第五話 ていうか、万里の長城は続く〜よ〜、どこまでも〜……。
『な、何で軍が?』
『さーてねえ。私も何でだろう、とは思ってたんだよ……。けどね、あんたが現れた事でハッキリしたよ』
『……何が?』
『あんたが言っていた万里の長城のダンジョンの件、間違いなく政府も絡んでいるね』
……つまり、政府自体が異世界の存在を認識してる可能性があるわけか。
『はあ……妙な連中が絡んでるだけでも厄介なのに……』
『妙な連中?』
『ええ。私達がいた世界と似たような格好した連中が、七不思議の遺跡で目撃されててね』
それを聞いたとたん、ホンニャンは立ち上がった。
『殺、ちょっと来て!』
『な、何よいきなり!?』
『あんたらに見てもらいたいモノがある! そこの二人も来な!』
「ヴィー、ナイア、二人ともちょっと来てって」
「あ、はい」
「な、何なんですの? バタバタと展開が変わりすぎですわ」
それはいつものことだから!
ホンニャンは自分の部屋へ飛び込むと、この世界にはあまりにも不似合いな、逆に私達にはとても馴染みのある箱を持ってきた。
「た、宝箱!?」
『これは万里の長城近くで死んでいた男達が持っていたモノだよ。闇ルートで取引されていたのさ』
『な、何であんたが持って……って、そういやファンタジーオタクだったわね』
『べ、別にいいだろ!』
ホンニャンは日本のラノベにハマって以来のファンタジーオタクだ。実は私がその方面に詳しいのも、ホンニャンの影響だったりする。
「サーチ、これは……」
「ええ。間違いなく私達の世界のモノね」
『それを開けられないかい? 何をしても開かないんだ』
『…………いや、開けられなくて正解だよ。これ、呪われてる可能性が高いわ……「ヴィー、何とか開けられない?」』
「やってみます」
鍵穴から禍々しい怨念が漂ってくる。呪われてる宝箱の特徴だ。
『の、呪いって……』
『即死級のモノから、水虫が大量繁殖なんてのまで、いろいろあるわね』
『即死も嫌だけど、水虫が大量繁殖も御免被るね……』
「ヴィー、どう?」
宝箱を観察していたヴィーは、首を横に振った。
「……無理ですね。呪いが強力すぎて、私には手に負えません」
なら……本職に頼むしかないか。
「ナイア、お願いね〜」
「……送るのですわね?」
「はふぅ……昼食の後のティータイムは格別じゃのう……」
バチ……バチバチ……
「……何じゃ、またサーチか。折角良い気分なのに、不粋な真似をしおって……」
バチバチ……バヂィ!
ひゅ〜……ぐわんぐわん!
「ふっ、毎度々々同じ手は食わんわい……む、何か書いてあるのぅ。何々、『フェイントだよ〜ん』?」
バヂィ!
ひゅ〜……ごすっ!
「おがぁ!? か、角が! 角が頭にごすっと……うがああああっ!!」
……バタバタバタ!
「強烈な呪いを感知!」
「リ、リジー、助けてたもれ!」
「呪いの方が優先と思われ! ん? 紙が挟んで………こ、これはサーチ姉からの開封依頼、承って候!」
バタバタバタバタ……
「ちょ、ちょっと待てえええ! ワシを放って何処へ行く!? こりゃ、リジー!」
バヂィ!
ひゅ〜……ばいんっ!
「ひゃぐ…………ぐふっ」
……三十分後。
バヂ……
「あ、来たわよ」
全員部屋の隅に避難。
『な、何が起きるんだい?』
『あんたの大好きなファンタジーよ』
バチバチ……バヂィ!
ひゅ〜……ガゴッ
さっき送った宝箱だ。ちゃんと解錠されている。
「中身は……手紙と巻物?」
手紙には「サーチ姉へ」と書かれている。
「何々……『サーチ姉に頼まれた呪われアイテム、見事に解錠。誉めて誉めて』……はいはい」
どうやって誉めろってのよ……。
「えっと……『中身は強烈な呪われ刀一本と、その巻物だけであ〜る。刀は貰うね…………追伸、二枚目に続く』?」
二枚目の手紙を見ると。
「『サーチ姉、私を助けてくれてありがとう。この御恩は一生をかけて、ずっと側にいてお返しする……と思われ』……何よ、最後の照れ隠し的な『思われ』は……」
私が苦笑していると。
「……リジーもですか……」
「……リジーもですの……」
「……どうかした?」
「「何でもありません」わ」
「……? そ、そう……?」
なぜに殺気立つ?
『そういや日本では転生ハーレムモノが流行ってたね……』
何を言ってるっ。
『ほれ、お望みの宝箱。中身はないけど』
『いいんだよ。私は宝箱自体が欲しかったんだからね。それに全身水虫は御免だしね』
人によっては、宝箱も価値があるんだね。
「サーチ、さっさと巻物を見ましょう」
「サーチ、さっさと巻物を見ますわよ」
何を不機嫌になってるのやら……。
「これは……長い城壁の地図……?」
ヴィーとナイアが首を傾げるけど、これは私やホンニャンには馴染み深いモノだ。
「万里の長城の全体図ね。ところどころに印がしてあるから……」
『おそらくそこに何かあるんだろうね。だがこれは相当な距離があるよ?』
『やっぱり? こことここって、明代の万里の長城の始まりと終わりだもんね?』
『ああ。現存してる箇所やほとんど朽ち果ててしまった箇所も含むけどね』
『つまり……全部確かめなきゃいけないっての? うぇぇ……』
全長20,000㎞とか言われてるけど、地図によるとほとんど明代の長城だから、大体1/4くらいで大丈夫か。それでも5,000㎞……気が遠くなる。
「サーチ、どういう事ですか?」
「……以前の海底トンネル並みに歩かなきゃならないってこと」
「歩いて……ま、まさか新大陸の!?」
「そう、そのまさか」
「……はぁぁぁぁ……」
流石のヴィーもイヤみたいね。
「まあ、たまには一緒のテントで寝ても」
「行きます歩きますどこまでもサーチと共に!」
ヴィーは問題なし。あとはナイアだけど……。
「ワタクシは全く問題ありませんわよ。寧ろ歩いての旅でしたら歓迎ですわ」
……要は乗り物に乗らなければいいわけね。
「わかったわ。なら旅の準備をして、近いうちに出発しましょう……『ホンニャン、一ヶ月分の食料を調達してもらえない?』」
『お安い御用だよ。但し簡易的なモノになるけどいいかい?』
『ホンニャンに任せるわ』
……というわけでホンニャンに旅の準備を一任し、三日後に出発することになった。ただ女三人で歩いてると怪しさ満点なので「日本の大学が万里の長城の調査をする」というウワサを流し、私達はそれっぽい格好をして歩く。
「成程……サーチが私達を考古学科の学生と設定したのは、これが理由だったのですね」
「そういうことなんだけどさ……何で四人分準備してあるんだろ?」
イヤな予感はしてたんだけど……。
『サーチ、私が案内するわ!』
出発当日、フル装備の紅美を見た瞬間、納得することになった。
紅美が意外と大胆。