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第一話 ていうか、遠い遠いマチュピチュ……バスに揺られてウトウトしてたら、やっぱり騒ぎが。

 メキシコシティからリマへ。で、マチュピチュへ行くだけなら飛行機で一時間くらいなんだけど。


『ナ、ナスカとチチカカ湖へですか!? 体力に自信はありますか?』


 体力?


『……ナスカまではバスで七〜八時間、マチュピチュの経由地クスコまでは約一日。更にチチカカ湖までとなりますと、+六時間は必要になりますよ?』


『い、一日半バスに乗りっぱなしですの!?』

『さ、流石にそれはご遠慮申し上げます』


 しかし。


「ナスカへ行く為なら我慢あるのみ! サーチ、私の心は一つよね!?」

「温泉のためならバスくらい何のその! 紅美、もちろんよ!」 『それでお願いします!』

『『サ、サーチ!?』』


 ヴィーとナイアがスペイン語でつっこんできたけど、私達を止められる者はいない。



 ブオオオン

 ゴト ゴトゴト


 ……とは言ったモノの、ヒマだ。バスに揺られ始めて二時間ほどで、いつまでも続く地平線に飽きた紅美とヴィーは早々に寝てしまい。


「……ちゃんと付いてきてるかしら」


 バスで酔うことを恐れたナイアは、上空をホウキで飛んで付いてきている。お尻が痛くなったらバスの屋根で休むそうだ。見つかるなよ。


「ふぁ〜あ……ヘタに寝れないのも考えモノよね……」


 ペルーもあまり治安がいいほうではない。バスなんか利用してると、荷物の置き引きや寝てる間のスリなんかは日常茶飯事。


 チャキッ


『はーい、撃たれたくなければ、その手を引っ込めなさーい』

『な、何で日本人がグロックを!?』

『質問に答えなさーい。撃たれるか、手を引っ込めるか、どっち?』

『手を引っ込めます』

『はい、血を見ないで済んだわね。今度何かしてきたら、遠慮なくぶっ放しまーす』

『……ちっ、ついてねえ』


 紅美のカバンに手を突っ込もうとしてた男は、舌打ちして私達から離れていった。ちなみにグロックは≪偽物≫(イミテーション)で作ったハリボテだ。


「……サーチ、あの男、少し痛い目に会わせますか?」


「ヴィー、起きてたの?」


「流石にあれだけ接近されれば」


 紅美の隣だしね。ちなみに窓側にヴィー、通路側に紅美、通路を挟んで一人で座ってるのが私。


「……ならビリッと」


「わかりました。≪極小聖雷弾≫ア・リトル・ホーリー・エレキバレット

 バチィ!

『ぐがっ!?』


 男は少し身体を揺らしてから気絶した。


「ナイス、ヴィー。結構痛そうだったわね」


「その方が良いかと思いまして」


 愛してるぅ、ヴィー。


 ドンドン! ドンドン!


 ドンドンって……げぇ! ナイア!? 急いで窓を開ける。


「な、何してんのよ! バレるでしょ!」


「申し訳ありませんが、それどころではありませんわ。このバスを追ってきている車が居ますわ」


 追ってきてる?


「……それってただ行き先が一緒なんじゃ? この道、かなり先まで一直線だし」


「行き先が同じでも、目出し帽を被って銃で武装なさらないのでは?」


 ……確かに。


「……こっちには一般の客が二十人前後、しかも丸腰。人質に取られたら手の出しようがないわね……仕方ないか。ヴィー、紅美をお願いしていい? 私とナイアで強盗をシバき倒すから」


「わかりました。御武運をお祈りいたします」


 それほどの相手でもないけど。


「じゃ、ナイア。あんたのホウキに掴まらせてもらうわよ」



『お、おい、何だありゃ』


『ホウキで空飛んでるぞ!? ま、魔女だ!』


『……ん? ホウキに掴まって何か来た……………お、おい! こっちに突っ込んでくるぞ!! うわああああ!』


 ガチャアアアアン!



『はーい♪ 皆さん、手を上げてくださいねー♪』


 再びなんちゃってグロックを向ける。全員唖然としてるらしく、ピクリとも反応しない。


『……ちょっと。銃が見えないの? 手を上げなさいっての』


「ササササーチ! 前、前ですわ!」


 前って……道路を外れて、谷にまっしぐら…………って、谷ぃ!?


「うっぎゃあああああ!」


 急いで車から飛び降りる。と、同時に。


 ブウウウゥゥゥン………ずっどおおん!


 強盗の車は空を飛び、重力に引っ張られて谷底へ落ちていった。ありゃ助からないわ、チーン。


「ふ、ふぅ……間に合った」


「大丈夫ですの?」


「あ、うん。ケガはないけど……バスは遥か彼方まで行っちゃったわね」


『よんだ〜?』


「ドナタんじゃなくて彼方。か・な・た!」


『な〜んだ……またねる』


 そう言ってナイアの帽子の中へ潜り込んだ。正直、すっかり忘れてたわ。


「ナイア、私を乗っけて飛べる?」


「出来ますわよ。但し、スピードは格段に落ちますわね」


「どれくらい?」


「車に例えますと……50㎞/hくらいですわ」


 う〜ん……バスに追いつくのはキビしいか。


「なら……何らかの車に乗るしか……」


 ブッブー! ブオオオン!


 ……あ、ちょうどいいタイミングでトレーラー。


「ね、ナイア。あのトレーラーに並走してくれない?」


「まさか……あの車に乗るつもりですの!?」


「まさか」


「そ、そうですわよね」


乗っ取るの(・・・・・)


「はいい!?」



『フンフフンフフーン♪』

 どんっ

『ん? 屋根に何か乗ったか?』

 カチャ

『はーい、動かない』

『な……!』


 いつの間にか助手席に座っている私に、目を剥く運転手。


『このまま速度を上げなさい』

『ど、どうか命だけは……』

『撃たれたくなきゃさっさと最高速!』

『は、はいい!』


 ブオオオン! ブルルルル!


 ごめんなさい運転手さん。マジでごめんなさい。


『もっと! もっとアクセルを踏み込めぇ!』

『ひ、ひええ!』

『何人たりともあんたの前は走らせないのよ!』

『何じゃそりゃああああああああっ!?』


 半泣きになりながらも運転手さんは必死で運転してくれて、ついに私達が乗っていたバスに追いついた。


『……よし、バスと並走しなさい』


『は、はい!』


 ブロロロ……


 ……よし、頃合いか。


『運転手さん』


『は、はい』


『さんきゅー!』


 百万円相当の金塊を渡す。


『な……よっしゃあ! お嬢ちゃん、最後まで付き合うぜぇ!』


 いきなりやる気になりやがったよ!


『ていうか、私がバスに飛び移るまで並走してくれれば無問題!』


『任せとけええ!』


 ムダにやる気な運転手さんに引きつつも、トレーラーの屋根に登る。


「うっわ、運転手さん、ホントにギリまで近づけてくれたよ……よっと!」


 おかげで難なく飛び移ることができた。


「ありがと〜〜!」


 手を振ると運転手さん、窓から手を出して親指を立てて応えてくれた。おうおう、カッコいいぞ。



 コンコン


 私が窓を叩くと、ヴィーが開けてくれた。すぐに中にすべり込んで、窓を閉める。


「う……ううん……ふぁあああ……あれ? 今何時?」


「おはよ、紅美。もうすぐ夕方よ」


「夕方……まだまだ先なのねぇ〜……疲れた〜……」


「……私はもっと疲れたわよ」


「何か言った?」


「いーえ」


 バスの中はずっと平和だった……白目を剥いたスリ以外は。

強盗なんて滅多にありませんので。念のため。


明日は休み。エルフィンお婆様でお楽しみください。

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