第四話 ていうか、紅美がクスコ市街でアルパカに会った瞬間から……。
クスコ。世界遺産にも登録されている、インカ帝国の首都だった街。
「きゃ〜、アルパカ!」
マチュピチュへの中継地としても知られるが、街の景観は世界遺産に登録されるだけあって、見事なモノである。
「アルパカ♪ アルパカアルパカ♪」
特に数々の歴史的な事件が起きたアルマス広場の華麗さは見事であり「アルカパカパカパ♪ ア〜ルパカ♪」…………紅美、私が解説してんだから、緊張感のない声を挟まないでくれるかな?
「いや〜ん、アルパカ♪」
「……紅美、この牧場のアルパカ、全部食用だからね?」
「……へ!?」
「アルパカ肉って言えば、ペルーじゃ高級食材よ? 毛だって織物は高級品だし、アルパカ一匹でかなりの利益「いやあああああ! アルパカちゃんの解体いやあああああ!」……ああ、ちょっと想像が先走ったのね」
アルパカに抱きついてオイオイ泣く紅美。ていうか、アルパカめっちゃ迷惑そうだぞ。
『お客さん、あのアルパカ買う? なら〆ようか?』
止めれ。
トラックの運ちゃんに乗せてもらい、私達はその日のうちにクスコに到着した。お礼を渡そうとしたら『いらねえよ。つーかよ、十分だよ』とか言ってたけど、何でだろ?
「あ、当たり前ですわ!」
そう言われてナイアにも叱られたし。まあいいか。
で、クスコの街を観光……もとい情報収集している際に。
「か、可愛い! 可愛いすぎじゃん!」
アルパカに遭遇した紅美が、すっかり気に入ってしまい。
『近くに私の牧場あるよ』
「ア、アルパカの!? 行く行く行くぅ!」
気合いでスペイン語をヒアリングした紅美が、牧場主に付いていってしまい……←今ここ。
「食用反対! 食用反対ぃぃ!」
「どうするんですの、この状況」
私に言われても……。
「でも可愛いですね」
少し悲しげなヴィー。結構可愛いモノは好きなんだけど、野生のカンを働かせたアルパカ一同はヴィーには一切寄ってこないのだ。
「やっぱりわかるんじゃない?」
こらこら、人の頭をかじるでない。逆に私には異様に寄ってくる。
「サーチは家畜仲間だと思われてるのでは?」
……そういえばダチョウ牧場ってあるんだっけ。
どうにかアルパカから紅美を引き剥がし、クスコの街へ戻る。
「アルカパ〜……アルカパ〜……」
いい加減にうっさい。それにアルカパじゃなくてアルパカ。
「あ、綺麗な織物ですわ」
ナイアが店頭に飾られた織物に気づく。メキシコではお馴染みのポンチョ。
「あら、本当に綺麗。肌触りも最高」
ヴィーも手で触ってうっとりしてる。どれどれ………あ、なるほど。
「これもアルパカね」
「え? これも?」
「ええ。羊と一緒でアルパカも毛を刈って利用してるのよ」
「成程、大型の羊と思えばいいわけですね」
「肉は羊みたいにクセがないから食べやすいわよ」
ナイアと一緒にポンチョを試着してはしゃぐ紅美を見てから。
「一応言っとくけど、毛を刈るときにはアルパカは殺さないからね」
「わかっていますよ。何故私にそれを?」
「いやね、誤解したままだと、紅美に余計なことを言うかも……って思って」
「……確かに。もし殺して刈るなんて誤報を伝えたら、紅美が暴れだしかねない……」
そのとき、私の懸念が現実となった。
「ウ、ウソ!? これって全部アルパカの毛なの!?」
「ええ。おそらくですが、毛を刈る為に殺害に及んでいるかと」
ナイアあああああああ!
「ちょっと待って、違」
「な、な、何ですってえええ!?」
シャキィン!
ちょ!? どこから持ってきたのよ、そのマチェーテ!?
「ゆ、許すまじ! アルカパちゃんの恨み、ここで晴らしてやるぅぅ!」
だからアルカパじゃなくてアルパカだって。
「うりゃうりゃうりゃあああ!」
ざくっ! しゃきんしゃきんしゃきん!
『こ、こらああああ! ウチの商品に何するんだあああ!』
「うるさい! アルカパちゃんの恨み、思い知れえええ!」
「な、何やってんのよあんたは!?」
「コーミ、落ち着いてください!」
「ワ、ワタクシ何か余計な事を言いましたかしら?」
「あんたが元凶だぁぁぁ!!」
「ぐっふぉぉ!?」
どうにか取り押さえてホントのことを説明し、紅美と一緒に平謝りした。
『大変申し訳ありませんでした!』
「ごめんなさい!」
『申し訳ありませんでしたで済むかあああ!』
『も、もちろん、斬っちゃったポンチョは弁償します』
『あったり前だ! だがな、それだけじゃ俺の腹の虫が治まらねえ! お前ら全員付いてこい!』
え、えええ……。
で、またまたアルパカ牧場。さっきのとは違う。
『お前が斬ったアルパカの毛はな、こいつらの毛を必死こいて刈ったモノなんだ!』
そ、そりゃあね。羊よりデカいし。
『だからお前らにはアルパカの毛刈りをしてもらう!』
『『『…………はい?』』』
「???」
『もしも今日中に終わらなかったら……そうだな、全員揃ってストリップでもしてもらおうか』
店主はニヤニヤしながら私達の身体を眺める。なるほど、それが目的だったのか……でも。
『今日中でいいのね。なら楽勝楽勝』
『そうですね、難しい事ではありませんね』
『まあ一日あれば何とかなりますわ』
『……はい?』
『だから、全部刈っちゃえばいいんでしょ?』
紅美からマチェーテを取り、アルパカの隣に立ち。
シュパパパパパ!
『……こんな感じで』
モフモフだったアルパカは、あっという間に痩せた姿になった。無論、頭の毛は残してある。
『…………』
店主はアゴが外れそうなくらい、あんぐりと口を開けて固まっていた。
『はいはい、ちゃっちゃとやっちゃうから、店主さんは店に戻ってなさい』
『…………』
『……さっさと戻れ! あんたの髪の毛も刈ってやろうか!?』
『ひ、ひぃぃぃ!』
脱兎のごとく去っていた店主に手を振り、紅美を見る。
「ほら、あんたも」
「……へ?」
「あんたが主犯でしょうが! ちゃっちゃと毛を刈ってきなさい!」
「は、はいい!」
ホンニャンに鍛えられてるんなら、これくらいはできるはず。
「い、いきます……イィィィィヤァ!!」
じゃきんじゃきんじゃきんじゃきん!
ピギィィィ!
大体刈れたみたいだけど、お尻の辺りに血が滲んでる。ちょっと肉を斬ったな?
「ご、ごめんなさい……おごっ!」
後ろ足で紅美を蹴飛ばしたアルパカは、お尻をペロペロ舐めている。
「治します。≪回復≫」
傷が跡形もなく治ると、アルパカはヴィーにペコリと頭を下げた。
「さて、まだまだいるみたいだから、さっさと終わらせましょ」
私は高速毛刈りマシーンと化し、次々にアルパカの毛を刈っていった。
しゃきん!
「……よし、終わり」
「お疲れ様ですわ」
「……ナイア、あんたは何をしてるわけ?」
「眺めてましたわうごっほぅ!」
もう一人の主犯がサボってるんじゃない!
「サ、サーチ、コーミが大変です!」
「へ? どしたの?」
「そ、それが……」
ヴィーが指差す先には。
「た、助けてええ!」
ボカボカボカボカボカボカ!
アルパカにフルボッコされる紅美がいた。蹴るアルパカの身体には、どこかしら傷がある。
「……まだまだね、紅美」
「それより早く助けましょう!」
この日から、紅美はアルパカ恐怖症になった。
アルカパじゃなくてアルパカ。