第十三話 ていうか、憧れのモンタ師匠に、私のライトニングソーサラーを見てもらうんです、うっほほーい!
ずだーん!
「よし、次ぃ!」
「オスッ!」
「赤コゥゥゥナァァァ……108㎏、超日本プロレス所属……ボンバー、よ・し・ざ・きぃぃぃぃ!」
「ウィィィィ!」
「青コゥゥゥナァァァ……121㎏、烈日本プロレス所属……カルネヴァリィ・アァァァロォォン!!」
「シャアアア!」
「ジャッジ、ジャッジ、ジャッジ…………ラウンンンンド、ワァァン……ふぁいとあ痛あああ!?」
「こら、テメエ! 勝手に人ン家のマットで試合始めてんじゃねえよ! ていうかよ、お前らもノリノリで付き合うな! さっさと練習に戻れ!」
「「す、すいませぇぇん!」」
「こ、ここでモンタ師匠の乱入あいだだだだだ! ごめんなさいごめんなさいごめんなさあああい!」
……初っぱなから何をしているか、と言うと。
「つーかよ、途中から総合格闘技が混ざってたろ? 何だよ、『ジャッジ、ジャッジ、ジャッジ』ってのは」
「あはは……ていうか、あの二人もよく付き合ってくれたわよ。名前なんて適当だったのに……いやっほぅ♪ 私も練習に混ぜて♪」
練習中に「吉崎!」「アーロン!」と呼びあっていたので、適当にリングネームを作りました。え? カルネヴァリィって何だって? 適当に呼んだから私も知らない。
ていうか、話が逸れた。私は例のチンピラに絡まれてる最中にモンタ師匠に劇的に出会い、おまわりさんが来て面倒なことになる前に逃げよう、とモンタ師匠に連れ去られ……今現在、プロレス道場にいる。
「……まあ、連れ去った、ってのは全面的には否定できねぇ。謝るよ。けどな……っていないし!?」
「モンタさん、あっちっす」
「あっちって……」
「うっほほーい♪」
「ま、またか! 練習中の弟子達に絡むのは止めてくれねぇか!?」
「「「俺ら、ぜんっぜん問題ないっす!」」」
「揃って鼻の下伸ばしてんじゃねええ!」
「そういうモンタさんも、揺れまくる胸に釘付けぐぎゃああ!」
「余計な突っ込み入れんじゃねえ!」
「うっほほーい! フェイスクラッシャー!」
だぁん!
「あぎゃあ!」
「うっほほーい! クロ○ライ○ー・スープレックス!」
ずだぁん!
「ごほぅっ!」
「うっほほーい! キ○肉ドライバー!」
ずどがぁん!
「あがふぅ!」
「こらこらこら! 次々に練習生をノックアウトするな! つーか、再現不可能な技を連発するなぁぁぁぁ!」
「し、失礼しました……ついハイになっちゃいまして……」
失神した練習生を寝かしてから、ひたすら謝り倒した。
「……いやいや、ク○スラ○ダー・スープレックスや○ン肉ドライバーを再現した過程をぜひ知りたいんだが……」
言葉では説明できない、何かがあるのよ。
「それよりモンタ師匠、助けていただいてありがとうございました」
「た、助けたのか? ただ警察から逃げただけなんだが……つーか、助ける必要があったのはチンピラの方な気が……」
「いやいや、流石におまわりさんには関わりたくないし」
なんせ国籍すら無いしね。
「……で、お前さん、名前は?」
「幸・リサーチって言います。幸せって字と、カタカナで」
「リサーチ? 変わった名字だな」
「あはは、日本にはない名字ですって」
ていうか、そんな名字あるわけないし……たぶん。
「そ、そうか……まあ九が一文字で『いちじく』と読む名字もあるらしいからな……」
そ、そんなんあるんだ……確かに一字で九だけど。
「で、何で絡まれたんだ?」
「ちょっと考え事して歩いてて、ぶつかった相手があのチンピラで……」
「……ちゃんと前見て歩こうな?」
はい、肝に銘じておきます。
「それにしてもあんた、かなりのプロレスマニアだな?」
「はい。モンタ師匠の現住所を知ってる並みには」
「怖いな! つーかよ、俺は住所を公開してねぇぞ!?」
それは「蛇の道は蛇」ってヤツで。暗殺対象の住所を調べるのは基本だったしね。
「それよりも。いろいろ技もできるみたいだな?」
「ええ。隣にいるお兄さんにいきなりコブラツイストかけられるくらいには」
「いででででででででで!!」
「ど、どうやって組んだんだよ!?」
「お、俺もいつの間にか……いででででで! ロ、ロープロープロープぅぅ!」
離してやったけど……背中擦ってニヤついてたので、高速で足四の字。
「いぎゃあああああ!」
「あんた、私の胸が背中に当たってたからニヤついてたんでしょ?」
「そ、それはまあ、男の性……あいだだだだだ!!」
「ぶち折る!」
「お、おい、止めろ! 止めるんだあああ!」
「いでえ! いでええよおお!」
「……お前な、仮にもプロレスラーなら、素人の関節技で泣かされるなよ……」
「びくとりぃぃ!」
「……もう何も言うまい。さ、お嬢ちゃん、早く帰んな。お家の人が心配してるぞ」
……あ、いけね。夕ご飯の買い出しの途中だった。
「あ、あの、サインいただけませんか?」
「いいぜ」
「あ、ついでに他の人達のも」
「「「つ、ついで……」」」
持っていたハンドバッグにサインを貰う。うっほほーい、お宝だぁぁぁ!
「あと、もう一つお願いが……」
「おう、何だ?」
「本場のライトニングソーサラー、一発ください!」
「で、できるか! 素人の、しかも女の子相手に!」
ち。倫理的にもマズいから、仕方ないか。
「な、なら、私のライトニングソーサラーを評価してもらえませんか?」
「いいぜ……って、できるのかよ?」
「はい! でも我流なんで、一回見てほしかったんです!」
「……ああ、わかった。ならリングに上がりな」
「なら……お前、技を受けてやってくれ」
「ウス」
練習生の一人がリングに上がり、膝をついて構えてくれた。
「よし、ならいきます……ライトニングソーサラー!」
べごしっ!
「ぶふっ!」
練習生が倒れる。どうよ!
「……ふむ、技の入り、タイミング。全部カンペキだな」
「でしょ!? でしょ!?」
「だがなぁ……致命的な欠陥がある。おい、効いたか?」
「そ、そうっすね。そこまでダメージはないっすね」
「……ま、これはしゃあないわな。体重がモノを言う打撃技だ、プロレスラーとお嬢ちゃんとじゃ威力に差があって当然だ」
体重か……確かにそれはどうしようもない。けど!
ダダダダ! ずごん!
「へぶぅ!」
どたあああん!
「……体重軽くても、急所に的確に当てれば……話は別よね?」
「……見事だ。よく眉間にピンポイントで当てられるもんだ。けどな」
気絶した練習生を指差して。
「治療費、全員分払ってもらうからな」
「大変申し訳ありませんでした」
「んじゃ、しっつれいしまーす♪」
「おう、今度試合見に来いよ」
「……あの、モンタさん。今の子、スッゲエ逸材じゃないですか?」
「そうだな」
「だったら、ぜひ勧誘を……」
「止めとけ」
「え、ええ? 何でっすか?」
「あれは……プロレスラーの動きじゃねえよ。プロの……本当の人の身体を壊す事に特化した動きだ」




