第十話 ていうか、古代ロマンの宝庫エジプトに到着!
エジプトといえばピラミッド。ピラミッドといえばエジプト。考古学が好きな人ならば憧れて止まない、正に古代ロマンの頂点。最初に提唱された世界の七不思議の一つでもあり、唯一現存する建造物。
「それがここ、エジプトなのですー!」
「何をしてるんですの、サーチ」
「早く税関へ行きましょう」
あ、はいはい。ちょっと某不思議狩人のマネをしてただけです。
いやあ、カラカラです。さすがは砂漠の国、エジプト。意外なんですが、エジプトの気温は冬だと一桁まで下がることも珍しくなく、セーターのような防寒具が必須になってきます。
「ギザの三大ピラミッドをバックにセーターで記念撮影なんて、ちょっと不思議な組み合わせですよね」
「サーチ、何をしてるんですの?」
「ピラミッドの写真ボードの前でポーズを決めてるのですか?」
……いいじゃん。気持ちだけ浸ってみたかったのよ。
「ねえサーチ、それって世界ふしもがっ!」
「ダメ! それ言っちゃダメ!」
「もが、もがががががっ!」
「これは私の空想だから! 単なるお遊びだから! お願い、そっとしてて!」
ずごしぃ!
「もぎゃあ……ぐふっ」
ぐふって…………ぎゃあああああ! こ、紅美!?
「サ、サーチ、何故紅美を地面に!?」
「つ、つい照れ隠しで喉輪落とししちゃった! ヴィー、回復! 回復ぅぅ!」
「……何か黄色いお花畑が見えたわ……」
「あ、あははは、エジプトだけにファラオが手を振ってなかった?」
「ファラオじゃなくてミイラの群れだったけど!?」
「い、いいじゃない、モテモテ〜「包帯の固まりにモテたい?」……す、すいません……」
……紅美って眠らされキャラが定着してきたような……。空港を出てタクシーを探しているとき、ヴィーが自分にヴェールを掛けつつ。
「サーチ、何故今回は薄手のヴェールを?」
「これ? ちゃんと理由があるから、街中を見てみなさい」
タクシーに揺られながらカイロ市内を見ていたヴィーは、しばらくして納得したらしく、首を縦に振った。
「成程。これは現地の方の民俗衣装なのですね」
「……ちょっと違うけど……まあ、似たようなもんかな。女の人の露出が良く思われないのよ、この辺りは」
だからノースリーブ短パンなんて格好だと、注目の的。スリや置き引きに「狙って」と言っているようなモノなのだ。
「それともう一つは紫外線対策かな」
「シガイセン?」
「……日光。この辺りは日射しが強いから、日焼け対策のためでもあるの」
「ああ、納得しました。要は砂漠の旅の際に外套が必要不可欠な事と同じ理由ですね?」
……まあ……そうなるのかな。
「確かに目立たないに越した事はありませんからね、現地の方に溶け込みましょう」
そう、だから。だから私も露出は控えているのだ。
「……しかしサーチ、ヴェールをしていてもそれだけ露出していれば、はっきり言って意味がないですよ?」
「な、何よ! ちゃんとヘソ出しは我慢したわよ!?」
「ノースリーブ短パン姿の人が言う台詞ではありません」
だ、だってぇ……。
「……前から思ってたんだけど、サーチって肌出すの好きよね? それだけスタイルが良ければ見せたい気持ちもわかるけど」
「そ、そう? スタイルいい?」
「うん、胸は私が上だけどもがががっ!」
「コ、コーミ!」
「それは禁句……!」
ぶちぃ
「「コ、コーミ、逃げてください!」」
「へ? へ?」
「……カバンストラッシュ!」
ばごっ! どごっ!
「「ひゃぐ!」」
……かばうヴィーとナイアをカバンで始末してから、紅美の前に立ちはだかる。
「あ、あの……?」
「……紅美ちゃん?」
「ひゃ、ひゃい!?」
流石に命の危険を感じたのか、逃げ腰になる紅美。だけど……逃がさないよ?
「……世の中は言っていいことばかりじゃないのよ?」
「すすすすいませんでした!」
「……身体に覚えてもらおうかしら。絶命奥義発動」
「え…………ぎゃあああああああああああ!」
「……こひゅー……こひゅー……」
「しっかりしてください、コーミ!」
「てへ、殺りすぎちゃった。ヴィーさん、よろしくお願いいたします」
「サーチは黙っててくださいっっ!」
……マジギレされました。すんません。
「サーチ、実の娘さんなんですから、少しは加減なさいな」
「わかった。その代わりあんた達には一切加減しないから」
「そこは加減してほしいですわね!」
やがで紅美はヴィーの≪完全回復≫で息を吹き返した。
「ありがとヴィー、ふーっ」
「はああああんあああ! って、何をするんですか! 耳は禁止です!」
またまた怒られました。すんません。
「……ファ、ファラオの群れが……黄色いお花畑に……」
うぉう、結構ヤバかったみたいだ。
「ヴィー、ナイア、ヒドくないですか!? 従姉妹を瀕死に追いやるんですよ!」
「酷いです酷いです」
「ワタクシ達もカバンで殴られたんですのよ!」
あ、非難の嵐。ヤベ。
「わ、悪かったわよ……仕方ない、お昼は私が奢ってあげるわ!」
「本当に!?」
「いいのですか!」
「ラッキーですわ!」
……ていうか、財政は私が握ってるんだから、毎回私が奢ってるようなもんだけどね。
「「「……な、何ですか、これ」」」
「ん? コシャリ」
ホテル近くの屋台に繰り出している。コシャリってのはご飯にパスタやら豆やら玉ねぎやら混ぜて、トマトソースやらお酢やらかけたモノ。エジプトの国民食と言われているらしい。まあ日本のラーメンみたいなもんかな。
「た、ただごちゃ混ぜにしてあるだけじゃ……」
「失礼ね、ちゃんと計算されて混ぜてあるのよ」
……たぶん。
「各屋台によって味も違うから、いろいろ試してみるといいわ」
そう言われたヴィーとナイアは近くの屋台に向かった。見て回るようだ。
一方、紅美は。
「……サーチと一緒でいい」
「へ? 何で?」
「私はアラブ語が話せないし」
「私もムリよ」
「へ? じゃ、じゃあどうやって?」
「英語よ。結構通じるわよ」
「そ、そうだったのか……でもヴィーとナイアは話せるみたいよ」
へ!?
『はい、コシャリ二人前ね!』
『『アリガトーゴザマス!』』
『お嬢さん達アラブ語しゃべれるんだねぇ!』
『『オー、スコシダケネ』』
い、いつの間に……。
「エジプトの公用語ってエジプト語だと思ってた……」
「……人が全員横向いて貝やら鳥やら書いてあるヤツ?」
「それは象形文字! 古代エジプト語の事じゃないわよ!」
そりゃ失敬。
その間にヴィーとナイアが戻り、紅美の分のコシャリも運ばれてきた。
「わあ、美味しそう……これはサーチと同じモノ?」
「そうよ。食べてみなさいよ」
「うん、いただきまーす♪」
美味しそうに食べる紅美を眺めていると、ナイアが私の肩をつついてきた。
「ん? 何よ」
「あのハサミみたいなモノは、もしかして……」
「ん? ああ、あれね。サソリに決まってるじゃない」
「「……」」
「な、何よ」
「……絶対にコーミには言っては駄目ですよ?」
試しに完食した紅美に暴露したら、そのままひっくり返って卒倒した。
「……ホントに眠らされキャラが定着してきたわね……」
「毎度毎度回復する側の身にもなってください!」
コシャリにサソリが混ぜてあることはありません。これは架空のコシャリです。
ちなみに、日本でも専門店があります。美味しいですよ♪