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第二話 ていうか『アクロバットな遊覧飛行はどうだい? キミのハートがドロップするぜ、HAHAHA!』

 ようやくバスはナスカ高原へと到着した。


「「「な、何もない……」」」


「あら、何もないってことはないわよ。空と大地と人間と」

「「「そういう事ではなくて!」」」


 はいはい、言いたいことはわかるわよ。


「ナスカの地上絵は地面から見たって何もわかんないわよ。遊覧飛行で見ないとね」


「な、なら早速遊覧飛行に……」

「要予約」

「ならなら予約を」

「してるわけないじゃない」


 崩れ落ちる紅美。冗談よ。


「う……う……うわあああああん! グレてやるぅぅぅ!」


 突然駆け出す紅美……ってバカ!


「ダメ! そこから入っちゃ!」

 どんっっ!

「ふぎゃ!」

 ゴロゴロ! ズザザザ〜!


「ここから先は地上絵のあるエリアよ! 絶対に入っちゃダメ!」


 精神的ダメージと肉体的ダメージで動かない紅美。だけどそれに気づかない私は、コンコンと説教を続ける。


「ただでさえナスカの地上絵は消滅の危機にあるのに、見学者である私達が貴重な地上絵を踏み荒らしていいわけないじゃない! だいたいクドクドクド……」

「あの、サーチ?」

「クドクドクドクド……何よ?」

「サーチの言いたい事はわかりました。ただ、今の『ゴロゴロ! ズザザザ〜!』の方が、地上絵へのダメージがあるのでは?」


 へ? ゴロゴロ、ズザザザ〜って………あああ! 紅美が吹っ飛んで地面を転がったあと!


「ご、ごめんなさいごめんなさい! 悪気はなかったんです! ナスカの神様ごめんなさい〜!」


 ……結局、地上絵からは外れた場所だったのでセーフでした。いや、マジで気をつけよう。



「……ムスッ」


「ごめんね、紅美……ちゃんと予約はしてあるからさ、機嫌直してよ、ね?」


「……ムスッ」


 あ〜あ、見事にご機嫌ななめ……。


「それよりもサーチ、先程ナスカの地上絵は消滅の危機にある、と言っていましたね?」


「え? ええ、そうよ」


「消滅の危機と言われましても、このような荒野に地面を掘っただけで描いた地上絵、普通は消えて当然だと思いますが……?」


「その通りよ。普通なら雨の浸食や風化によって数十年で消えてしまう。だけど雨が滅多に降らない乾燥した気候だったおかげで、この地上絵は千年以上も奇跡的に保存されてきたのよ」


「せ、千年以上!?」


 この辺りは正確なデータってわけじゃないから何とも言えないらしいけど、少なくともそれくらいは経過している地上絵もあるそうだ。


「そ、それが何故消滅の危機に?」


「原因は二つ。地球の気候の変化によって、乾燥したナスカ高原に降る雨の量が増えているため」


 正直、これが理由だとしたらどうしようもないんだけどね。だけど……。


「二つ目の原因が……どうしようもならないのよ」


「……と言いますと?」


「人の手による破壊」


「「はあ!?」」


「私達が実際に乗ってきたバス、あれも地上絵の近くを通ってるの。そこから外れて走ってきた車とかが、地上絵をバンバン破壊しまくってるのよ」


「な、何でそんな馬鹿な真似を!?」


「知らないわよ。本人達は『道に迷って入ってしまった』とか言ってるらしいけど」


 道から外れて道に迷うなんて、言い訳にもなってないっつーの。


「他にも地上絵の上を歩いたりする連中も横行してて、年々地上絵は薄くなってってるのよ」


「は、はあ……」


 ちなみにですが、上記のようなことをすれば捕まります……マジで。中には懲役六年の実刑食らった人もいます。


「……あの、サーチ?」


「何?」


「……その方々は……一体何がしたいのでしょうか?」


 知らないわよっ。



 ブゥゥゥゥン……


 それはさておき、お楽しみの遊覧飛行でござーる。


「何処ですの? 地上絵は何処ですの?」


「落ち着きなさいって。ちゃんと近づいたら機内放送で案内してくれるから」


 ぴんぽんぱんぽーん♪


 お、ウワサをすれば。ていうか、ずいぶんと古風なお知らせ音ね。


『ヘイヘイヘーイ、ご搭乗ありがとうだぜぃ、れでぃーすあんどじぇんとるまーん♪』


 軽いな!


『ナスカの地上絵遊覧飛行にようこそ! 今回はオレ、スティーブが案内するぜ!』


 はいはい。


『スティーブとは言ってもジョブスやスピルバーグじゃないけどな、HAHAHA!!』


 ウゼえ。


『なお、この船には地上絵LOVEのあまり、ナスカ高原に顔面からダイブしたお嬢ちゃんも搭乗してるぜ!』


 見られたぁぁぁ! しっかり見られてたぁぁぁ!


『興奮するのはわかるが、地上絵に傷を付けないでくれよ、れいでぃ? HAHAHA!!』


 笑いに包まれる機内。いたたまれない私達。


「……何かあったの?」


 一人だけスペイン語がわからない紅美だけが、何が起きているかわからないでいた。いや、わからなくて正解かと。



『さぁ、この下が蜘蛛だぜぃ! HAHAHA!』


「蜘蛛ですの!?」

「蜘蛛ですか!?」

「蜘蛛はどこ!?」


 蜘蛛なんぞ見たくないやい!


 ブゥゥゥゥン!


「ど、何処でしたの!?」


「……もう通りすぎたわよ」


『しっかり見えたかい? HAHAHA!』


 見えるか! 速すぎるだろ!


『次は宇宙飛行士だ!』


「宇宙飛行士ですの!?」


 ブゥゥゥゥン!


「何処でしたの!?」


「もう通りすぎたわよ。ていうか飛行機速すぎるって!」


『次は最も有名な地上絵、蜂鳥だぜぃ!』


 は、蜂鳥!? さすがにそれは見たい!


『大サービスで、アクロバット遊覧飛行でお楽しみください!』


「バカかぁぁぁ! 遊覧飛行でアクロバットするなぁぁぁ!」


 ブゥゥゥゥン!

「わあ!」「きゃあ!」「うわ!」

 ブォォォォン!

「ひゃあ!」「きぃああ!」「うわああ!」

『いくぜぃ、必殺のトルネード・スクリュー!』

 ブワブワブワブワブワアアアアン!

「「「うっぎゃああああああああ!」」」


 あ、あれ、紅美が気絶してる!


「よ、よくも紅美を……! ぶっ飛ば」

 グォォォォン!

「きゃああ!」

 ゴロゴロ! ガツン!

「い、いったあああい! も、もうアッタマきたあ! ぶち殺す!」

「ちょっ!? サーチ、何処へ行くんですの!?」

「ぶっ飛ばす! ぶっ殺す!」

「だ、駄目ですよ! パイロットをぶっ飛ばしたら、その後は誰が操縦するんですか!」

「何とかなる!」

「「何ともなりません!」」

『それじゃ最後のアクロバット飛行、必殺コノハオトシだぜぇ!』

 ブグオゥゥゥン!

「「「うっぎゃああああああああ!」」」

 ゴロゴロゴロゴロ!! ガツンガツンガツン!


 通路ですったもんだしていた私達がどうなったか……言う間でもない。



『HA……HA……HA……』


 空港に降りてから、パイロットをフルボッコして吊るしておいた。


「……たく、ムダなお金を払ったわ……」


「サーチ、私途中から寝ちゃったんだけどさ、何かあった?」


「…………………………何も」


 ……天然って強いわ。

こんな遊覧飛行はあり得ませんので。

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