第六話 ていうか、素っ裸でダンジョン攻略するしかない。
ダンジョンに入った一歩目で。
ツルッ ベチャ!
「きゃあ!」
つーーーー……
ヴィーが転んで滑っていく。
「ヴィー? ……うっわ、床全体がヌルヌル。何よこれ」
とりあえず≪偽物≫で靴にスパイクを作り、滑らないように進む。
「ヴィー? どこまで滑ってったのー?」
「……ここでーす……」
坂を下っていった先の岩にしがみついていた。
「ケガはないわね?」
「は、はい……きゃ!?」
立つのもおぼつかない。生まれたての小鹿か。
「聖術で何とかならないの?」
「あ、そうでした……≪乾燥肌≫」
何それ!?
「……よし、これで私の足元は乾燥して滑らなくなりました」
「…………だったら、術の名前≪乾燥≫とかでいいんじゃね?」
「私もそう思うのですが……開発者が頑なに譲られないモノでして……」
開発と命名はソレイユかよ!
「……まあいいわ。それより先に進みましょ」
「はい」
まともに歩けるようになったヴィーと一緒に、奥へと進み出した。
「ほいっ!」
ざんっ!
炎熱石で作った短剣で襲ってきたスライムを両断する。まさか炎熱石が鉱石だったとは。
スライム相手に悪戦苦闘していた私に、ヴィーが。
「サーチの≪偽物≫は、オリハルタイトも作れるんですよね? なら、炎熱石や氷結石も作れるのでは?」
「わ、私は金属しか無理なんだけど」
「両方とも鉱石ですよ?」
「へ!?」
……で、試しに作ってみたら……できちゃったのよ、炎熱石の剣……つまり魔法剣が。
じゅわああっ!
斬られたスライムは炎熱石の熱で一瞬で蒸発する。いやはや、これ便利だわ。
「……前に試したときはムリだったような気が……」
だからてっきり鉱石だとは思ってなかったのだ。
「おそらく羽扇の影響ではありませんか?」
……あ、そっか。これって元々は魔術士用の装備品だから、魔術に何らかの作用があってもおかしくないか。
「……って、ヴィー後ろ!」
「≪聖火弾≫!」
きゅぼん!
おお!? 背中から聖術を…………って、蛇から放ったのか。なるほど。
「それなら隙はないわね」
「はい。ここでしたら蛇を元に戻しても問題ないですから」
よし、この調子ならさほど苦労せずに攻略できそうね。
……何て考えてたんだけど、私が浅はかでした。
「……よ、よし、階段発見。今何階?」
「えーっと……五十八階……いや、五十九階でしたか?」
もはや何階かすらわかんない。同じような構造の階層が延々と続くもんだから、段々とわかんなくなってくる……!
「こ、これも罠の一種なのでしょうか?」
「罠だとしたら、ずいぶんと手が込んでるわね……! これだけ掘るのにどれだけの労力が……ん?」
……そうだわ。ホントにこれだけ深く掘ったとしたら、相当な労力が必要になるはず。自ら成長したダンジョンだとしたらかなりの古株よね……だったらモンスターももっと強力なはずだし……。
「……待てよ……これと似たようなダンジョン、どっかで見た気が……」
う〜ん、何だったっけ……何かのゲームにあったような……。
「このダンジョン、無限に続いている気がしてきました……」
……無限? 無限無限無限………あ。
「……無限回廊だ……」
「はい?」
私は今度はダンジョン内を隈無く探り始めた。
「あ、あの? サ、サーチ?」
「その階段はたぶん空間の捻れを利用したループになってるわ」
「る、るーぷ?」
「ええっと……繰り返しってこと」
「……つまり、階段を下ってもまた同じ階層に戻っていると?」
「そう。だとしたら隠し階段か何かがあるはず」
「……つまりは階段以外の手で下に行ければいいわけですね?」
「そういうこと」
「でしたら……はあああああああっ!」
……ん? ヴィーの頭の蛇が逆立った?
「ああああああ! はあああああっ!」
「ま、まさか蛇が金色に……これが伝説の超メデューサ!?」
「違います! 大体蛇は逆立っていませんし、金色にもなっていません!」
そりゃ失敬。
「……では行きます! 真の≪怪力≫! うりゃあああああ!」
ずどがあああああん!
フ、フルパワーで床を!? ま、まさか床に穴開けて下の階に降りるつもり!?
……パラパラ……
「……よし、穴が開きました」
す、すんげぇ……。
「では下に行ってみましょう……サーチ? 行きますよ?」
「ああ、はいはい」
……全力で殴られるより、石にされるほうがマシかもしんない……。
ヴィーの読みは正解だった。
「ほら、全く違う階層に出ましたよ」
そうねそうねその通りね……って、何で私達の後ろに大量の鎧食らいが?
「……私達、何も餌になるようなモノは持っていませんけどね……?」
「……ま、害はないわけだし、このまま進みましょ」
……ちっ。つまりは私達は何も装備できないわけで。このまま素っ裸で進むしかないわけで。
「これで普通のモンスターが出てきたらシャレにならない……って来たあ!?」
ウワサをすれば……というのがホントになり、私達の前には無数の鎧が立ち塞がった……リビングアーマーだ!
「……こいつら硬いのよね……やりにくいなあ」
「私が聖術で浄化します。下がっていてください」
……何て言っていたら、後ろにいた鎧食らい達が一斉に動いた。
うにょ うにょにょにょ!
「あ、あれ? 鎧食らいが?」
リ、リビングアーマーに殺到して……く、食ってる。食ってるわ。
「鎧食らいって生物が身につけてるモノしか食わないんじゃないの!?」
「リ、リビングアーマーは生物が着てますよ。ほら」
……ん? よ、鎧の中から……虫?
「あれがリビングアーマーの正体、操糸虫です」
マリオネット?
「あの虫が内部で糸を出して、鎧を操ってるんです」
何てムチャな操作方法!
「て、てっきり悪霊でも入ってるのかと……」
「そういうのもありますけどね」
リビングアーマーには二種類いるのか……。
「あ、もうリビングアーマーはいなくなりましたよ」
「……あの虫って殺しておいたほうがいい?」
「そうですね。今のうちなら操糸虫も無力ですから、全部潰してしまいましょう」
逃げ回る虫を潰しながら、守護神の部屋へ進む。
……が。
「あ、あれ? 守護神がいないじゃない」
「……少し大型の操糸虫がいますね。どうやら鎧食らいにやられたようです」
鎧食らいのおかげで楽に攻略完了。良かった良かった。
「「……っくしゅ!」」
か、風邪ひいたかな……やっぱ良くないか。
ヌルヌルっていやらしい?