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第一話 ていうか、タライを使ってのたどたどしい会話。

「ふう……」


 日本行きの便に乗り込んで、大きく息を吐いた。今回の旅費だけで総額いくらかかったことやら……頭が痛い。


「広いです! 広いですよ!」

「ええ! とーっても広いですわよ!」


 ……またこいつらがワガママを言うもんだから、今回はビジネスクラスを取らされるし……。前回のハイジャック騒ぎのときにビジネスクラスを見せちゃったのが運の尽きだったわ。


「……あ、そうだわ。今回起きたことをマーシャンに知らせないと」


 魔法の袋(アイテムバッグ)からペンとタライを取り出すと、今回の事件について細かく書き始めた。



 その頃。暗黒大陸の旧帝国首都、オキロ。


「それでは神聖ラインミリオフ帝国は解散、という事でよろしいのですね?」


「はい!」


「皇帝でも何でもなくなってしまう、という事でよろしいのですね?」


「はい!」


「……わかりました。詳細は我々が詰める事にして、一先ずエイミア様はご自由になさってください」


 ……やったああああ! これで解放です。窮屈な宮殿暮らしともおさらばです! 部屋から見える噴水のアナステ像をみながら、感慨に耽ります。


絶望の獣(ディアボロス)戦のときに突然現れたアナステさんに恐喝(せっとく)されてから……とても永かったです……」


 サーチ達と別れ、何故か何とか帝国の皇帝にされちゃった時は、もうサーチ達とは会えないと思ってました。


「だけど……サーチは追いかけてきてくれました」


 囚われの身の(わたし)。それを助けにきてくれる王子様(サーチ)。姫が助け出された瞬間に二人の思いは交錯し、想いを確かめ合い、やがてクライマックスの……!


「きゃー♪ きゃー♪ やだあ、もう! サーチったら、サーチったらああ♪」


「あ、あの、エイミア様……?」


 ……はっ!?


「ご、ごめんなさい! 失礼しました!」


「い、いえ。それよりエイミア様はこれからどうなさるので?」


「帰ります、新大陸へ」


 まずはリファリス様と合流して、今後の事を話し合おうと思っています。リファリス様の元にはエリザとエカテルもいますから力を貸してくれますし、こちらにはリジーとマーシャンもいますから暗黒大陸を抜け出す方法は見つかるでしょうし。

 そんな風に思いを馳せていると、私の頭上で奇妙な事が起きました。


 バチ……バチバチ……


 ん? 電撃ですか?


 バヂバチバチ……


「な、何だ? 空間に穴が?」


 私と話していたグリムさんが剣に手を掛けます。多分剣じゃどうにもなりませんよ?


 バチバチ……バチィ!

 ひゅ〜……ばいん!

「いったああああい!」


 ひ、火花が散りました! な、何故私の頭上からタライが……?


「こ、これは……!」


 涙を我慢しながらグリムさんを見上げると、タライを凝視しているグリムさんの姿が。その視線の先にあるのは。


「そ、そのクセ字は……サーチの字じゃないですか!」



「……無事に届きましたわよ、多分」


 書き終えたタライをナイアの≪ゴミ箱≫の応用魔術で向こうの世界へ送ってもらった。無事に送れた確証はないけど、まあ何とかなるだろう。


「あっちからフォローなんてしてもらえないわよね」


「そうですわね。直接ダンジョンに繋がっているのは此方側ですから、フォローしてもらえるとすれば知識面のみでしょうか」


 そうか、知識面か。マーシャン辺りなら詳しいかもしれない。私はもう一回ペンとタライを取り出した。



 キュッキュッキュッ


 無心に磨く。ひたすら磨く。そうしないと、またサーチ姉達への罪悪感で押し潰されてしまう。

 私が原因不明の熱病にかかり、それを治す為にサーチ姉達が奔走し。薬を服用して意識を取り戻した時には、サーチ姉達の姿はこの世界には無かった。


 キュッキュッキュッ


 わかっている。私にはどうしようもない。魔術の心得がない私には、サーチ姉達に救いの手を差し伸べる事はできない。


 キュッキュッキュッ


 だから余計に罪悪感に苛まれる。焦りだけが募っていく。


 キュッキュッキュッ

 ……ピカア!


「……よし」


 まだ磨くモノは沢山ある。よし、磨こうと思われ。


 バヂ……


 キュッキュッキュッ


 バヂバヂ……


 キュッキュッキュッ


 バチバチ……バチィ!

 ひゅ〜……ばいん!

「あぎゃ!」


 な、何事!?

 な、何故タライが天井から……?


「ん……? こ、このクセ字は……サーチ姉!」



「無事に届きましたわよ……多分」


 何故か今回はリジーにクリティカルだったような気がする。


「サーチ、何故タライに拘るのですか?」


「いや、こだわってるわけじゃないんだけど……タライの方がいいような気がして」


 別に刃物や鈍器でもいいんだろうけど、なぜかイヤな予感がしてるので止めてます。


「返事はないんですか?」


「返事を送ってくれないのよねぇ……マーシャンならできると思うんだけど」


 何やってんだか……。


 バチ……バチバチ


 ん?


「何? 今の音……」


 バヂバヂ……バチ……


 ……空中に……電気が?


「魔力を感じます。それもとびきりの」


「魔力ですって? まさか……あのドラゴンが追ってきた!?」


「ま、まさか! あの封印を破るなんて、絶対にあり得ませんわ!」


「なら、これは……?」


 バヂバヂ……バチィ!

 ひゅ〜……ざくっ


「うわ、危ない!」

「こ、これは剣?」

「何故こんなモノが…………あ、ここに紙が結んであります」


 柄の部分に結んであった紙をとり、ヴィーが広げる。


「こ、この丸文字は……?」


 丸文字!? まさか!


「ちょっと貸して! こ、この字は……エイミア!?」



「……うまく送れたようじゃ」


「ありがとうございます、マーシャン」


「なあに。エイミアの頼みなら、断わる事などあり得ぬよ」


「それにしても、何故剣に結んで送ったんですか?」


「ん? それはタライの仕返し……」

「仕返し?」

「い、いや、何でもない。ただ剣の方が送りやすい形状をしているだけじゃよ」


 バヂバヂ……


「ん? もう返信か? 早いのう」


 バヂバヂ……バチ……


「……マーシャン、何故ヘルメットを被っているのですか?」


「む? 用心じゃよ、用心」


 バヂバヂ……バチィ!

 ひゅ〜……こん!


「痛ぁ!?」

 カランカラン ドクドクドク……

「な、何故こんな缶が……?」

「何じゃこれは……………ぐふっ! おげええええええええええっ!?」

「きゃあああああ! 臭い! くっさああああああああいい!」



「無事に届きましたけど……良かったんですの?」


「別にいいわよ」


 剣なんか送ってくるヤツに手加減は無用です。

 何を送ったって? 穴を空けたシュールストレミングだよ。

シュールストレミングは飛行機内に持ち込めません。テロ認定されます(マジです)

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