第十一話 ていうか、万里の長城攻略完了!
今回はナイアの活躍によって、石板と謎の杖を回収できた。
「どう、ヴィー。石板は間違いない?」
「……はい。これにはちゃんと≪万有法則≫の概要の一部が書かれています。しかし……」
……しかし?
「一番最後の部分らしく、さっぱり内容がわかりません」
「……と言うと?」
「そのまま読みます。『尚、この術の使用法はあくまで一例である。術はあくまで使い手次第でどのようにも変化する。あくまで個人の責任において使用するように。あくまで我々には何の関係もない』……以上です」
「単なる責任回避じゃん! ていうか、何回『あくまで』を使ってるのよ!」
「サーチが『ていうか』を連発するのと同じですわおぐぅぅ!?」
「ナイアうっさい!」
何はともあれ、万里の長城の攻略を無事に終えた私達は、一旦私の元アジトへ引き上げることにした。要は紅美の家だけど。
「うっふっふふ〜♪ まさか万里の長城の最西端まで行けちゃうなんて♪ うふふふふ♪」
終始頬が緩みっぱなしの紅美が不気味らしく、5mほど距離を空けて歩くヴィーとナイア。ちょっと、私に押しつけるんじゃないわよ!
「ありがとうね、サーチ。持つべきモノは同じ趣味の従姉妹だわ〜!」
「あはは……」
渇いた笑いしかでない。温泉や巨乳に反応する私も、こんな状態なのかしら…………気をつけよ。
「でもさ、私本当に嬉しかったんだよ?」
「うん?」
「私にはホンニャン母さんを始めとした、優しい家族がいる。だけど血の繋がりはない、仮の家族でしかない」
「……紅美?」
「だけどサーチが居てくれた。血の繋がりがある、真の家族と言える人が」
「…………」
「ねえサーチ、この旅が終わったら私と暮ら「紅美、それ以上は待って」……サ、サーチ?」
「ごめん。紅美の気持ちはありがたいんだけど、私には私の生活もあるからさ」
そう言ってヴィーとナイアをチラッと見る。
「サーチは……ヴィーさんとナイアさんとは?」
「ルームメイト。東京でシェアしてるのよ」
「成程、急には無理ですね……わかったわ、この話はまた追々」
「……ん、追々……」
違う世界の住人である以上、私と紅美が同じ場所で暮らし続けることは……できない。
「……たく。一番返答に困るようなこと、サラッと言ってくれちゃって……」
母親とは名乗れないツラさと一緒にいられないツラさ、同時に味わうハメになった。
北京を経由して上海へ、そこから私の元アジト兼紅美の家へ。帰りは何ごともなく平穏な旅路だった。
『ただいま、母さん!』
『『タダイマデゴザマス』』
紅美の元気な声と、ヴィー&ナイアのカタコトの上海語が響く。
『あら、お帰り。結構時間がかかったねぇ』
『うん。サーチが嘉峪関へ連れてってくれたから』
『じゃ、じゃあ天下第一敦へ行ったのかい!? そりゃまた、遠出したもんだねぇ……』
天下第一敦ってのは、万里の長城の最西端の名前……かな?
『お土産も買ってきたわ。父さんは?』
『奥にいるよ。行っておやり』
『はーい! たっだいまー、父さーん!』
……元気だこと。
『お帰り、殺。目的のモノは見つかったかい?』
『ええ、何とか』
『『タ、タダイマカエリマスタ』』
『……無理に上海語で喋らなくていいよ。英語もわかるからさ』
「そ、そうなんですの? ふう、舌を噛むかと思いましたわ」
「この言語は難しいですね」
「……私にはよくわからいんだけど、魔法で何とかならないのかい?」
「それがそういう訳にもいかないんですの。魔術にも法則性がありますから、万能ではありませんわ」
「そうなのかい。ま、確かにそうかもしれないねぇ。科学だって万能じゃないんだしね」
「あ、そうそう。ホンニャン、実は紅美なんだけどさ」
「あんたと暮らしたい、とでも言ったのかい?」
へ? わかるの?
「一応私は紅美の育ての親だよ? あの子の考えてる事くらい、お見通しさね」
「あ、そうね……そうよね。私よりはるかに長く母親してたんだもんね」
「何をしょんぼりしてんだよ。会ったばっかじゃどうしようもならないし、何より母親だと言っても信じてもらえないだろ?」
「そりゃあ……ね。ホンニャンもよくわかったってレベルの問題だし」
「残酷な物言いだけどね、転生した時点で親子としての繋がりは切れてるんだ。だったら違う関係性を模索した方が早いさね」
「……そうね。これからは従姉妹として仲を深めるわ。だけど!」
私はカメラを取り出して。
「成長の記録をつけることは、別に問題ないわよね!?」
「…………ま、程々にね。あんた達がストッパーになってやっとくれ。殺の暴走癖は重々承知だろうけどさ」
「はい。よく承知しています」
「骨身に染みていますわ」
何だよ、暴走癖って!
「それより、次はどうするんだい?」
「あ、そうだった。一旦日本へ引き上げて、それから考えてるわ」
「そうかい。それじゃ紅美は……」
「本人に任せる。付いてきたいって言うなら連れてくし、残るって言うなら置いてくし」
「……いや、あんたが誘う時点で紅美の答えは決まってるけどね」
ホンニャンの予想通り。
「紅美、もし良ければ私と日本「行くぅぅぅぅ!」……うん、気持ちはわかるけど、その言葉を大声で叫ぶのは止めようね」
あっさりと紅美の同行が決まった。私に言われてからたった三十分で、準備万端で部屋から出てきたところを見ると、ホンニャンに何か吹き込まれていたように思える。
「いいじゃないか。親子水入らずで過ごしなさいな」
感謝すべきなのか恨むべきなのか迷うけど……まあ仕方ないか。
「じゃあ明後日の朝一番の飛行機で行くから」
「あいあいさー!」
……ホンットにイヤになるくらい、昔の私にそっくりだ。
夜。屋上で一人でちびちびと酒を飲んでいると、背後に馴染みの気配を感じた。
『腕が落ちたんじゃないの、ホンニャン?』
『当たり前だよ。私もいい歳だよ? 現役の頃と比べたら、腕も落ちるさ』
『ていうかさ、いつまでオバサン言葉で話すの? 昔の口調で話しなさいよ』
『…………そう言われてもさ、食堂のおかみさんが言う口調ってもんがあるのよ。あんただってわかってるでしょ?』
『そりゃあ……ね。元々は私とあんたで始めた店だったしね』
店の名前は『西娘飯店』で、『西』は『殺』と似た発音だったから、ホンニャンの『娘』と繋げてこの名前にした。つまり、私とホンニャンが始めた店だったのだ。
『あんたが死んでなければ、二人で切り盛りする予定だったんだからね』
『わかってる。今なら言えるわ……死んでごめんなさい。店を任せっぱなしにしてごめんなさい。そして……紅美を育ててくれてありがとう』
『別に構わないさ。もう二度とあんたから聞くことがないと思ってた言葉を、こうして聞くことができたんだからね』
『……そうね。普通はあり得ないことだもんね』
『よぅし、今夜は飲み明かすわよ。取って置きの紹興酒があるからね』
『わぁお♪ いいわねいいわね♪』
『あんたの好物だったもんね。どんどん飲みな!』
これが、元相棒のホンニャンと飲み交わした、最後のお酒となった。
ホンニャンはいい女。だけど怒らせたら、後ろからサクッ。