第四話 ていうか、殺っちゃった。
今回は残酷な表現があります。ご注意下さい。
突然ですが、張り切りすぎてやっちゃいました。
いや、殺っちゃいました、かな。
それが起きたのは、初夏のとある夜。異常な熱波に襲われて、ぐんぐん気温が上がっていた孤児院周辺。毎晩熱帯夜だったから、思い切り睡眠不足に悩まされることになった。みんな汗をダラダラ流しながら寝返りをうっていた。
……一人を除いて。
「……んっ?」
無論、私だ。最近試してる謎の魔術で、鉄板を作り出してヒンヤリ寝ていたのだが。
がさっがさっ
外に……気配を感じる。動物じゃあないわね。
「一人……二人……四人はいるか」
カチャカチャ
パリンッ
泥棒みたいね。ガラス叩き割って侵入してるようじゃ、大したことはないけど……子供ばっかだから、私が対処するしかないか。
ぐっ……すたんっ。
反動を利用して勢いよく立ち上がった私は、気配を消して音がした廊下に向かう。
(こういうのは私の十八番……♪)
懐かしさに誘われて鼻歌を歌いそうになる。侵入者に近づきつつ武器になりそうな物を探す。
(あ……はっけ〜ん! 五寸釘でも立派な武器♪)
例の魔術で、五寸釘の先を鋭くするようイメージする。何もない空間から武器を産み出すよりも、すでにある物体の変化させた方が楽なのだ。
(よし、OK!)
近づきつつある気配を避けるように、天井に張りついて闇にまぎれた。時代劇で忍者がよくやるヤツよ。
「おい、ここが……孤児院……」
「ああ……間違……ない……」
「ひひ……巨……ひひ……」
何かコソコソと会話している。
(あーあ……侵入してから会話してるようじゃ、たかが知れてるわね)
ここで奇襲してもいいんだけど……騒がれると面倒だし。
一人ずつ殺りますか。
しばらくして侵入者は散開する。侵入者は三人で、もう一人は見張りかな。動きからして大したことはなさそうだ。
コソコソッ
……ちょうど私の下を一人通る。よし、殺るか。
(こういう時は有名な殺し屋さん達のテーマが流れるのよね〜)
天井から廊下へ、音もなく降り立つ。
「ふふふーん♪」
「っ!? だ、誰……ぐっ」
侵入者にムリヤリ肩車して、五寸釘を後頭部に突き刺す。一応ぐるりと掻き回す。
「……鼻から牛……じゃなくて鮮血♪」
男は白目を剥いて、静かに倒れた。南無。
近くの物置に男を放り込んで、次のターゲットを追いかける。
「ち、何にもないな」
台所で食べ物を漁ってる男を発見。またまた背後に忍び寄り。
「……ふふふーん♪」
今度は耳に突き刺す。
「……口から鮮血♪」
男は私に気づくこともなく死んだ。南無。
それにしても……牛乳が鮮血に変わっただけで、物騒になるもんね。
「くぅ、重いぃ……ぃよっと!」
二人目はトイレに捨てておく。次は……。
ギィ〜
あ、やば。
あのドアの音、院長先生の部屋だ。
気配を消して院長先生の部屋の入口へ。あー、男が院長先生に近づいてる。月明かりに反射して、口元がキラキラしてる……涎だ。
「キモッ! 滅殺!」
驚いて振り向く男。
「がっ……ぐぶぅっ!」
「……いきなり鮮血♪」
口を抑えて耳の少し上にグサリといく。そのままクタリとした男を引きずって、院長先生の部屋を出た。
三人目を引き摺ってる最中に、四人目を発見。風体からして、たぶん魔術士。
「暑くなれヒート、暑くなれヒート、暑くなれ」
いつも以上に暑いとは思ってたけど……魔術士が何かしたみたいね。熱波でグッタリとしてる私達を、魔術でさらに暑くして寝不足に追い込み、難なく仕事するつもりだったらしいけど……無計画にも程があるわ。発想自体は悪くないんだけど……肝心な実行部隊があれじゃあね。
「何故だ! 何故、何も起きないんだ!」
あ、魔術士焦ってる。おまけに隙だらけだ。
「殺るのは簡単だけど、一応一人くらいは生かしておいたほうがいいよね」
さて、後ろから。
「とう!」
「ぐは! ぶべっ」
回転してからの踵落としを決め、顔面から地面に叩きつける。
「はい、勝負あり」
……こうして、私の初仕事は終わった。
先生達を呼んで、一人しっかり眠ってた院長先生を叩き起こして、他の子達がなるべく気づかないように処理をする。先生の一人が近くの駐屯所まで走り、警備隊を連れてきた時には……白々と朝日が顔を出しつつあった。
縛り倒していた魔術師は魔術を封印されて連行。私の犯行だとはバレずに済んだ。ていうか、十代の女の子が一人で四人の盗賊撃退なんてありえないからね、普通は。だから善意で誰か助けてくれたんだろう、ということで落ち着いた。
「これで事件解決にしちゃう警備隊スゴいな……ま、おかげで助かったけど」
こんな警備隊が担当してる地域だから、そりゃ犯罪も起きるわな。
このあと、ちょっと一騒動あった。ポケットに突っ込んだままだった血塗れの五寸釘を落としてしまい、ちっちゃい子達に見られたのだ。
(あちゃー、しまった)
「あー、これは……」
五寸釘を持った拍子に手にも血がべったり。これはちっちゃなお子様には、心的外傷級のできごと……あ、思い切り顔がひきつってる。
「……う、うわーん!」
「さーちゃん、怖いー!」
「さーちゃん、いやー!」
一人泣き出して、皆に伝染していって……あーもー、収拾がつかない!
「はい、お部屋に戻りましょうね~」
先生に強引に部屋に連行されて、小一時間たっぷりと尋問され、根負けした私は自分がしたことを白状した。ま、さすがに鼻歌まじりだとは言えなかったけど。
「な、なんてことを……」
「おお、神よ……!」
先生達まで……仕方ないんだけど、傷つくなぁ……。
もう、ここまでかな……。
私の独り立ちがやや強引に決まったのは、その二日後だった。