第二十四話 ていうか、ついに、やっと、お宝をゲットだぜ!
グオオオオオオオオオオオオオッ!?
ダンジョン全体が震えるくらいの凄まじい絶叫だった。ていうか、そこまで痛いかな?
「う、うわあ……」
「え、えげつないですわ……」
ヴィーとナイアも痛そうな顔をする。ていうか、マジでそこまで痛いかな?
『う、うぐ……えぐ……えぐ』
あ、半泣き。よーし、槍をぐーりぐりと。
ゴグワアアアアアアアアアアッ!?
再びの咆哮。ここで槍を引き抜くと、それなりの出血が見られた。
「ドラゴンさーん、血も出てるから間違いなく私の勝ちよねー?」
『いでえええ! いでええよおおっ!』
「ちょっとー、聞いてるのー?」
『いだあああい! いでえええ!』
ドラゴンってホントに痛みに対する耐性がないわね……身体が頑丈すぎるのも考えモノか。
とはいえ、このままではらちが明かないので。
「次はオリハルタイト製ナイフで……逆剥けレッツゴー」
ざくっ
ギョエエエエエエエエエエエッ!?
さらにスゴい絶叫。こんだけ震動がヒドいと、ダンジョンが崩れるかな?
『わ、我の負けでございます……どうか、どうか、ご勘弁くだせえ!』
めっちゃ卑屈だな! お前、世界最強の種族だろ!?
「ドラゴンさん、よくぞここまで耐え抜きました」
「誰も貴方を責めませんわよ」
何で同情するわけ!? 私が言うのも何だけど、単なる深爪と逆剥けだよ!?
『く……! 血も涙もない露出狂女に負けるとは、なんたる失態……!』
独り言のつもりかもしれないけど、しっかり聞こえてるっての。ドラゴンの後ろ足に行き、むこうずねの辺りに。
「おしおキーック!」
どげしぃ!
グゲゴオオオオオオオオオオッ!?
「誰が露出狂女よ! さっさとお宝出さないと、もう片方の足にもやるわよ!」
『ひ、ひぃぃ! 我が悪うございました! どうぞお受け取りくださいぃ!』
「最初から素直に渡せばいいのよ」
宝箱を開けると、中には一本のナイフと数枚の石板が入っていた。とりあえず宝箱ごと魔法の袋に収納する。
「よし、任務完了ね」
『もう用が済んだのなら、さっさと出ていくがいい』
そっぽを向いたまま、まだ偉そうな態度をとるドラゴン。あんた、他の雷竜達に見られたら、情けないと思わないのかな?
「……そういやあんた、まだ動けないのよね?」
『な、何だ! まだ何かするつもりなのか!?』
「いえいえ、今度は痛みも一瞬で済むように、脳天に槍をぶっ刺そうかな、と」
『な……っ!?』
「ドラゴンの素材って高く売れるのよねー。角に牙に爪、ウロコも防具の素材には最適だし、肉だって最高級の食材だし」
『あ……あ……』
「あ、そうそう。ドラゴンの目玉って灯台の灯りのレンズには最高なんだって。それに脳みそは一部マニアには珍味として高値で取引されてるのよ〜」
『あが……が……』
「というわけで、あんたには死んでいただきまーす。せーの……うりゃ!」
眉間のところで寸止めする。
ブクブクブク……
よし、泡吹いた。完全に気絶したわね。
「よーし、退却よ。ナイア、ダンジョンを抜けたら厳重に出口を封印してね」
「は、はあ……」
そう言うと、私達は退却を始める。
「サーチ……あそこまで苛める必要性があったのですか?」
少し足早に進みながら、ヴィーの問いに答える。
「何言ってんのよ。あの雷竜、痺れが治ったら私達を追ってくる気満々だったわよ」
「「へっ!?」」
「私がむこうずねを蹴飛ばしたとき、足が少し動いてたわ。あの調子なら十五分くらいで治ってたんじゃないかな?」
私達が地下一階に着くか着かないか、くらいの時間には追いつけてたわね。
「その場合は戦えば宜しいんじゃなくて?」
「あのね、あの雷竜、たぶん嘆きの竜に匹敵するくらい強いわよ」
「「はああっ!?」」
「私が吐いた毒は、普通の生物なら一生動けなくなるくらいのシロモノよ。それを食らって三十分もしないうちに回復し始めるんだから、並大抵じゃないわ」
『私とは比べてほしくありません』
「へ? 何か言った?」
「「はい?」」
ヴィーもナイアも不思議そうな顔をしてる。空耳かな? まあいいや。
「ていうわけだから、精神的に追い詰めて失神させたのよ」
「あの、でしたらもう一度痺れ毒を」
「同じ毒が通用すると思う? 最高クラスの毒でもこの早さで解毒されちゃうんだから、他のじゃ問題外だわ」
「た、確かに……そう言われるとサーチの手段が有効なのですね………悪辣ですが」
「そうですわね、悪辣ですわね」
悪かったわね。
「どちらにしてもサーチに『露出狂』と言った時点で、あのドラゴンの運命は決まっていましたわね」
……。
「な、何ですの? 何で急に迫ってくるんですの?」
「……ナイア」
「ワ、ワタクシはそういう趣味はございませんわよ! ワタクシには……」
「何か聞こえない?」
「でもサーチなら……はい? な、何ですの?」
ヴィーの周辺の気温が氷点下になったのは、たぶん気のせいだと思う。
「ねえ、何か聞こえない? ほら、ピシッ、ピシッて」
「……ピシ?」
…………ピシッ……バラバラ
ま、まさか……。イヤな予感がして天井を見てみると。
ピシ……ビシビシ
あ、ヒビが……。
「く、崩れる!?」
「そ、そのようですね。おそらく雷竜の咆哮が原因かと」
「冷静に分析している場合ではありませんわ! 逃げますわよ!」
真っ先に走り出したナイアを追って、私達も走り出した。
ズズズズ……!
「け、結構ヤバいことになってきたわね!」
「というより、ヴィーさんの結界が無ければワタクシ達の頭は瘤だらけですわよ!」
「結界ではなくて防御壁です!」
いや、そこはどうでもいいから!
「このままだと間に合わないんじゃない!?」
「大丈夫ですわ、この角を曲がって……ああ!?」
「どうしたの!? って、埋まってる!?」
く……万事休すか。
「退いてください! うりゃああああ!」
バガァァァン!
ヴィーのフルパワードロップキック(私直伝)が、見事にガレキをぶっ飛ばす!
「ありましたわ! これが扉です……ちぇい!」
半ば埋まってる扉をナイアが強引にこじ開ける。
「早く! さあ!」
ヴィーと私が飛び込み、そのあとナイアも扉に入った瞬間。
ドドドドドド……!
洞窟は跡形もなく崩落していった。
「はあ、はあ……た、助かった……」
「い、生きてますわね!? 助かったんですわね!?」
「わかりましたから、離れてください! サーチ以外に抱き着かれる趣味はありません!」
軽くスピルバーグの世界観を味わったわ……。




