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第八話 ていうか、いよいよ天空の温泉に入るんです!

「さあ、今度は私の野望が叶う番! いざアグアスカリエンテスへ!」


「…………ああ、温泉ですね」


 再びバスに乗り込んだ私達は、マチュピチュに並ぶ観光地チチカカ湖……の途中の峠を目指す。その峠を少し外れた場所に、富士山よりも高い場所にある温泉、アグアスカリエンテスがあるのだ。


「アグアスカリエンテス温泉ですか……泉質は何ですか?」


「わかんない。観光客よりも地元民がよく来る場所らしいから、あまり情報がないのよ」


「へえ……」


「サーチ、やっぱり野宿?」


 ようやく高山病から解放された紅美は元気いっぱいだ。


「ま、野宿でもいいんだけどさ、一応宿泊施設はあるらしいわよ」


 従業員用らしいけど。


「そうなの!? うっわあ、楽しみぃ!」


 ていうかさ、いつの間に泊まること前提になってるわけ?


「あ、そうそう。水着着用だからね」


「「ええーーーーーっ!?」」


「な、何よ急に」


「お、温泉に水着ですかぁ?」

「プールじゃないんだからぁ」


 ……紅美はともかく、ヴィーもすっかり日本人気質だねぇ……。


「仕方ないでしょ。温泉とは言ってもプールに近いんだから、ヘタしたら混浴よ? そんなとこで裸でいられる?」


「「…………ムリです」」


「だったらブーブー言わない!」


「「……はあい……」」


 おそらく飛行中のナイアもヴィー達と同意見だろうけど、さくっと黙殺する。


「……それよりもぉ! 温泉だ温泉だ♪ ヒャッハアアア!」


「……何かサーチが世紀末的モヒカンに見えてきたんだけど……」


 失礼な。



 途中のバス停で下車して脇道を下っていくと。


「……あ、モクモクと湯気が……」


 アンデス山脈に漂う湯煙は、なぜか日本を彷彿させて安心する。


「かなり規模の大きな温泉みたいですわね」


「みたいね。私も初めて来たからよくわかんないけど」


 ……段々見えてきたけど……ありゃ完全にプールね。どっちかって言うと、雑な作りのほうの。


「コンクリート剥き出し……いいわねいいわね、この手作り感満載の雰囲気!」


 温泉の周りにいくつか建物があって、メインの施設の中には食堂と土産物屋が……土産物!?


「……サーチ、秘湯の割には施設が充実してますわね?」


 あはは……私達以外にも観光客いるし。これじゃ秘湯とは言えないかあ……。


「ま、それはそれ、これはこれ。せっかく温泉に来たんだから、楽しまなきゃ損々よ!」


 そう言って入浴料を支払い、更衣室へ向かった。



「はい、ビキニ装着完了!」


「……サーチはやっぱりビキニですのね……」


 そういうナイアは珍しくワンピース。しかも昔懐かしい学校のアレみたいな。どこに売ってたのよ!?


「……あんたの水着、『ないあ』って書いた布貼ってあげようか?」


「い、嫌ですわよ!」


 やらないわよ。いくら何でもヘンタイすぎるし。


「温泉温泉♪ プールプール♪ ひゃっほーい!」


 ざぱあああん!


 ……今のは私ではない。紅美である。


「……段々と似てきましたね」


 似なくてもいいとこ似てきたわね。


「だけど温泉愛は大切よ! 私の血を引く以上は、それは不変でなくてはならないのよおおおっ!」


「しーっ! 聞こえますわよ!」


「大丈夫よ、従姉妹だって血を引いてるのよ?」


「あ…………そうでしたね」


 私の声が聞こえたらしく、紅美が振り返る。


「ねえ、サーチは母さんにあったことある?」


「母さんって……紅美の?」


「うん」


 バリバリ会ってます。ていうか、目の前にいます。


「……さあ。私も小さいころに両親が事故死して施設で育ったから」


「あ、ごめん。そうだったね」


「ま、でもヴィーやナイアいたし、、それにいっぱい仲間がいたから不満はなかったわね」


「……仲間って、他にもいるの?」


「ええ。リルにエイミアにリジーにエリザに、あとエカテル」


「外国人ばかりなの!?」


 ギクッ!


「こ、この二人だけよ。あとはアダ名よアダ名」


「そうなんだ……どんな人が運営してるの?」


 うーむ……仕方ない。


「ヒルダっていう外国人の資産家が運営しててね」


「へー……」


 ある意味間違ってはないはず。


「コーミ、私は違う施設の出身です。ソレイユという立派な方が運営されてました」


「ワタクシは父と絶縁しまして、それからサーチ達の元でお世話になってますわ」


 ……んん、それも間違ってはない。


「そうなんだ……皆、波乱万丈なんだね」


「「……サーチには負けますけど……」」


 反論できない。確かにスゴい波乱万丈だわ、私の人生。


「あんたには立派なお母さんがいるでしょ、ホンニャンっていう」


「……うん」


「誇りなさいよ。あれだけの器量良しのお母さんは、そうそういないんだから!」


「……うん!」


 少し陰っていた紅美は、再び泳ぎ始めた……ってプールじゃない!


「まあいいじゃありませんか。水着を着用していますからプールと代わりありませんし、思い切り楽しみましょう」


「……そうね。そうしましょうか……というわけでうりゃあ!」

「え!? きゃああああああ!」

 だっぱああああん!


 早速ヴィーをブレーンバスターでお湯に放り込んだ。



 あとで背中を水面に強打したヴィーと、お湯を被った周りの人達からめっちゃ叱られたのは言う間でもない。ごめんなさい。



 夕ご飯は食堂で済ませ、近くで野営することにした。


「……やっぱり野宿なんだ……サーチに騙された……ブツブツ」


 紅美がブツブツ言ってるけど気にしない。私達にしてみれば野営は日常だから、あまり気にならないし。ていうか、モンスターいないからめっちゃ楽だし。


「あ、紅美、流れ星!」


「え!? どこどこ!?」


 紅美が夜空を見上げている間に、簡易テントを投げて広げる。


「あぅぅ、見えなかったよぅ………っていうか、いつの間にテント設営したの!?」


「いつの間にって……アウトドアし慣れてれば、これくらいわけないわよ」


 投げれば広がる簡単テントなんて流石にこの世界にはないから、毎回こんな感じで誤魔化している。


「それにしても……本当に誰も居ませんわね」


「まあ観光客は少ないし、宿泊施設もほぼ従業員用らしいし」


 人どころか、動物の気配も感じられない。ホントに静かだわ…………ん?


「……誰も……いないわよね」


「そうですね」


「従業員も……寝たわよね」


「まあ、深夜ですし」


 つまり……覗かれる心配なし!


「きゃっほー!!」


「サ、サーチ、どうしたのですか!? 急に服を脱ぎ散らかして!」


「風呂に入るに決まってんじゃない! 今は誰もいないのよ!」


 ヴィーとナイアが視線を交わし、肩を竦めた。


「確かに……」

「誰もいませんわね」


 二人も服を脱ぎ、風呂へと走っていく。


「何よー、あんた達も?」


「だって、水着ではお風呂とは呼びにくいです」

「入った気がしませんわ!」


「ブーブー言ってたクセに、結局お風呂好きなのよね……じゃあ全員でいくわよ!」


「「「せーの!」」」


 ざっぱああああん!



「……たくもぅ……誰が脱ぎ散らかした服を集めるってのよ……ブツブツ」


 ……紅美がお風呂に来たのは十五分後だった。

アグアスカリエンテスは実在します。ただ私は行ったことがありませんので、ほとんど想像です。詳しいことを知りたい方はググってみてください。

ちなみにアグアスカリエンテスは「熱い水」という意味らしいです。ズバリ温泉ですね。

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