表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
729/1883

第五話 ていうか、お待ちかねのサービス回がやってまいりました!

 それはマチュピチュより少し手前、マチュピチュ村で観光……もとい情報収集中に、それは突然起きた。


『きゃああああ!』

『うわあああ!』


「……ん? 何かしら?」


「何か騒がしいですね」


 街の外れで何か起きたらしい。あの方角は……マチュピチュだわ。


「気になるわね……ナイア、少しの間紅美をお願いできない?」


「わかりましたわ」


 高山病でフラフラの紅美をナイアに預け、ヴィーと騒ぎが起きている場所へ向かった。


「……あら?」

「これは……」


 何が起きているのかはすぐにわかった。人垣の中には、老若男女問わずに全裸になった人達で溢れていたのだ。


「……全員自分で脱いでるわけじゃないわね。身体のあちこちに服の残骸があるし」


「どちらかと言えば、服だけ溶かされた感じです」


 ……そうなると……。


「……ヴィー、私はとあるモンスターが頭に浮かんでるんだけど」

「奇遇ですね、私もです」


 すぐにスマホでナイアに連絡を入れる。


『……はい』


「ナイア? おそらく鎧食らい(アーマーイーター)だと思うから、紅美をホテルの部屋で寝かしつけるなりしてから、すぐにマチュピチュに来てくれない?」


『ア、鎧食らい(アーマーイーター)ですの!? …………はあ、わかりましたわ。なるべく早く向かいますわ』


 スマホを片づけながら、ため息をつくしかなかった。



 鎧食らい(アーマーイーター)。私達の世界では珍しいスライムの一種で、主にダンジョン内に生息している。大きさはマチマチだけど、大体は人の頭くらいかな。正直単体ならそこまで手強い相手ではないんだけど、このモンスターが厄介な点は……食べる対象にある。

 人間を始め、エルフ、獣人、ドワーフ等々。多種多様な種族がいるなかで、一つ共通している点がある。それは……服を着るということ。この鎧食らい(アーマーイーター)の大好物は、人が身に付けている服なのだ。

 だったら鎧を来てればいいじゃん……と思うあなた。あまい。あますぎる。それで対策できるくらいなら、そこまで警戒されることはない。鎧食らい(アーマーイーター)という名前が表す通り、鎧すらも食べてしまうのだ。鉄はもちろん、鋼、銅、ミスリル。時間さえ気にしなければオリハルタイトやモンスターの素材でも食べてしまう。ただし、生物は食べない。一切食べない。髪の毛すら食べない。つまりこのモンスターが通ったあとには、素っ裸の冒険者のみが残されるのだ。

 ただし、実際に冒険中にこれをやられたら、死んだに等しい状態になる。鎧食らい(アーマーイーター)は生物を食べないとしても、他のモンスターは違う。武器から鎧から剥かれた冒険者なんて、狙ってくださいと言ってるようなもんだ。だから遭遇した場合は真っ先に倒すべき相手になる。


『ちょっと、どこで襲われたの!?』


『マ、マチュピチュです。マチュピチュを見物していたら、突然大量の青いブヨブヨに襲われて……』


『ケガは?』


『あ、ありません。怪我人は多少いますけど、逃げる時に転んだ人ばかりです』


 ちい。間違いなく鎧食らい(アーマーイーター)だわ。


「……ヴィー、行きましょう」


「わかりました。でもどうなさるんですか?」


「どうするも何も、鎧食らい(アーマーイーター)だけなら対策は簡単じゃない」


「ま、まさか……」


「そう、そのまさか」



「…………」


「何よ、ヴィー。まだ慣れないの?」


「慣れません! というより、慣れたくありません!」


 胸を隠しながら歩くヴィーは、顔を真っ赤にしたまま叫んだ。

 服を食べることが目的の相手ならば、食べる対象……つまり服がなければいいわけで。つまり私とヴィーは素っ裸の状態でマチュピチュを目指していた。今のところ誰とも会っていないので、警察に通報される心配はない。


「サ、サーチは恥ずかしくないんですか!?」


「そりゃ恥ずかしいけど……モンスターに見られたってどうってことないし、毎回毎回服だけ食われて逃げられるのも癪だし」


「た、確かにそうなんですけど……それ以上に大切な何かがありませんか?」


「大切な何かって何よ」


「え? えーっと……その……お、女としての矜持と言いましょうか……」


「ナニソレ、オイシイノ?」


「……もういいです」


 険しい山道を軽口を叩きながら歩いていると。


「……あ、何か見えてきましたよ」


「あれよ。あれが空中都市、マチュピチュよ」


 裸の観光客の騒ぎで、マチュピチュ村は大混乱だった。その隙に村を抜け出し、険しい山道を越えてきたわけなんだけど……素っ裸での登山はなかなかにツラいことがよーくわかった。ヴィーが聖術で虫徐けしてくれなかったら、もっと悲惨だっただろう。だってクモ多いし。


「うわ、あちこちにスライムがくっついてるわね」


「あの色は間違いなく鎧食らい(アーマーイーター)です」


 生物を食べない鎧食らい(アーマーイーター)だけど、だからといって岩や土を食べるわけじゃない。あくまで生物が身につけている何か、が食べる対象なのだ。だから。


 ぢゅるるっ


「ん? ……うひゃあ!」


 ピアスなんかも食べる対象になるのだ。私のピアスを溶かして食べると、さっさとどこかへ行ってしまった。


「ぜ、全然気づかなかったわ……」


「スライムには足音も気配もありませんからね……あ、私もペンダントをやられました」


 これで私達が身につけているモノは、登山用の靴のみに……靴!?


「ヴィー、靴は大丈夫!?」


「大丈夫です。聖術でスライムには認識できないようにしてありますよ」


「……べ、便利ねぇ、聖術って」


「≪魔除け≫の応用ですよ……サーチ、ありました。あれが空間の扉です」


 マチュピチュの一番高い位置、広場になった場所に黒い亀裂があった。間違いなく空間の扉だ。


「……どうする? ナイアを待つ?」


「いえ、これ以上話が大きくなると厄介ですから、早々に終わらせてしまいましょう」


 ていうか、素っ裸状態から早く解放されたいんでしょ?


「……今までのパターンから言って、ダンジョンはスライムだらけだと思うから、ヴィーが主力で」


「わかっています」


 スライム類には刃物は効かない。というより、分裂を促進してしまうだけ。だから魔術で凍らせて砕くか、炎で焼き尽くしてしまうのが一般的だ。


「あるいは、瞬時にみじん切りにしてしまうか」


「……サーチが凄いのはわかりますが、体力を温存してくださいね?」


「わ、わかってるわよ」


 秘剣≪竹蜻蛉≫ならそれが可能なんだけど、体力をバカ食いするだよなぁ……魔力の心配はしなくていいとはいえ、体力面は課題だ。


「なら私はサポートに徹するから」


「では行きましょう」


 先にヴィーが入り、私があとに続く。


「……あ、スライムに毒は通じるかな?」


 毒霧の準備をしつつ、私もダンジョンに侵入した。


裸で登山。真似しないでください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ