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第十二話 ていうか、まずはギザの三大ピラミッドを調査。

 最初に提唱された世界の七不思議。その中で唯一現存しているのが、このギザの三大ピラミッドだ。カイロ市内からも直通バスが出ていて、気軽に立ち寄れることからエジプトの最大の観光名所になっている…………んだけど。


「「へ、閉鎖中!?」」


「ええ。過激派による爆破予告があって警察が警戒してるらしいわ」


 紅美がガックリと肩を落とす。


「そ、そんなぁ……せっかく楽しみにしてたのに……」


 だよねえ、目の前にはクフ王のピラミッドの先端が見えてるくらいなんだから、残念だよねぇ。


「ま、仕方ないわよ。爆発物が仕掛けられてるんじゃ、近づくのは危険だわ」


「でもこういうのって大体はイタズラじゃない! 安全が確認されれば入れる可能性も……」


 実は爆発物は実在するのよね……ポチッとな。



 ……ズズズゥゥゥン……



「な、何よ今の爆発音!?」


 ちょっと離れた無人地帯に爆弾を仕掛けておいたんだけど……ちょっと爆発力ありすぎじゃね?


『爆弾だぁぁぁ!』

『早く逃げろ! この辺りも危険だぞ!』


 周りにいた観光客が一斉に逃げ出した。ほぼパニック状態だ。


「わ、私達も逃げようよ!」


「……そうね、危険だから逃げましょう……ヴィー、お願いね」


「わかりました」


 四人で逃げながらも、途中で私とナイアだけが脇道に逸れる。


「……ヴィー、紅美のことは頼んだわよ……」


 私達は逃げ惑う人達とは逆方向へ向かった。



 当然、今回の爆破予告の真犯人は私だ。夜のうちに遠隔で爆破できるヴィー原案私製作の魔力爆弾を置いてきて、さっき爆破したのだ。


「こうでもしないと一大観光地のピラミッドを無人にはできないからね」


 実際にエジプトには過激派が存在するので、疑う者は誰もいないってわけだ。ピラミッド近くの空き家に忍び込んで待機し、夜になるのを待つ。


「サーチ、でも軍まで出動して警戒に当たられては、逆に行動しにくいのではありませんの?」


「こういう場合は出入口の非常線さえくぐり抜ければ、あとは楽なもんなのよ」


 警戒するにしてもギザの三大ピラミッドの敷地は広大だ。全域封鎖するのは人員的にも事実上不可能だから、主要な道に非常線を張るのが関の山。あとは巡回してる兵士にさえ気をつければ、比較的楽にピラミッドに近づけるだろう。


「もしかしたらピラミッドの入口くらいには見張りがいるかもしれないけど、それくらいなら何とでもなるから」


 ……やがて辺りも暗くなり、昼間の暑さがかなり和らいできた。ていうか、寒い。


「さてと、ナイアもこれに着替えて」


「これは……?」


 頭と手足だけ剥き出しになる全身タイツに近い真っ黒な服だ。軍の潜入部隊が実際に使用してる特殊素材でできた……ウェットスーツみたいなヤツで、身体の線がはっきりわかる。


「これを着て近づけば、兵士に見つかりにくいでしょう?」


「……いや、待ってください。こんな黒い格好で砂漠を歩けば、逆に目立ちませんか?」


「ん? 誰が砂漠を歩くって言ったかしら?」


「……はい?」



「……成程。ワタクシを選んだのは、この為ですの……」


 前夜の作戦会議で同伴にナイアを指名したとき、異様にビックリしてたのは気になってたんだけど……。


「あんた、わかってなかったの? ヴィーもちゃんと理解してたわよ?」


「それはそうですわ。ヴィーさんはサーチの正妻なんですから以心伝心ですわよ」


「制裁?」


「……サーチ、本気で言ってるんですの?」


 あはは、冗談よ。


「それよりこの高度は維持できるの?」


「全く問題ありませんわ。ヴィーさんに比べたらサーチは軽いですから」


「……ナイア、絶対にそれヴィーの前で言っちゃダメだからね。食われる(・・・・)わよ」


「……は、はい……」


 ……ていうか、私とヴィーの体重差って胸? ……なわけないか。あれだけ立っ端違うんだし。


「まさか空から侵入するとは、誰も思いませんわね」


「そのための真っ黒タイツなのよ。夜空に紛れるためのね」


 ナイアのホウキは飛んでも基本的に音はしないから、姿さえ見えなければ侵入にはもってこいなのだ。


「このまままっすぐ飛んで、クフ王のピラミッドの中間辺りに降りて」


「わかりましたわ…………サーチ、クフ王のピラミッドはどれですの?」


「正面から見て二番目に高いヤツよ」


「わかりましたわ」


 実際にはクフ王のピラミッドが一番高いんだけど、地面の高低差でカフラ王のピラミッドが高く見えるのだ。


「……サーチ、一番小さいピラミッドは崩れかかってますの? 大きな穴が空いてますわよ」


「ああ、あれはね………………破壊するためって言って爆薬で吹っ飛ばしたのよ」


「………………はい?」


「かなりの爆薬を仕掛けたんだけど、あれだけしか壊せなくって、結局断念したんだってさ。あの穴はその名残らしいわ」


「…………あの質量を破壊しようと思うなら、どれだけの魔力がいるかわかりませんわね……」


 夕方より暗い赤目の魔王の力が必要でしょうね。



 こっそりとピラミッドの中腹に降り立つと、私達はクフ王のピラミッドの入口「盗賊の穴」へ向かった。


「何故盗賊の穴なんですの?」


「まんまよ。盗掘のために盗賊達が掘った穴だから」


 グネグネした道を越えると、広い空間に出る。


「これがピラミッドの内部……魔力が満ち満ちていますわね」


「そうね……やっぱピラミッドそのモノに何かあるのかしら」


「と言うより、このピラミッドの下を通る竜脈の影響ですわ」


 竜脈?


「ちょっと待って、日本ではよく聞くけど、アフリカ大陸にも竜脈があるっての?」


「竜脈は全世界にありますわ。知りませんでしたの?」


 全然。


「今までの七不思議も竜脈上に在りましたわよ?」


 そうでしたか。全然気づきませんでした。


「つまりピラミッドを竜脈上に造ってること自体が、何かしら意味があるのですわね」


 たぶんウィンターウッドシティと同じ理由なんでしょうよ。


「それより内部を調べるわよ。途中でかなり上に広い空間もあるから、そこはナイアに任せるわね」


「了解しましたわ」



 ……一時間後。


「……何もないわね」

「……何もないですわね」


 結論として、何もなかった。途中に血の跡とかあったから何かは起きたんだろうけど、全て撤収されてしまったようだ。


「……となると、他のピラミッドも?」


「あんまり時間もないし、他のもちゃっちゃとやっちゃいましょ」


 同様にカフラ王・メンカフラ王のピラミッドも調べたけど、結果は同じだった。


「……つまり、ギザの三大ピラミッドはハズレでしたわね……」


「……わざわざ爆破予告までして潜入したんだけどね……」


 ……まさに骨折り損のくたびれ儲けだった。

ギザの三大ピラミッド、行ってみたい。

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