第二十三話 ていうか、ボス戦なんだけど緊張感のカケラもない私達。
ばがああん!
石化した鎧を念のために粉々にしておいてから、守護神のいる部屋へ入った。
「うわ……マジで雷竜だわ……」
エイミアがいれば完封できる相手だったわね。
「ヴィーさん、あのドラゴンも石化なさったら如何ですの?」
「流石にドラゴン相手では不可能ですよ。毒でもほとんど無効だと思いますよ」
あ、そうなの? まあいいや、モノは試し……。
「雷竜対策、一つ目実行! ぶふぅーっ」
≪毒生成≫で強烈な痺れ毒を作り、室内に散布する。
「……サーチ、私達には効果ないのですよね?」
「……あ、忘れてた。ヴィー、ちょっと来てくれる?」
「何ですか? ……って、え、ちょっ、サーむぐぅ!?」
口の中に作ってた解毒の霧を与える。
「…………ぶはあ。はい、次はナイア」
「ワ、ワタクシもですの!? 嫌ですわ、そういう趣味はありませうむぅーーっ!?」
モンスターのヴィーよりは抵抗力が弱いはずだから、ナイアには余分に送り込む。
「うむぅ、うむぅーーっ!!」
抵抗するなっつーの! 仕方ない、ナイアの舌を押さえ込んで……!
「むぐぅ!? うむ、むぐぅぅぅぅ!!」
さあ、どんどん送り込むわよ〜……ぶふぅ!
「うむ、むぐぅぅぅ……くふぅ……」
あ、やっと大人しくなった。ていうか、何でナイアの舌が積極的に……?
「……あむ……むう……」
「……ぶはあっ! はい、これでナイアにも解毒薬を投入完了!」
「……はひ……」
ぺたんっ
あ、あれ? ナイアが腰抜けちゃった?
「……サーチ……いきなり何をするのですか……」
ヴィーは顔を真っ赤にして口を押さえている。
「え、何って、痺れ毒の解毒薬を注入したのよ」
「…………は?」
「私以外には即効性ありまくりの猛毒だから、確実に解毒薬を必要量与える必要があったからね」
「な、成程。それであの様な手段で……」
「ていうかさ、何でナイアは放心状態なわけ?」
「…………それは聞かないであげた方が賢明かと」
え?
「おそらくナイアは、初めてだったのでしょうね……」
初めてって……何が?
座りこんでいるナイアの頬を、一筋の滴が伝ったのは……気のせいだと思う。
「サーチ! そこにお直りなさい!」
「ちょっと待って! 何でホウキの先が金平糖型になってるのかな!?」
「それはですね……サーチを撲殺する為ですわ!」
何でよぉぉぉっ!?
「あの、ナイア、ちょっとよろしいですか?」
「……ヴィーさん?」
「確かナイアは殿方との経験はあったのですよね? それで『初めて』というのは、少しおかしくありませんか?」
「同性とは初めてですわ!」
「あ、そういう事ですか……」
「おまけに……おまけに……ワタクシの口内に舌を……!」
「あ、あらら……そこまでヤってしまったのですか、サーチ」
「抵抗してきたからやむを得ず……ていうか、ラストの方はあんたが積極的うひゃい!?」
私の面前を金平糖が通りすぎた。
「やはり撲殺致しますわ!」
「ちょっと待って! マジでシャレになんない……ヴィー、ちょっと助けてよ!」
ヴィーは「……自業自得」と呟いてから、両手をあげて離れて……って何でよぉぉぉっ!?
「天誅ーーっ!」
ごがんっ!
ぐげぇっ! ……がくっ。
「ナイア、やり過ぎです」
「で、でもサーチったら!」
「気持ちはわかりますが、今は戦闘の前です。前衛のサーチがいないと勝てないのは確実ですから、加減を考えて仕返ししてください」
「そ、そうですわね……今後気を付けますわ」
う、ううぅん……。
「あ、気が付きましたね。サーチ、サーチ」
こ、金平糖が……丸くてトゲトゲのデッカい金平糖が……。
「うなされててますわね」
「ふふ……寝起きのサーチもとっても可愛いんですよ」
「……ヴィーさん…………恋は盲目とは事実ですのね……いひゃ!?」
「ちょっとナイア、それって私が可愛くないって言いたいの?」
「ひひゃいひゃひゅ!」
……たぶん「違います!」と言いたいんだと思う。
「でも金平糖の仕返しはさせてもらいます」
「いひゃいひゃいひゃ! いひゃいにょーーーーんんんっ!!」
「あぁ、ナイアは『にょーーんんんっ!』なのでしたね。エイミアとは多少違いますか」
「まーね。でもエイミア並みに伸びるわよ……ほらっ!」
「にょーーーんんんっ! にょにょにょーーーんんんっ!!」
『ワッハッハッハ! 面白い女子達だな!』
「……ってヴィー?」
「へ?」
「違うか……ナイア?」
「にょん?」
「しゃべれるわけないわね。なら……」
恐る恐る後ろを見ると……。
『何だ、もっと伸ばすんじゃないのか? 見ててやるから新記録狙えよ』
「「ド、ドラゴンだああああああっ!」」
ナイアを放りだして短剣を作り出すと、ドラゴンの額に向かって飛びかかる!
「ちぇええい!」
ガギッ! ばきぃん!
「ウ、ウソでしょ!? 一応ミスリル製よ!?」
『我の身体を穿ちたいなら、オリハルコンやアダマンタイトでも持ってくるのだな。因みにだが、我は戦う気はないぞ』
「戦う気がないって……一体どういうつもりよ!」
『どういうつもりも何も、お前が放った毒の霧のおかげで、我の身体はまだ痺れが残っておる』
……あ、痺れ毒効いたんだ。
『だから我は鱗の強度を上げて、完全防御に徹しておるわけだ。因みにだが、魔術も一切通用せんぞ』
「そ、それじゃあ……」
『我を傷付ける事はできんが、我は攻撃はできん。お前達は攻撃が効かんが、攻撃はされない。つまりは引き分け決定だな』
「……つ、つまり、ここのお宝は……」
『引き分け故に渡す事はできん。我の痺れがとれる前に逃げる事だな』
マ、マジっすか……。
「ただでさえ硬いドラゴンの鱗が、更に硬化しているとなると……私の攻撃ではどうにもなりませんね」
「ワタクシもですわ。せめて外から月の恩恵を受けられれば……」
地下三階の最奥だから、月の光なんて届くわけないしね。
「なら……賭けをしない?」
『賭けだと?』
「そう。あんたの痺れがとれるまでにあんたの身体を傷をつけられたら、私達の勝ち。逆に傷つけられなかったら、あんたの勝ち」
『我が負けた場合は当然宝を所望するのだな。ならばお前達が負けた場合はとうする?』
「私達を……煮るなり食うなり好きにするがいいわ」
「サ、サーチ!?」
「ごめん、二人とも。どうか私を信じて」
私の言葉を聞いたヴィーは、迷うことなく。
「わかりました。サーチを信じます」
ナイアは散々迷ってから。
「〜〜……はあ。わかりましたわ。ワタクシもサーチに命を預けます」
『わはははは! ちょうど我は腹が減っていたのだ! お前達くらいでも腹の足しにはなるだろうな!』
チ、食う気満々かよ。
『さあ、傷つけられるなら、どうとでもしてみるがよい!』
そう? なら遠慮なく。
私はオリハルタイト製の長槍を作り出し、迷うことなく雷竜の爪と肉の間に刺し込んだ。
凄まじいドラゴンの咆哮が響き渡った。
深爪有効。




