第十四話 ていうか、マーシャンのおかげでエイミアの必殺技開眼。
誤解その一はすぐ解けた。
「エイミアー! リルー! ついでにサーチ! どこにおるんじゃああああ! ワシを一人にしないでくれえええ! ぎゃあああ、またモンスターじゃああああ!」
マーシャンが凄腕なわけもなく……やっぱりバカだった。
(こんだけ叫び続ければモンスターも寄ってくるわよね……)
(誰だよ、マーシャンは実は冷静沈着で凄腕の冒険者なんじゃない? とか言ってたのは?)
……たぶん全員。
(また陰からブッ飛ばします?)
(そうね、今度は私が……)
≪偽物≫でミスリル製のリングブレードを作り、マーシャンを囲んでいたゴーストを斬り倒して即座に伏せる。
「≪聖神弾≫≪聖神弾≫≪聖神弾≫……をを! いつの間にやら全滅しておる! ワシ、やっぱ凄いのう!」
(大半は私が殺ったんだよ)
あとは見つからないように、ズリズリとほふく前進する。
(私、何やってるんだろうな……)
今日ばかりは剥き出しの腹が恨めしい……擦れて痛い。
闇深き森に入って一時間もしないうちにマーシャンを発見した。リルが匂いを辿っていったら、大声で叫ぶマーシャンがいた……というオチ。
(あんだけ私達を呼んでるんだから、マーシャンの前に出ていくか?)
リルがこそこそとそう言ってきたので、小声で協議した。
私もこそこそするのはめんどくさいので、リルの意見に賛成したんだけど……。
(もしかしたら、もしかしたら、マーシャンが自分にモンスターを惹き付けようとしてくれてるのかも……)
いやあ、それはないよ……。
(エイミア、お前マーシャンを美化しすぎ)
(わ、わかってますよ! でも……退くに退けないときってあるじゃないですか!)
退くに退けないって……でも、マーシャンに何か裏があるのは間違いないし……。
(ふう……わかったわ。しばらく様子見よう)
(はあ!? なんでだよ!)
(よく考えてごらんなさいよ。マーシャンがわざわざ敵を惹き付けてくれてるのよ?)
(……だからなんだよ)
(マーシャンおとりにしてモンスター倒して進めば楽じゃない……ダメージ受ける心配もないしね)
(お前……えげつないな……)
結局二人とも否定しなかったので、このまま現状維持となったんだけど。
(……あのときの私を殴りたい……)
めっちゃ後悔してます。マーシャン、叫ぶのやめなさい!
(おい……いくらなんでも多すぎるだろ……さすがに疲れた……)
(ごめんなさいごめんなさい……私が余計なことを言ったばかりに……)
いや、いい加減イヤになってきてたから、私もかなり大胆に行動してるんだけど。
「何じゃ、何じゃ? ワシ、いきなり眠っていた力が目覚めたのかのう?」
……なんで気付かないのよ! さっきなんかマーシャンの真後ろで戦ったりしてたんだからね!
(エイミア!)
(あ、サーチお帰りなさい)
ただいま〜……じゃないわよ! あんた緊張感くらいもちなさいよ!
(あ・ん・た・はー!)
(な、何ですか? 私なんにも)「いひゃい! いひゃい! いひゃい!」
(バカはお前らだー!)
ごんっごんっ
「んきゃ!」「あいた!」
「む? なんじゃ? またモンスターかの?」
(((しー……)))
「……? ……気のせい……じゃな……何やらサーチやエイミアの声に思えたが……」
(((ギク……)))
ヤバいか……?
(まあ、マーシャンだから大丈夫だろ……)
(そ、そうね……)
たぶん「にゃ〜」と泣けば「なんじゃ、ネコか」で済みそうな気もする。
「に、にゃ〜」
!!!
(えええ……エイミアーー!!)
(お前何やっとんじゃー!!)
……まあ、もうバレてもいいんだけどね。ついつっこんじゃった……。
「な〜んじゃ、猫か……」
……やっぱりマーシャンって……。
「……何てことあるか! くらえ曲者! ≪火炎弾≫」
げえっ! やっぱりバカだー!
ちゅどおんっ!
ゴオオ……メラメラ……
「何してんのよ! あのチビロリババアー!」
うわあ、燃え広がってるー!
「エイミア、リル! 消すわよ、急いで!」
「わ、わかった!」
「はははい!」
外套や上着で叩いて消しにかかる。
「うぬう……まだ出てこぬかあ! 燻し出してやるわ!」
「ちょっ……! あのバカまた≪火炎弾≫使うつもりじゃ……!」
あいつ自分の故郷を灰にするつもり!?
「仕方ねえ! 少し黙らせ」
「……マーシャンのばかああああああ!!」
バリバリバリどぐおおおおおんっ!
ぎゃああああああ!
エイミアーー! 何してくれるのよおおおおおおおお!
……ごほ。結構吹っ飛ばされたわね……。
うわ、ホコリかぶってる。
「……ゲホゲホ」
リルも立ち上がる……けどホコリまみれだわ……。
まあ、爆風で火事消えたから良かったけど……。
「はあ、はあ、はあ……」
肩で息をしているエイミア。手には真っ黒焦げになって半分くらいになった釘棍棒。
足元には……。
「…………コホ…………」
半分以上焼け焦げてボロボロになったマーシャンが転がっていた。
「え、エイミア? 大丈夫?」
「はあー、はあー、はあー、何ですか?」
……エイミア目が据わってる……。
「……落ち着きなさい……ね?」
「はあー、はあー、はあー」
「……どうどう」
「はあー、はあー、はあー」
「っえい」
「はああああああああんっ!」
これが一番てっとり早いわ。
「お、お願いですから先っぽ摘まむの止めてください!」
胸を隠しながらへたり込むエイミア。
「仕方ないじゃない……それよりあんた」
「……はい?」
「何やったの?」
……直径で数十メートル見通しが良くなった元森を見渡す。
「え……げっ! ま、まさか私の……?」
「他に誰のがあるんだよ」
焦げてるマーシャンをつつきながらリルがつっこむ。
「で? 何をしたの?」
「……あの〜……マーシャンの行動に……つい頭に血が昇って……」
はい。
「サーチ、目が怖いです」
「いいから! さっさと!話す!」
「は、はぃぃっ! あの、≪蓄電池≫の改良型のスキル≪雷壁の鎧≫を釘棍棒に纏わせて……殴ってみたんです……」
うん。普通死ぬわね。
「……にしても……すっげえ威力……」
全くだわ。
「エイミア」
「は、はい!」
「良かったわね……必殺技ができて」
マーシャンの尊い? 犠牲のおかげだわ。
なかなか進まない。