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第十五話 ていうか、本場のルチャ・リブレにみんな興奮しまくって、私以上に暴走しまくる。

「んっふっふっふ〜♪」


「……どうしたんですの、サーチは? 朝からずーっとニヤニヤしてて、気持ち悪くて仕方ありませんわ」


「そうなんですよ。実は空港に来るまでの車内でも、ずーっと鼻歌を口ずさむ始末で……」


 一人雑誌を見て座っていた紅美が口を挟む。


「……もしかしてサーチって、プロレスが好きなんじゃない?」


 紅美の言葉に、ヴィーとナイアは顔を見合わせた。


「そう言えばサーチは熱烈なプロレスファンでしたわね」

「好きな男性のタイプは『リングに立てるシャーロキアン』と豪語するくらいですから、余程でしょうね」


「…………ホームズ好きなプロレスラーって事? 随分とピンポイントな……。でもそれで納得したわ。メキシコは『ルチャ・リブレ』……いわゆるメキシカンプロレスの本場だもの「そのとぅぅぅおり!」うわ、ビックリした!」


 いきなりハイな奇声をあげた私から逃げる紅美。


「メキシコといえばルチャ・リブレ、ルチャ・リブレといえばメキシコ。レイ・ミステリオに代表される多彩で華麗なロープワークの原点は、ルチャ・リブレにあると言っても過言じゃないわ!」


「「「は、はあ……?」」」


「だけどルチャ・リブレは投げ技・関節技も多彩で、小柄なレスラーが技術を磨くために留学することもあるくらい。そしてルチャ・リブレといえばマスクマンよマスクマン!」


「「「……??」」」


「マヤ文明の流れを汲んだメキシコではマスクマンは神聖視され、マスクマンは人前ではマスクは脱がない、という風習もルチャ・リブレが始まりとされている。なかには自分の葬式の際、マスクをしたまま葬られたレスラーもいるくらいなんだから!」


「「「…………」」」


「そう、私はいまから全プロレスファンの憧れの聖地、ルチャ・リブレの本拠地アレナ・メヒコに行くのよ! ああ、憧れのアレナ・メヒコ〜」


「サーチ、飛行機に乗り遅れますわよ」


「……あ、あれ? ちょっと、置いてかないでよ! ていうか、紅美までいつの間にかいないし!」



「ルチャ〜♪ ルチャルチャ〜♪」


「……ちょっと、サーチ。少しは静かにしてよ。全然眠れないじゃない」


「え、ごめんごめん。ルチャッチャ、ルチャ〜♪」

「……≪強制睡眠≫(ドリーミング)

「ルチャルくかーっ」


「あ、あれ? 寝ちゃった?」


「さ、紅美、サーチは放っておいて、少し休みましょう」


「う、うん……」


「くかーっ、るちゃー」


「……寝ながら言ってるし」



 何故か途中で寝ちゃったんだけど、私達を乗せた飛行機は今回は(・・・)墜ちることなく、無事にメキシコシティに到着した。今さらだけど、メキシコの首都がメキシコシティって、結構安直よね。


「さぁさぁ、全プロレスファンが憧れの地、メキシコシティにやってまいりましたー!!」


 メキシコだからってヒゲ生やしたオッサンがポンチョ着て楽器をジャカジャカ弾いてるわけじゃない。と思ってたら空港にいるし!


「私はメキシコって言えば、サボテンとアレよね」


 うん、世間一般的にその認識で間違いない。


「だけど私はルチャ「あーはいはい。ヴィーさん、ホテル探しましょう」……って、おーい………………紅美冷たくって、母さん悲しい」


「ん? 何か言った?」


 いえ、何でもありません。


「まずは太陽のピラミッドがあるティオティワカンへの行き方ですね」


「あ、それなら直通バスがあるから簡単よ」


「あ、そうなのですか?」


「ただ観光客いっぱいいるから、今回もレンタカー使って行くのが無難ね」


「となると、やっぱり夜に?」


「ええ。ストーンヘンジと同じで、夜の間だけ遺跡全体に人払いの結界を張って、レンタカーに寝泊まりしながらの攻略がベストかな」


 なら早速レンタカーを探してくるか。できればキャンピングカーがあればベストなんだけど。


「あの〜……何でわざわざ夜に太陽のピラミッドに?」

「「「あ」」」


 しまった、紅美の存在を忘れてた!


「い、今からすぐにアレナ・メヒコに行くわよおお!」


「へ? あ、は、はい!」

「行きますわよ! 華麗なろーぷわーくが見物ですわ!」


「へ? ナ、ナイアさん、何で棒読み……あれあれあれぇぇぇぇ!?」


 ……端から見たら、おもいっきり拉致っぽく見えたと思う。



 わあああああっ!


「さあ、来たわよ来たわよ! 全プロレスファンの聖地、アレナ・メヒコ!」


「す、凄い熱気ですね!」


 お、ちょうど試合が始まるわ!


 カァーン!


 ばしばしばしっ!


 おお、いきなりの打撃戦! 最初から激アツだわ!


「……あの、サーチ」


「何?」


「何故胸板ばかり叩き合うのですか? 顔や腹を狙った方が、効率的にダメージを与えられると思うのですが」


「あぁ、それはね、これが見せ場でもあるのよ」


「はい?」


「プロレスってのはね、ショーの一種だと考えればいいわ。要は戦いを見せてお客さんに喜んでもらうのよ」


「はあ……」


「例えばさ、一撃必殺で決まる格闘技の場合、KOする瞬間が醍醐味じゃない?」


「ま、まあ、そうですね」


「プロレスでは基本的にKOはないわ。小技の出し合いに始まって、投げ技の応酬や関節技でお互いに攻めて、大技で相手を追い込み、フィニッシュホールドで相手に止めを刺す。その過程全てがプロレスの見所なのよ」


「……つまり、ストーリーがある戦いのショー、というイメージですか?」


「お、わかってきたわね。その通りよ」


 ちょうどそのときに空中殺法が決まり、会場が沸いた。


「……つまり、わざと相手の技を受けているわけですか」


「そうなるわね。でもわざと受けるったって相当なダメージだから、ちゃんと身体を鍛えて受身の練習してないと、マジで死ぬわよ」


「……でしょうね……って、あれ? 紅美がいませんよ?」


 紅美がいない?


「あれ、ナイアもいないわね……どこに行ったのかしら」


「サ、サーチ! サーチ!」

「何よ、紅美はどこに………げぇぇ!」

「こんのやろ! こんのやろ!」

 バシバシバシ!

『ノ、ノオオオ!』


 何と興奮した紅美が、パイプイスでレスラーをメッタ打ちに……ていうか強いな!


「これが真のエメラルドフロウジョンですわ!」

 ごすどしぃ!

『ぐげぇ!』


 ナ、ナイアは三倍近い相手を持ち上げて、マットに突き刺してるし……ていうか、あんたが何でエメラルドフロウジョン知ってるのよ!


「うりゃ! うりゃ! うりゃ!」

 ごっごっごっ!

『ノ、ノオオオ!』


「ちょっと紅美、どこから栓抜き持ってきたのよ!」


「これが真のファルコンアローですわ!」

 ずごげっ!

『ぐげぇ!』


「ナイア止めなさい!」


「甘いですよ! バーニングハンマーとは、こうやるんです!」

 がごっ!

『ぎゃあ!』


「ヴィーまでぇぇぇ!? ていうか、リング下はコンクリートだっつーの!」



 一時間ほど散々暴れまわった私達は、もれなくアレナ・メヒコに永久的に立ち入り禁止になった。


「せ、聖地に入れなくなっちゃった……うわああああん!」


「まあまあ、落ち込まないでください」


「誰のせいだよライトニングソーサラー!」

 ごげっ!

「おぶ!?」


「ヴィ、ヴィーさん!? か、完全に目を回してますわ……」


「あんたにもライトニングソーサラー!」

 ぶごしっ!

「ふみゅ!?」


「ヴィーさんにナイアさんまで!?」


「今回は紅美も許さんライトニングソーサラー!」

 べごしっ!

「あぎゃ!」


 ……ふ、ふふふ。モンタ師匠。指導してもらったライトニングソーサラー、キレッキレです……うわああああん!

あくまでフィクションですから!

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