第十二話 ていうか、日本に帰ってきて紅美を……お・も・て・な・し……しようとしたら……!
久々に戻ってきた拠点のビルは、やっぱり周りの雰囲気からは浮いていた。そらそうか……周りは崩れかけの廃ビルや潰れた商店が並んでるのに、ここだけ真っ白でキレイなビルが建ってるんだから。
「ほえ〜……サーチったら、随分と変わった場所に住んでるのね〜……」
「紅美、一応この辺りは物騒だから気をつけてね」
念のためにビルの周りを一周すると……ほら、やっぱり。ちょうど裏側の窓の外で、黒ずくめの男が気絶していた。
「ここから忍び込もうとしたのね〜……念のために魔術の罠かけておいてよかったわ」
他にもビルに落書きしようとして防犯装置の雷を受けたらしい団体が一組、隣の廃ビルの敷地内で伸びてるのを発見した。
「いつぞやの雷獣の牙、ホントに役に立つわね」
以前に、とあるダンジョンで遭遇したB級モンスター・雷獣。その牙は本体から離れようとも、永遠に強烈な電気を纏い続ける。
その特性を利用して、私とヴィーの共同開発で作ったのがこの防犯装置だ。敷地内に無断で入ったり、ビルに危害を加えようとする輩には、問答無用で電撃を浴びせる。
バリバリ!
「あばばばばばばばばっ!」
そう、こんな感じに……って、えええ!?
「あらら。紅美さんを侵入者と判断したようですわね」
「こ、紅美ぃぃぃぃ!?」
「シビシビシビ……」
「傷は回復しましたけど、しばらくは痺れが残りますよ」
マジですまなんだ。紅美が近づく前に防犯装置を解除しなきゃいけなかったわ。
「まあ、命に関わるような傷ではありませんから、後は半日くらい寝てれば大丈夫ですよ」
そう……なら。
「悪いけど紅美を看ててくれない? 私は夕ご飯の材料を買ってくるから」
「「どうぞどうぞ」」
「……何よ、その含み笑いは」
「いえ、おそらく……」
「愛娘に手料理を振る舞いたいのだろうと……」
「わ、悪い!?」
「「いえいえ」」
く……その含み笑いを止めろっての!
「……あんたらの夕ご飯、超々々激辛にしてやるから」
「「すみませんでした!」」
平身低頭の二人を無視して、表通りに向かった。
「しまったなぁ……ホンニャンに紅美の好物を聞いておけばよかった……」
スーパーをウロウロしながら、メニューを決めかねていた。
「だとしたら、日本っぽい料理にしたほうが……ならすき焼き? しゃぶしゃぶ? うーん……」
ブツブツ言いながら歩いている私を、他の人達が避けて歩いてるのに気づいたのはしばらくあとだったりする。
「どうしようかな〜……」
このときの私はホントに注意散漫だったと思う。
だから。
ドンッ!
「きゃ!?」「うわっ!」
ドサドサ!
人とぶつかって、買い物カゴを落とすなんていう失態を演じてしまった。
「す、すいません! 大丈夫ですか!?」
「痛え! 痛えよおお!」
……はい? いかにも「俺はチンピラ」って格好した兄ちゃんが、床に転がって足を押さえている。
「てめえ、どこを見てやがる!」
「ごめんなさい……」
……これは……もしかすると……。
「おい、よくも兄貴に重傷を負わせてくれたな!」
「ううう……ほ、骨が折れた……」
やっぱり。噂では聞いてたけど、こういう当たり屋ってホントにいるのねぇ……。
「おい、これは治療費と医者料を貰わねえとな」
慰謝料の慰謝は医者じゃねえよ。
「…………はぁぁぁ〜…………」
……情けない。こんなことして弱者から金巻き上げるんなら、もっと金持ちから巻き上げろっての。
「あ、あの、お客様、店内で揉め事は「関係ねぇヤツはすっ込んでろ!」ひぃぃ!」
店の人か、ちょうどいい。
「すいません、ちょっとこの買い物カゴ預かっててくれます?」
「え? あ、はい」
「店には迷惑かけられませんし、ちょっと外でお話ししましょうか」
「おう。へへ、聞き分けのいい姉ちゃんはいいねぇ」
おい、骨が折れたんじゃなかったのか、あんた。
……店を出る私達に、そっと付いてくる影があったけど……ま、あとでいいか。
店を出て路地裏に入り、振り返ってスマイル。
「おごぅっほおお!?」
それと、急所蹴り。
「て、てめえ! 何をあがああああはっはあ!?」
もう一回。
股間を押さえて踞る二人を見下ろし、私は宣言した。
「悪人に生殖機能は必要なし! よって、処断します」
ボカボカボカボカボカボカ!
「「うぎゃああああああああああっ!」」
これでもかっ! ってくらいに股間を蹴りまくってると。
「お、おいおい、それぐらいで止めてやれよ……見てるこっちが痛くなってくる」
「……店内から付いてきたあんたは、こいつらの仲間?」
「違うよ。絡まれたあんたを助けようと思ってたんだが……余計なお世話だったな」
「そうね。こんなザコ、私が相手する必要もなかったかも」
ボカボカボカボカ!
「「ぴぎゃあああああああああ!!」」
「だから止めてやれって……ショック死するぞ、そのままだと」
「別にいいじゃない、こんなクズどもが……ん?」
私を見ていたおっさんに何かが重なる。
「……身長188㎝、体重106㎏……」
「……は?」
「顔の傷痕はライデン北見との有刺鉄線デスマッチでの負傷……」
「な、何ぃ?」
「膝のサポーターはムーンサルトプレスの後遺症……」
「な、何のことやら?」
「スキンヘッドはハゲた頭の誤魔化し……」
「う、うるさいわっ!」
「何より、Tシャツにプリントされたロゴ……」
「し、しまった。練習中だったんだ」
「あなた………ザ・グレネード・モンタ師匠ですね!!」
「し、師匠って!?」
「私の心の師匠です!」
「さ、さいですか」
「ファンです! めっちゃファンです!」
「そ、それだけ俺のパーソナルデータを知ってる時点でわかってる」
「アメリカ修行時代にカラテカ☆ニンジャってリングネームで戦ってたころからのファンです!」
「うっわコアだな! つーか俺の黒歴史をほじくるな!」
「はぁあぁあぁあぁあぁ……あなたのドラゴンスープレックスで共に自滅したい……」
「だから人の黒歴史を……」
……ゥゥゥ……ウウウウ……
「……ヤバい、警察だ。店側で通報したな。はやく逃げるぞ!」
「ほわぁあぁあぁあぁ……」
「あかん。しゃあねえ、ちょっと担ぐぞ」
「ほへえぇえぇえぇえぇ……あなたと一緒に観客席へボディスラム……」
「だから人の黒歴史を………ち、膝が痛いが走るしかねぇか!」
こうして、私は。
拉致られました。
「拉致してねぇぇぇ!」
まさかのモンタ師匠が!