第十九話 ていうか、穢れを撒く者、その正体は……?
「け、穢れを撒く者?」
「サーチ危ない!」
どんっ!
「うわっ!?」
ギュン! びしっ!
「あうっ!」
「ヴィ、ヴィー!」
「うう……だ、大丈夫。大丈夫です……」
私をかばったヴィーの顔を黒い弾丸みたいなモノがかすめ、血を流して倒れる。目の上をやられたみたいだけど、すぐに≪回復≫をかけてるから大丈夫なようだ。よ、良かった……。
「く……! 何なのよ、あの黒いヤツは!?」
「サーチ、気をつけてください。アレは無限に今のモノを生み出してきます」
「はあ!?」
「多分サーチは知らないと思います。穢れを撒く者は、そもそもモンスターではありませんから」
「モンスター……じゃない?」
「はい。言うなれば……現象、と言った方が良いかと」
穢れを撒く者。
出現する場所は一切不明で、兆候すらない。ただ黒いモノの大量発生が起きることによって出現が確認される。
ただただ黒いモノを撒き散らし、辺り一体に強力な病や毒を媒介する。その種類も様々で、稀に未知の病を撒く。
そして数日ほどで突然消失する。黒いモノも一つも残すことなく消えてしまい、残るのは病と毒のみ……。
「た、確かにモンスターではないわね……対処法は?」
「穢れを撒く者の中心部には、魔力の固まりのような物体が漂っています。それを破壊すれば……」
「オッケイイ〜……! こいつは私が何とかするから、ヴィーもナイアも下がっててくれる?」
「「え?」」
「だから、私一人で何とかするっつってんの」
一瞬私が何を言っているのか理解できなかったらしく、しばらく間をおいてからヴィーとナイアは反応した。
「サ、サーチ、幾ら何でもそれは無茶ですわ!」
「そうです! あんな素早いモノ、なかなか反応は……」
「そう?」
ブゥン! ひょい
「「……え?」」
「さっきは油断してたけど、どこからか飛んでくるとわかってれば……よっと」
ブゥン! ひょい
「……避けるのはわけないわ。大体あんな音立てて突っ込んでくるんだから、気がつけないわけがない」
ブゥン! ブゥンブゥン!
「ほっ、はっ、ほっ」
ひょいひょいひょい
「……ほら。こんな感じで」
音もなく飛んでくる投げナイフとかに比べたら、こんなの屁でもない。
「「…………」」
「じゃあ下がって下がって。向こうに紅美を眠らせてるから、そこで結界張って待ってて」
「「わ、わかりました……」」
二人は呆然としながら退いていった。何をビックリしてたのかな?
「……さてと。まずは中心に近づいてみますか」
あれだけ動物がゾンビ化してるとなると、今回バラまいてるのはゾンビ化の呪いっぽいわね。
「なら私には通用しない」
伊達に≪毒無効≫を持ってるわけじゃない。なら黒いモノに当たらないようにさえすれば、中心に近づくのは難しくない。
「そんなに大変じゃないと思うけど……何でヴィーとナイアはあんなに手こずったのかしら?」
……その答えは、中心部に近づく前に発覚することになる。
「ぎぃぃああああああああああっ!!」
久しぶりに全力で悲鳴をあげ、久しぶりに全力逃走した。
「な、な、何であんなにゴキブリがいるのよぉぉぉ!?」
ヴィー達の結界内に半泣きで逃げ込んだ。
「……ワタクシ達が苦戦した理由、わかりまして? 直接攻撃ができないから困ってるんですの」
納得。非常に納得。
「な、なら、ヴィーの聖術で吹っ飛ばしちゃえば……」
「私達のところまで吹っ飛んできますよ、ゴキブリが」
うああ……無理だぁ。
「で、ワタクシ達なりに考えたのが……包み焼きで全滅させる作戦ですわ」
包み焼きって………ああ、読めたわ。
「穢れを撒く者を結界で被って、その中に聖術をぶち込む?」
「そうです。≪聖火波≫を大量に撃ち込めば、流石のゴキブリも全滅するだろうと」
そんなん、魔王でも危ないわよ。
「なのですが……やはり近寄る事もできず……」
…………はぁ、仕方ない。
「なら作戦の分担を変えましょう。まずはヴィー、あんたは火系聖術の準備」
「え?」
「ナイアは上空からの殺虫剤爆撃。あくまで私の援護だからね」
「はい?」
「あとは私が突っ込んで、結界を張れるだけの聖杭を打ち込むわ」
「……あ!」
「聖杭ですの!」
聖杭ってのは、円形に地面に打ち込むと簡易結界を発動できる、野営の際のモンスター徐けだ。
「聖句の刻んである面を内側に向ければ、普通とは逆に内側から外に出られなくなるでしょ?」
「そ、そうですわね! まさかそのような使用法があり得るとは……!」
「ヴィー、穢れを撒く者って規模は拡大する?」
「え、ええ。周りの魔力を吸収して、どんどん大きくなります」
なら急がないと……!
「今の作戦で決定! 私はすぐに飛び出すから、二人とも早く動いて!」
「え!?」「ちょっと待っ……!」
二人が何か言うのを無視して結界を飛び出した。
「うりゃああああ!」
ぴしっ! ぱしぱし!
両手にミスリル製のハエ叩きを持って、飛んでくるゴキブリを全て叩き落とす。
「は、早く……! ナイア、早く……!」
しばらくすると。
モクモクモク……
あちこちから煙が発生し、次々にゴキブリが死んでいく。これぞナイアの援護爆撃、空から殺虫剤投下!
……要はあれ、水を入れると霧を吹き出すヤツ。
「サーチ! まだ要りますの!?」
「視界が悪くなるから、とりあえずこれくらいで! 中心部はどの辺り!?」
「サーチの位置から北東へ10m先ですわ………ぎゃああああ! こっちに飛んでこないでくださいまし!」
ゴキブリに追われてホウキを上昇させる。あんたはまだマシよ。私はゴキブリの真っ只中だっつーの!
「よいしょ! よいしょ!」
ザクッ! ザクッ! ザクッ!
生き残ってるゴキブリを踏んでは避け、踏んでは避け。どうにか結界に必要な十二本の聖杭を打ち込む。
……パアアアァァァ……!
「よし、結界作動! ヴィー、今よ!」
「はい!」
バヂヂッ!
ヴィーがムリヤリ手を結界に突き刺す。
「ぐぅぅぅ……! ホ、≪聖火波≫!」
そして聖術が発動し、結界内部は業火に包まれた……。
ばしっ!
「……よし、これで最後の一匹ね」
結界内部を焼き尽くしてる間、外に残ってたゴキブリを退治して回る。魔力反応のあるゴキブリなんてそんなにいないから、見つけるのは簡単だった。
「ヴィーさん、手の治療は終わりまして?」
「ええ。どうにか元に戻りました」
突っ込まれていたヴィーの手は業火の中でこんがりと焼けていて……相当痛かっただろうけど、弱音一つ吐かなかった。えらい。
「あ、そろそろ火が尽きてきましたわ」
ナイアの言う通り、聖術の火はほとんど消えており、内部が見えてきていた。
「……ゴキブリの燃えカスなんか、見たくないんだけど……」
そう言って確認のために近づいてみると。
……ゴオオオオオオオ……
巨大な空間の扉が開いていた。
G!




