閑話 その頃のマーシャン
作者自身マーシャンのことをすっかり忘れていた…。
「ふーい……まだ痛いのう……」
パンドラーネのギルドにある冒険者用治療所。柔らかな陽射しが窓から入り、室内はほんのりとした暖かさで包まれていた。
「……暇じゃのう」
「暇じゃ暇じゃとうるさい奴だ」
廊下には気難しい顔をした初老の男が立っていた。服装から言って医者らしい。
「暇なら出ていけ。もうとっくに治っているだろう?」
「つれないのう。もう一日半の付き合いじゃろ?」
「何を言うか。私がお前を初めて診察したのは三十年以上前だぞ」
「そうじゃな。闇深き森がまだ緑深き森と呼ばれ、“八つの絶望”がまだ“七つの絶望”だった頃じゃ」
「そうだったな」
……しばしの間、静寂が……。
「あーー!! こういう真面目な雰囲気が一番嫌なんじゃ!」
「……なんだよ、せっかく付き合ってやったのに」
自分でやってみてわかったわい。真面目なんて虫酸が走るわい! 何が陽射しじゃ! 何が静寂じゃ!
ワシは早くエイミアの胸に飛び込みたいのじゃ!
「もういいじゃろ! ワシは行くぞい」
立て掛けていた“賢者の杖”を手にする。
「……旦那さんの墓参りか?」
「……いや」
ワシは進む。
「再会じゃよ!」
……緑深き森へと。