第九話 ていうか、アントワナの計略に散々振り回さて……イライライライラ。
「あ、あれ? 元に戻ってる……??」
翌朝。木っ端微塵になっていたはずの長城が綺麗に直ってるのを見て、頭上に大量の「?」を浮かべる紅美。その後ろでは目の下に隈が出来たヴィーが半分寝ていた。
「ふあ〜あ……」
ま、私も手伝ったりヴィーにアレコレされたりで、完全に徹夜させられたんだけど……ぐっすりと寝ていたナイアが恨めしい。
「あれ……? 私は夢を見ていたの……?」
「どうなさったんですの、コーミさん」
「あ、おはようございます、ナイアさん……いえ、夢だったのかもしれませんけど……万里の長城が粉々になったような……」
「まあ、不思議な事を仰いますのね。万里の長城はちゃんと目の前に在りますでしょ?」
「え、ええ……」
「でしたら夢幻でしょう。昨日は移動に継ぐ移動でしたから、お疲れだったのですよ」
「そ、そうなのかな……??」
ずいぶんとリアルな夢だけど、ナイアのおかげで紅美も信じてくれたようだ。やれやれ。
「それより顔を洗ってらっしゃいな。近くに小川がありましてよ?」
「……ん……そうする」
首を捻りながら立ち去る紅美を見送ってから……。
「……ふはぁ! 心臓が破裂するかと思いましたわよ!」
「あ、めっちゃギりで誤魔化してたのね」
「当たり前ですわ! あれほどの大惨事を夢で片付ける事自体、相当無理がありましてよ!」
「まあまあ。ナイアが≪ゴミ箱≫でモンスターの死体を処理してくれたおかげだし」
「だからゴミ箱ではありませんわ!」
ちなみにではあるが、ケガをしていた人民軍の兵士は全員キレイサッパリ治してから、人民軍のキャンプ地に捨ててきた。死人が出なかったのは奇跡的な状況だった。
「今頃人民軍キャンプは大騒ぎになってるでしょうね……」
ケガは治っても破れた服はそのまんま、消費した弾薬もそのまんま。何て上層部に報告するのやら……。
で、人民軍が全くいない、という状況になり、運転手と観光客もいつの間にかいなくなっていたので、私達は悠々と長城を調べることができるようになった。結果オーライ。
「……ていうか、ヴィーと一緒に直してたときには、何もなかったわよね……」
「わかりませんよ。相当焦ってやりましたから」
「私はそれなりに気をつけてやってたんだけどね……あ、ナイアここ」
「はいはい……んんん……違いますわね。単なるモンスターの残滓ですわ」
またぁ? モンスターが散々荒らしてくれたもんだから、空間の扉の手がかりがキレイにわからなくなっちゃったわ。
「これも違いますね……弱りましたね、全然手掛かりらしい手掛かりが残っていません」
「誰かさんが長城を粉々にするから……」
「す、すみません……」
「元々は誰かさんが期限切れのMPポーションを飲ませたのが原因じゃなくて?」
「す、すみません……」
うぅ、埒が明かない……。
ゴトンッ
ん? 何か引っかかって……?
「……あれ? この石、何か文字が………あ、あああ! これって半蛇人の文字じゃない!?」
不自然に道から飛び出ていた石の表面に文字を発見し、急いでヴィーを石を引っこ抜いてもらった。
「こ、これは……間違いありません、古代半蛇人文字です!」
い、いきなり石板発見!? もしかしてめっちゃ運が良いんじゃない?
「で、何が書いてあるの?」
「ちょっと待ってください………凄いクセ字で」
古代でもクセ字ってあったのね。
「えっと……は・ず・れ・だ・よ・お・ん……ざ・ん・ね・ん・で・し・た……『外れだよーん、残念でした』です」
……イラッ。
「ヴィー、どうやらアントワナはあちこちに偽物を配置したみたいね……」
「そのようですね……ん? 待ってください……続きが」
「続き?」
「はい。い・き・お」
長いので要約。『勢いがありすぎて最後にへばるのも考えモノだよね』と書かれていたらしい。
「……要は私達をバカにしてるわけだ……ふんぬっ!」
ばかあん!
腹いせに石を蹴り砕くと、次の印の場所へ向かった。
だけど、次でも、その次でも。
「モ、モンスターが多数居ますわ!」
「全部ぶっ飛ばすわよ!」
空振りが続き。
「……は、外れです……」
「うっがあああ! ムカつくムカつくムカつくー!!」
印のある場所も、ついに残り二箇所となった。しかも万里の長城の端と端という、最悪な状況。
ホテルの部屋で、ため息をつくしかなかった。
「……はぁぁ……普通にダンジョン攻略するより疲れるわ……」
「ねえ、サーチ」
「何、紅美?」
「私、もしかして病気なのかな? 行く先々で長城が崩壊する白日夢を見るような気が……」
「デジャヴよデジャヴ。気にしない気にしない」
「……普段はフレンドリーなのに、この話題になるとよそよそしくなるのよね……」
ギクッ。
「それこそ気のせいよ。私はいつでも私よ?」
「そうですわ。サーチはよく貴女の寝顔を眺めてニヤニヤうごっぼぅ!?」
「ど、どうしたんですか、ナイアさん!?」
「マジで気にしない気にしない」
「で、でも「あなたが知らないほうがいい世界」……わ、わかった」
よし、紅美は自分の部屋へ戻っていったわね。
「あ、それと」
「な、何?」
「最近さあ、私の寝る場所で妙な視線を感じるんだけど……何か心当たりない?」
「さ、さあ、さあ……?」
「? ……気のせいかな。じゃ、サーチおやすみ」
「おやすみぃ〜……あ、危なかった……」
紅美の寝顔のベストショットのために、部屋のあちこちに隠しカメラ仕掛けてるのがバレたかと思った……。
「……サーチ、ちょっといいですか?」
「ん、ヴィー、いいわよ」
「ずっと気になっていたのですが、毎回出てくる外れ石板の……うひゃい!?」
「んんん〜? な〜に〜?」
「サーチ、落ち着いてくださいね? 苛立つ気持ちはわかりますが、必要な事ですからね?」
ヴィーの「外れ石板」という言葉で燃え上がった怒りの炎を引っ込め、話を聞くことにした。ホッとした様子のヴィーが話を再開する。
「あの石板に書かれている『始まりは勢いよく、終わりはヨレヨレ』という言葉ですが、あれが何か意味があるのでは?」
始まりは勢いよく、終わりはヨレヨレって……要は竜頭蛇尾ってことよね?
「竜頭蛇尾……竜の頭……蛇の尻尾……ねぇ」
そういえばストーンヘンジの守護神って、ドラゴンだったっけ……………あ、あああ!
「そうだわ、竜の頭なんだわ!」
とはいえ、万里の長城の端と端では、どっちが頭とも言いにくい……いや、待てよ。古来中国では竜は水神として崇められている。だったら、竜は水から出てくるモノ。だったら……内陸部の一番端が頭だ!
「ヴィー、明日は内陸部の一番端を目指すわよ!」
閃きサーチ。