第六話 ていうか、娘と仲良く万里の長城ツアー♪
『あの……遊びに行くんじゃないんですけど……』
『私、万里の長城の調査チームによく加わってたから、結構詳しいよ』
調査チーム!? まさか紅美、考古学を?
『それに万里の長城マラソンにはよく参加してたし』
マラソン!?
『それに万里の長城によく泊まってたし』
泊まるなよ! 世界遺産だぞ!?
『紅美は大学で考古学を専攻しててね、万里の長城については私より詳しいよ。だからガイド役にはうってつけさね』
こ、紅美の後ろでホンニャンがニヤついてやがる……! よ、余計なことを……!
「サーチ、いいじゃありませんか。案内してもらいましょうよ」
「ヴィ、ヴィー!?」
「ワタクシも賛成ですわ」
「ナ、ナイアまで!?」
そう言うとヴィーは私に近寄り、そっと呟いた。
「……この機会を逃せば、親子水入らずの旅のチャンスは……ありませんよ?」
「で、でも危険よ?」
「別にモンスターがいるわけじゃありませんし、私達で十分守りきれますよ」
「う、うぅ……」
「ワタクシもフォロー致しますから、親子で旅をなさいませ」
「う、ううぅ……」
『殺、紅美はね、一年前までは前世のあんたそっくりの洗濯板だったんだよ』
『な、何よいきなり』
『それがたった一年で……見事な山脈さ』
た、確かに。
『それはね、私が紅美に画期的な豊胸法を教えてやったからさ』
がしぃ!
『豊胸法教えて教えろ教えてくださいな』
『……紅美に全部伝授してあるから、後は紅美から聞き出すんだね』
『紅美の参加を認めます』
「「親子の情より豊胸が大事なのですか!」」
んなもん、計りにかけられないわよ!
『あ、あの〜?』
『……じゃ、案内をお願いするわ』
『は、はい! 私の事は呼び捨てで構いませんから、よろしくお願いします』
『ワカリマシタ、コーミネ』
『ヨロシクデス』
『紅美、あんた英語しゃべれる?』
『英語? まあ日常会話程度なら』
『なら今度からは英語で話しましょ。英語圏のこいつらには北京語でもキビしいから』
『……ん。そうする』
紅美は改めてヴィーとナイアに向き直り。
「では短い間ですが、よろしくお願いします」
「え、あ、はい。よろしくお願いします、コーミ」
「こちらこそよろしくお願い致しますわ、コーミさん」
「どうかな、ちゃんと発音できてるかな?」
「……いいんじゃない? 結構流暢よ。ねえ?」
ヴィーとナイアも笑って肯定する。
「そう? 良かったあ……」
ニッコリと微笑む紅美。それを見て赤面するヴィーとナイア……って何でよ?
「や、やっぱり……」
「そっくりですわね……」
……だから何でよ?
「いきなりスタートから歩きだと大変だから、農家のおっちゃんのトラックに乗せてもらいます……あれ? ナイアさんどうしたの?」
ムンクの叫び状態になってるナイア。まさかいきなり乗り物とは思わなかったみたいね。
「ねえナイア、ごにょごにょ」
「はい? ……えぇ、えぇ。成程、その手がありましたか」
ナイアはこっそりとホウキを座布団に変化させ、座る場所においた。
「……浮きなさい」
で、紅美にバレない程度に浮かせた。これなら大丈夫だろう。
「けどちゃんと掴まってなさいよ? トラックに置いていかれるからね」
「そ、そうでしたわね」
ナイアは荷台をがっちりと掴んだ。
『おい紅美、もう行くぞぃ』
農家のおっちゃんの呼びかけに笑顔で返し、私達は出発した。
『……やれやれ、相変わらず騒がしいヤツだよ……。少しは母親らしいとこ見せてやるんだよ、殺』
『母さーん、チャーハン二人前上がったよー!』
『はいはーい! やれやれ、今日も忙しいね。でも昔の血まみれの時代を思えば、今は天国だよ』
「……くしゅん!」
「どうしたの、サーチ」
「な、何でもない」
……ホンニャンのヤツ、何かウワサしてやがったな……ズズ。
「サーチ、この万里の長城という城は、どういった城なのですか?」
「ん? 城っていっても普通の城とはまるで違うわよ。長ーい壁……城壁だって思えばいいわ」
「…………何の目的でそのような城壁を?」
ま、普通ならそう思うわよね。
「一般的には北の騎馬民族の侵略を防ぐため、って言われてるわね」
「騎馬民族の!? それだけの為にそのような長大な城壁を作ったのですか!?」
「当時の騎馬民族は、国家の存亡に関わるほどの脅威だったのよ。一番知られてる明代の長城は全部繋がってるけど、それより古い長城は破壊されたり風化したりして、途切れ途切れになってるわ」
「で、では万里の長城は幾つもあるのですか?」
「ま、総称だって思ってて。今から行くのは八達嶺っていう一番有名なヤツだから、明代のヤツね」
ていうか、この印のある場所、結構有名な観光地ばっかなような……?
「ま、とりあえず行きましょ。長旅になるのは間違いないから、覚悟しといてね」
「は、はい」
上海から北京まで飛行機で二時間で到着。それから観光ツアーに紛れ込み、八達嶺長城を目指すことにした。
「もうすぐお昼ですから、八達嶺に行くのは明日にしませんか? それに許可も取らないと」
「許可?」
「義母さんから聞いてないの? 長城は今人民軍が封鎖してるから、観光で入る場合も軍の許可がいるのよ」
め、めんどくさ。
「……明日、朝一にでも行ってくるわ」
「わかったわ。なら今夜はどこかで一泊ね」
「なら温泉よ温泉!」
「「さんせーい!」」
ヴィーとナイアの歓声が響く。ていうか、周りから注目の的だよ。
「クスクス、なら世界一大きい温泉に行きますか?」
世界一大きい温泉!? 何それ?
「知りませんか? 世界一大きい温泉ってことでギネスに登録されてるよ」
「ス、スゲえ……! 流石は中国、規模がハンパねえ……! もちろん行くわよ!」
「ならまずはホテルにチェックインして、それからにしましょう」
……ん? ホテルにチェックイン?
「そ、その世界一大きい温泉には泊まれないの?」
「ええ。温泉に入るだけよ」
ああ、日本のスーパー銭湯みたいなもんか。どちらにしても……温泉、温泉。くふふふ。
到着してすぐ、大浴場に繰り出したんだけど……。
「……ふわあああ……」
た、確かにデカい。広い。ていうか、プールじゃん。
「結構あちこちに風呂が分かれてるけど、泉質が違うのかな?」
「いえ、全部同じ泉質ですって」
分かれてる意味ないじゃん!
「……まあいいわ。とりあえず温泉を楽しみましょう」
……とはいえ、あまりにも広いため、温泉情緒もクソもなく。ただ温水プールに来たようなイメージだった。
でも精一杯遊びまくって一日を終えた。娘と一緒だったからか、普段では考えられないくらい弾けてた……らしい。
世界一大きい温泉、マジでデカい。一度お試しあれ。