうか、私は何に食われ……ぎゃあああ!」
気になって振り返った私がバカだった。その生物はでっかいミミズに巨大な口がある特徴的な外見。ゲームでは結構お馴染みモンスター、砂漠の嫌われモノのサンドウォームだ。
「うっわ、キモいキモいキモいキモい!」
耐えられなくなった私は、その場に着ていたモノを全て脱ぎ捨てる。魔法の袋から清洗タオルを取り出すと、身体中赤くなるくらい擦ってベトベトを落とした。
「……ちょっとこの服は着る気になんないわね……」
そのまま服を廃棄し、最近着てなかったビキニアーマーを装着する。竜のウロコ製のブーツと小手も装備し、羽扇も定位置だったベルトに差し込む。
「……よし。やっぱりビキニアーマーが一番しっくりくるわ」
さーて、行くか………………………っっっああ、もう!
「ダメだわ、気になる。ゴミは道端に捨てられないのよね、昔から……」
ホンニャンには「平気で人殺すくせに、道路にポイ捨てできないって……」ってつっこまれたもんだわ。
「いいじゃん、環境保全よ環境保全……」
そう言い訳しつつ、脱いだ服を回収した。ゴミ箱行きには変わりないけど。
そのまま砂のトンネル……サンドウォームの巣穴を降りていくと、奥に明かりが見えてきた。
「……進んだ先が埋もれたピラミッド、なんてご都合主義はないわよね……」
一人言を呟きながら進んでいると。
ブルルルルッ
「ん、携帯? ……あ、ヴィーか。はろはろ〜♪」
『サ、サーチ、生きてますか!? 大丈夫ですか!?』
「うん。サンドウォームに食われたけど、今倒して口から出てきたとこ」
『良かった……! 本当に良かった……!』
あ、声がちょっと潤んでる。
「あのね、私がこれくらいで死ぬわけないでしょうが」
『はい……はい! うえええええええん!』
あ、泣いちゃった。
『……もしもし、ヴィーさんは話せそうにないですから代わりますわ。で、どうやってサンドウォームを倒したんですの? 普通は食われた時点で死亡確定ですわよ?』
「口ん中からサンドウォームの脳に針ぶっ刺してグリグリした」
『…………想像するだけで痛いですわね。それで今はどうなさってるんですの?』
「地上には上がれそうにないからさ、今はサンドウォームの巣を下ってるとこ。そしたら明かりが見えてきてね、行こうとしたら電話があった←今ここ」
『い、今ここ? ……まあいいですわ。ワタクシ達が救出に向かいますから、その辺りでジッとしてなさいな』
「わかった。明かりがある場所にいるわ」
『……サンドウォームの巣に明かりがある事自体がおかしいんですのよ? おわかり?』
ブツッ
「今、おかわりとか言ってたような……まあいいか。それより進んでみよ」
そのまま下がっていくと、明かりのある場所が見えてきた。あれは松明……よね。
「……まだ火があるってことは……誰かいるってことよね?」
そう言ってしばらく歩いていると、案の定誰かがいた。
「……これは……今々殺られたばかりね」
生きてはいなかったし、原型もなかったけど。具体的描写は避けるけど、身体の一部がいくつか転がっていた。
「……サンドウォームに食われたみたいね。ん、これは……ギルドカード?」
カードには『アフィ・デンジャーズ Bクラス』と書かれていた。間違いない、私達が元々いた世界のパーティだ。
「悪評ばっかのパーティだったけど、腕は確かだったはず」
一応他に落ちていたギルドカード数枚と、形見になりそうな割れ眼鏡や剣等を回収しておく。ギルドに届ければ遺族に引き渡してくれるはず。
「どうしてこの世界に迷い込んできたかは知らないけど、ちゃんと成仏しなさいよ」
遺体をまとめて埋めてから更に先に進む。
すると。
ガッ! ガッガッガッ!
「ん? 何の音?」
まるで岩を削っているような……。
「……誰かいるのかしら?」
慎重に進むと、一番奥で女戦士が岩を剣で叩いていた。剣はとっくに折れている。
「うあ、うああああああああ!!」
ガッガッガッ!
「……あの〜……」
私が声をかけると、女戦士は肩をビクッとさせて振り向いた。
「……ぁぁあ……」
「だ、大丈夫ですか?」
……こいつ……確かアフィ・デンジャーズのサブリーダー……。
「あ……あ……あああああ!」
ぶうん!
「うわっと! いきなり何すんのよ!」
「あああああ! 死ね死ね死ねぇぇぇ!」
涙と鼻水とヨダレを流したまま、がむしゃらに私に斬りかかる。
「ちょっと落ち着いてよ」
「あああああ! みんな、みんな死んだあああ! 私も死ぬ、死ぬんだあああああ!」
……こりゃ何を言っても時間のムダか。落ち着かせてるヒマもないし。
「はああっ!」
がっ!
「ぐっ!?」
「うりゃあ!」
どごっ!
「がはあっ!」
ハイキックを連発でぶち込んで昏倒させる。
「……ぐ、あ、あ……あああ!」
あ、あれ、効いてない!?
「死ねぇぇぇ!」
こりゃ埒が明かない。仕方ない。
「恨むんなら自分の不運を恨みなさい!」
どしゅ!
「ぎゃあああああ!」
ザスッ!
「ぐぼぁ………ぅ」
……ドサァ
袈裟斬りでも死ななかったので、心臓への一突きで女戦士に止めを刺した。
「たく、狂うのはあんたの自由だけど、私に迷惑をかけないでよね」
女戦士の死体を退かそうとすると、必死に叩いていた岩に目が行った。
「……あれ? この岩って……大理石?」
……そういえば、ピラミッドって元々は大理石の外装があったのよね……なら。
「ま、まさかこれがピラミッド!?」
なんてご都合主義!
女戦士さん、南無。