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第十七話 ていうか、カンクンのリゾートではしゃぎ回る。

「あーあ、イヤんなっちゃう! あんな偽情報に踊らされて、貴重な時間をムダにしちゃうなんて!」


 翌朝には野営地を撤収し、一旦メキシコシティに戻ることになった。とりあえずは一からやり直しだ。


「まさかこのような事態になろうとは……。流石に想像できませんでしたね」


「メキシコシティに引き上げてから、どうするんですの? 直ぐにチチェン・イッツァへ出発するんですの?」


「まずは下調べしてからよ。最近チチェン・イッツァ周辺で奇妙なことが起きてないか、徹底的に聞き込みよ」


「すぴーっ」


 有無を言わさずに連れ帰ってきた紅美は途中までふてくされていたけど、チチェン・イッツァに行くと聞いたとたんに元気を取り戻し、「私も行く!」と言ってから寝入った。たく、子供かっつーの。


「あ、見えてきたわ。メキシコシティよ」


 時間をムダにした気分だったけど、はしゃぎ疲れて寝た紅美を見ていると、こういうのも悪くないような気がした。毎回は御免だけど。



 何人かに聞き込んだところ、どうやらチチェン・イッツァで間違いないみたいだ。最近は妙な動物の目撃情報が相次いでいるらしい。たぶんモンスターだと思う。


「これで決まりね。明日一番でカンクンへ飛ぶわ」


「かんくん?」


「有名なリゾート地。そこからバスの直通便が出てるから、それで行けるわ」


「え〜っと、かんくんかんくんカンクン……あ、これですね。綺麗な海と遺跡が点在するリゾート地なのですね」


「あら、本当に綺麗ですわね」


 早速検索したヴィーのタブレットを覗き込むナイア。この二人、何だかんだ言って仲がいい。


「今度はカンクン! 高級リゾート地カンクン! いやっほぅ!」


「……紅美、あんた泳ぐ気満々でしょ」


「あったり前じゃん! わざわざカンクンまで言って泳がないなんて、エジプト行ってピラミッド見ない並みにあり得ないわ!」


 ま、言いたいことはわからんでもない。


「ちょっとくらい泳ぐくらいは全然構わないわよ。なんなら私達がチチェン・イッツァに行ってる間、カンクンで遊んでてくれても構わないし」


「あ、それはダメ。チチェン・イッツァには私も行く」


 え、行くの? できればカンクンに残っててくれたほうが、私達もチチェン・イッツァの調査がやり易いんだけどな。


「……ダメ?」


 うぅぅ! その上目遣いは止めなさい!


「……コーミ。実は私達はチチェン・イッツァ以外にも遺跡を調査する予定なのです」


「え?」


「実際にトゥルムという大規模な遺跡もありますし、両方調査したいのですが……何せ時間的制約が厳しく、両方回るというのは難しい状態で」


「は、はあ……」


「ですから、サーチにはカンクンに残ってもらい、トゥルム遺跡の調査をしてもらいます。コーミにはそのお手伝いをお願いしたいのですが」


「えええっ!?」

「何で!?」


 ん? でもちょっと待てよ……。



 青い空……。

 照りつける太陽……。

 透き通る透明度の、綺麗な海。


「サーチ、行くよぉぉ! あっははははは!」


 ……そしてはしゃぎ回る、黒ビキニを着た紅美。その激しい動きに、豊かな胸が揺れまくり………って!



「そんなんダメェェェ! 私より大きいなんてぇぇぇ!」


「サ、サーチ? 大丈夫? もしもーし?」


「どうですか、コーミ? チチェン・イッツァの真ん中で、このようにサーチが奇声を発するのは、流石に問題ありませんか?」


「…………そうね。チチェン・イッツァにも心惹かれるけど、トゥルムの綺麗な海も魅力的だし。何より」


 まだ頭を抱えて叫ぶ私を見て。


「……従姉妹として放っておけない。サーチを正しい道に戻さないと」


 こうして。

 私の知らないうちに、私・紅美組とヴィー・ナイア組に分かれることとなっていた。



 で、次の日。いきなりカンクン。


「な、何で二手に分かれるのよ!?」


「まあまあ、いいじゃないですか。チチェン・イッツァは私達に任せて、紅美との思い出を作ってください」


 うっ!


「そうですわ。こんな綺麗なリゾート地で、(コーミ)と同じ時を過ごすなんて最高ですわよ?」


 ううっ!


「サーチ、私、あなたと一緒にいたいなぁ……」


 ずっきゅぅぅぅん!


「わかったわ。紅美と一緒ならばマリアナ海溝の底までだって付き合うわ!」


「そ、それはちょっと……」


 そんな私と紅美を見て、ヴィーとナイアはニヤニヤしてる。


「あ、あんた達も気をつけて行きなさいよ」


「勿論です」

「大船に乗ったつもりでいてくださいまし」


 そう言ってヴィーとナイアはバスターミナルへと歩いていった。


「さて、私達もトゥルム遺跡に向かうわよ」


「へ? カンクンのすぐ近くじゃないの?」


「そうよ。チチェン・イッツァへは二、三時間はかかるけど、トゥルムも似たようなもんよ。だいたい130㎞はあるかな」


「え!? そ、そっちも二、三時間かかるじゃん!」


「まーね。たぶんヴィー達は向こうで野営するつもりだろうし、私達もトゥルム近くのホテルで泊まるわよ」


 予算オーバーにはなるが仕方ない。母娘の思い出作りの前には、そんなもんは越えられない壁ではない。


「またレンタカーでも借りて……おっと」


 危ね。男の人とぶつかるとこだった。


 どんっ!

「きゃ!」


 おぅ、しっと。紅美がいたんだった。


『おい、危ねえじゃねえか。気を付けろ!』

「え、えーっと……英語じゃない?」

「紅美、メキシコはスペイン語圏よ!」

「え、あー、えー……ぱるけえすぱーにゃ?」

『は? スペインの公園??』


 紅美、それは日本のスペインテーマパークだから!


「え、えっと……まるしぇ? ましぇり? うぉーあいにー?」


 もはや意味わからんわ!


『何だこいつ、頭おかしいみたいだな』

『放っておいて、行こうぜ』


 そう言って地元のメキシカン兄さん達は去っていった。よかった、紅美がバカで……。


「紅美、今度からちゃんと前見て歩こうね?」

「は、はーい」



 レンタカーを借りて一路トゥルムへ。海沿いの高級ホテルにチェックインし、早速海へ……ついでにトゥルムへ……繰り出した。


「いやっほおおおぅ! 海よ海よ私の海よぉぉぉ!」

 ばちゃばちゃばちゃ!


 結構大胆な縞ビキニを来て、紅美が海を走る。くそ、揺れる胸は私より大きい。


「うりゃああああ!」

 だっぱああああん!

「きゃあ! あっはははは、サーチもはしゃいじゃって!」


 似たような縞ビキニの私も、紅美に負けじと胸を揺らして走り回った。


「うりゃうりゃうりゃ!」

 バシャバシャバシャア!

「うわっぷ!? サーチ、やったわね!」

 ばしゃあん!

「うっぷ!? 何くそ! 垂直落下式ブレーンバスター!!」

「うわわわ!? ちょっとちょっと!」

 どぱああああん!

「いい痛い! 背中痛い!」

「わっはっはっは! びくとりぃぃぃわきゃ!?」

「これならどう? ジャーマンスープレックス!」

「きゃあああ!」

 どばあああん!


 こうして。

 私と紅美はつかの間の休暇を楽しんだ。



 但し、つかの間だった。

 ……三日経っても、ヴィーとナイアが戻ってこなかったのだ。

急展開。

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