第四話 かつての相棒に正体がバレちゃった! ていうか、よくわかったよね、ホンニャン……。
『本当にありがとうございました!』
『い、いえいえ』
警察にカスハラ男を引き渡してからのお礼がスゴすぎる。私の目の前には三皿目の北京ダックが運ばれて……って、そんなに食えないって!
『でも本当にサーチ様々。他にもツケを溜めてる客も居たけど、サーチの噂のおかげで即刻払いに来たし』
相乗効果オーライってことね。
『何でも紅美の従姉妹の方だとか。ますますありがたい事で』
『……ありがたいと言いますと?』
紅美の義父さんはヴィー達と英語で談笑してる紅美を見て、目を細めて笑った。
『あの娘の母親が行方不明になって、親友だった家内が引き取って……もう肉親はいないだろうって本人も諦めてたとこでねえ。血筋が日本に残ってたとわかっただけで、あの娘も嬉しいだろうから』
『あ、血筋とは言っても、私も天涯孤独の身でしたので』
『え?』
『私の両親は私が小さいときに事故死しまして……それからは孤児院で育ったんです』
『こ、孤児院で………………く、苦労したんだねぇ…………………よし、まだまだ作るからもっと食べてくれ! 遠慮はいらねえからな!』
いやいや、孤児院出身だからってお腹空いてるわけじゃないから!
『ペキンダックオカワリデスノ』
おかわりって……全部食ってるし!?
「ふう……美味しかったですわ♪」
……ナイア……あんたの胃袋はどうなってるの?
「美味しかったのは確かですが、あそこまで食べられるモノなのでしょうか……」
「ていうか、あんたが言うの、それ!? 結構丸飲みしてたわよね、ヴィー?」
「丸飲みなんかしてませんっっ!」
そんなことを言い合っていると、ドアが勢いよく開かれた。
『サーチとかいうお嬢さんはいるかい!?』
紅美の義母さん。私の元相棒のホンニャンだ。
『あ、はい。私ですが』
『悪いけどちょっといいかい? あんたのお母さんの事で、少し話したいんだけどさ』
『大丈夫ですよ』
そのお母さんってのは私自身ですから。
「ごめん。ちょっとホンニャン……さんと話してくるから、丸飲み論争の続きはあとで」
「だから丸飲みじゃありませんからっっ!」
「あはは……じゃね〜」
『……さて、何か御用ですか?』
屋上に連れていかれ、ドアが閉められる。すると。
ビュンッ!
うわっ!?
私の頭上を銀色の光が通りすぎる。殺気を感じて反応してなかったら、危なかった……!
ババッ! シュタ!
エビ反り状態からバク転して体勢を直し、トンファーを作り出す。
すたたたたたっ!
そこへ中華包丁を二本握ったホンニャンが駆けてくる!
ギィン! ガギィン!
あ、相変わらずのスルドい斬撃。流石はホンニャンだわ。だけど……!
ばしぃ!
『うわっ!?』
足の運びが遅い。タイミングを見計らって払い、体勢を崩す。
ガギガギ! がらんがらあん!
同時にトンファーで両手を叩き、中華包丁を離させる。
キュイン!
素早くトンファーをワイヤーに作り直し、ホンニャンの首に巻きつける。
『さて、このまま両手を引っ張れば首が飛ぶわけだけど、どうする?』
ホンニャンは観念したらしく、両手をあげて降伏した。
『はい、命拾いしたわね。ていうか、何の目的で私の命を狙ったのかしら?』
『ふふふ……ていうか、か。久々に聞いたよ、殺』
!?
思わず両手に力が入る。
『ちょっと待てちょっと待てマジで斬れるマジであぁーーーーっ!!』
……皮一枚くらい斬れちゃいました。ごめんなさい。
『あ、あんた私を殺す気か!?』
あんたが言うな。
『たく……見た目が変わっても技の冴えは変わらないね、殺』
「ワ、ワタシ、チューゴクゴワカラナイヨ」
『……誤魔化し方が壊滅的に下手なのも相変わらずだ』
ぐさっ。
『…………何でわかったの、ホンニャン?』
『あのね、日本人が流暢に上海語を話す時点でおかしいんだよ』
……へ?
『忘れたのかい? 私達は同郷だと上海語で話すが、余所者と話す時は北京語に切り替えるだろ』
…………あ、そうだったわ。上海語は上海訛りと言った方が正解で、普段学校なんかでも北京語……つまり中国の標準語を教えてるんだ。だから仲間内くらいじゃないと上海語で会話しないんだった。
『で、でも上海語が堪能な日本人だって、いてもおかしくないじゃない』
『わざわざ上海語で「ていうか」を口癖にしてるヤツ、そうそういないだろ』
うぐっ。
『それに足の運びにアサシンの特徴が出てたね。普段から気を付けろって散々言われただろ』
うぐぐっ。
『極めつけは刑務所の殺人さ。あんた以外にあんな殺し方ができるもんか』
ぎゃふん。
『ま、参りました……』
『……で? 何であんたが生きてるんだい? 私はあんたの死体を確かに埋葬したはずだよ?』
『話すのはいいんだけど……信じてくれるかな……』
……生まれ変わってから今までの経緯を簡単に話した。
『……病院行きな』
そうだよね! 普通はそう思うよね!
『……とはいえ……目の前で魔術を使われれば、信じざるを得ないけど……』
まだ半信半疑っぽいな……よし。
「ヴィー、ナイア、隠れてないで出ておいで」
「「ひう!?」」
「盗み聞きしてるのは、最初からバレてるからね」
……二人はスゴスゴとドアから出てきた。
「何やってんのよ、二人とも」
「「す、すみません……」」
「ま、ちょうどいいわ。ナイア、頭の蛇を標準サイズに戻して」
「へっ!?」
「いいから早く」
「は、はい……」
ヴィーは髪の毛単位にまで細くした蛇を統合し、いつもの頭に戻した。
『メ、メドゥーサだって!?』
「ナイア、ホウキで飛んで」
「わ、わかりましたわ」
ナイアはホウキに跨がり、ビルの周りを一周する。
『し、しかも魔女まで……! おぉ、神よ……!』
『何言ってんのよ。あんた無神論者でしょ』
『あ、あははは……ま、まさか本当にファンタジーしてたとはね……』
「ヴィー、ナイア、もういいわよ……『これで私の話を信じてくれた?』」
『ええ……ええ。信じるしかないわ』
そこでフッと二人で笑い。
『……ホントに久しぶり! 紅美の面倒見てくれてありがと!』
『私達は相棒だろ? それぐらいは当たり前さね!』
……ようやく私達は絶対にあり得ないはずの再会を喜び合った。
『ていうかさ、あのハゲたおっさんって……』
『ハゲたおっさん言うな! あれでも私の愛人だよ!』
……失礼しました。あ、愛人ってのは、中国語で大事な人って意味。決して変な意味ではない。
四人で酒を飲みながら、中国に来た理由を話す。
『万里の長城? 観光かい?』
『ちょっと向こうの世界のいざこざの延長でね。探しモノなのよ』
『ふぅん……詳しくは聞かないけどね、今は止めといた方がいいよ』
『……何で?』
『今は万里の長城は人民軍が封鎖してるんだよ』
人民軍がって……政府が!?
ホンニャンは中年だけど美魔女です。