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第十二話 ていうか、マーシャンとエイミアの重大な決意?

「しっかしフィンガーリングに属性のせられるとはな……」


 翌日。

 リルを伴ってギルドに来たんだけど、ギルマスは不在だった。受付の人が「ちょっと長引きそうで……」と言葉を濁していたのが気になる。そんなに強く殴ったつもりは無かったけど……「メキッ」ていってたのヤバかったか。


「あくまで『たぶん』だから確実じゃないけどね。これで何とかなるわ」


「あ、忘れてた。マーシャンはいいのか?」


 あっ。



「ヤッバいなあ……すっかり忘れてた」


「私も人のことは言えねえ……」


 さすがのリル(つっこみ役)も今回は不覚だったわね……。


 バタバタバタ……


 あれ? エイミア?


「サーチ! リル!」


「お前、買い出しに行ったんじゃねえのか?」


「あ、それは終わりま……じゃなくて!」


「エイミア、あんたバタバタ走ると男性陣が注目するからやめなさい」


 ほら、すれ違った冒険者が屈んでるじゃない。


「わかりましたよう……じゃなくて! 話を逸らさないでください!」


 おーおー、焦ってるね。からかうと面白い。


「ごめんごめん。で、どうしたの?」


「マーシャンがいなくなったんです!」



「仕方ない……エイミアは治療所の中を探して! 私とリルは手分けして街を」


「こら! ここは治療所だ! 静かにせんか!」


 マーシャンを探す話でギャーギャー言っていたら先生に叱られた。


「す、すみません……」


「……お前らサーシャ・マーシャとパーティ組んでやっているという物好き(・・・)だな?」


 ……マジか。私達まで珍獣扱いされてるのか。


「組んでやっているんじゃありません! 私達の意志です! マーシャンは私達の大切な? 仲間です!」


 真面目なエイミアが言い返す。途中の? が気になるけど。


「ほお……物好きもここに極まれり、か……サーシャ・マーシャなら闇深き森(ディープフォレスト)へ向かったぞ」


 へ!?


「たった一人で!? な、なんてことだ……」


「何故止めてくれなかったんですか!」


「あれでもA級冒険者だ。心配はいらん」


「心配してるのはマーシャンのことではなく……森が焼けちゃわないかとか、たまたま森に来てたりする可愛い女の子の貞操とか……」


 先生はしばらく固まって。


「…………お前達はサーシャ・マーシャのことを正しく(・・・)理解しているな」


 そう言って座るよう促した。


「今回に限っては本当に心配いらん。サーシャ・マーシャはおそらく世界一闇深き森(ディープフォレスト)に精通している。無茶はせんよ」


「いや、マーシャンの存在そのものが無茶っていうか……」


「…………本当によく理解している」


 先生はそう言いながらお茶を振る舞ってくれた。ていうか、すっかり和んじゃったけどいいのかな……。


「あの森はサーシャ・マーシャの故郷であり、夫の墓所でもある。そんな無茶はするわけがない」


 ……。

 …………。

 ………………ええ?


「「「ええええええええええええ!!!?」」」


「だから静かにせんか!」


 あ、すいません……じゃなくて!


「マーシャン結婚できたんですか!?」

「マーシャン男に興味あったのか!?」

「マーシャンってダンジョン出身!?」


「だから静かにせんかああああああっ!!」


 ごん! ごん! ごん!


「いた!」「きゃ!」「ふぎゃ!」


 先生は息を整えてから。


「……今度騒いだら足削って身長短くする(・・・・・・・・・・)からな」

「「「ガクガクブルブル……」」」


「まあ……俺から話せることは以上だ。心配ならとっとと準備を済ませて追うことだ」


 そう言って立ち上がる。

 その時に。


「……お前らがあいつを支えてやってくれ」


 ……そう呟いた。



「急ぎましょう!」


「エイミア、焦っちゃダメよ。これから向かうダンジョンは“八つの絶望”ディスペア・オブ・エイトの一つ。準備は入念にしないと」


「で、でも」


「今行ったところでゴースト系が出てきたら詰みだ。対抗手段も見つかったばかりだし、もう少し時間はいる」


 そこまで言われるとエイミアも何も言い返せなくなり……涙目で俯いた。


「マーシャン……何で一人で……」


 正直何故マーシャンが一人で闇深き森(ディープフォレスト)へ向かったかはわからない。でも理解はできるかもしれない。たぶん、マーシャンは過去との決着を着けるつもりなんだろう。


「……旦那さんの死の理由と故郷の現状が何か関わっているんでしょうね」


「故郷の……現状……」


緑深き森(ディープフォレスト)闇深き森(ディープフォレスト)に変わった理由……それにマーシャンの旦那さんが関わっていたのなら……」


「まさかマーシャンは一人でダンジョン攻略を!?」


「私がマーシャンなら……そうする」


 それこそ無茶だけどね。


「ダンジョン……攻略……」


 エイミアが小さい声でそう呟くと。


「なら、私達がマーシャンの決意を邪魔してはダメですね」


 ……立ち上がった。


「マーシャンの想いを遂げさせてあげましょう! 私達でマーシャンを援助しましょう!」


 え、援助?


「マーシャンにわからないように! 邪魔しないように! こっそりとマーシャンが進む道の露払いをしましょう!」


 ……はい?


「マーシャンが一人で闇深き森(ディープフォレスト)を攻略するのは難しいかもしれません! ですが!」


 演説するエイミアの拳にムダに力が入る。


「私達が厄介なモンスターを排除し、道無き道を切り開き! 無傷でマーシャンがダンジョンコアまでたどり着ければ! マーシャンの想いは成就するのです!」


 ……うわー……どっかの怪しい新興宗教の教祖みたいになってるわ……。


「ならば準備は必須! 私は食糧を確保してきます! ……マーシャン待っててねええぇぇ……」


 ……ドップラー効果を伴いながらエイミアは走っていった。

 …………。


「私達は……」

「マイペースでいこうか……」


 ……二人揃ってため息をついた。



 その頃。

 闇深き森(ディープフォレスト)では。


「サーチぃぃ! エイミアぁぁ! リルぅぅ! どこにおるんじゃあああ!」


 ……お互いに行き違いになっていることに気づくのは……かなり先です。

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