第二十二話 ていうか、ヴィーと一悶着あってから出発したけど、三階には意味ありげな鎧が?
「……はっ!?」
グールの騒ぎのあと、今日の探索を終えた私達は、一旦引き上げてキャンピングカーで休んでた……はず。
「???」
なのに何故か私の上には、キャンピングカーの天井ではなく、満天の星が?
「んふふ……サーチ……」
モゾモゾ
で、私の隣には素っ裸のヴィー。
で、当然のように素っ裸の私。
「……ふ……」
お互いに汗だくで、身体には草がくっついている。
「ふふ……」
何より、ヴィーのこの満足しきった顔。
「ふふふふふ……あはははは!」
これだけの状況証拠、ナニが起きたか明白……!
「人が寝てる間にナニをしたのよ、あんたはあああああああ!?」
ごおんっ!
「いったああああああいいっ!?」
「大変申し訳ありませんでした」
「……知りません!」
頭にデッカいたんこぶを作ったヴィーは、頬っぺたを膨らませてそっぽを向いた。
「まさか、まだ私に≪殺戮化≫の影響が残っていたとは……」
ヴィーによくよく話を聞いてみると、寝入った私は突然動き出し、近くで寝ていたナイアにチョークスリーパーをカマしたらしい。で、その騒ぎで目を覚ましたヴィーが私をナイアから引き剥がし、外へ連れ出した。それでも暴れるので、私を捕まえたまま≪回復≫をかけ続けたが、やがて疲れて寝てしまい……ついさっき私が正気に戻った、ということみたい。
「必死にサーチを助けたのに。必死にサーチに≪回復≫かけたのに!」
「大変に遺憾でございまして、私がしたことはやっていかんことだと思われ」
「誠意の欠片も感じられません!」
ちぇ。リジーのマネして場を和ませようとしたんだけどな。
ヒュウウ……
さ、寒。いくら何でも草原の真ん中で素っ裸だと風邪をひく…………ん!?
「……ねえ、ヴィー」
「何ですか!?」
「普段から裸で寝る私はいいけどさ……何であんたまで素っ裸なわけ?」
「へっ!? こ、これは………」
ヴィーの視線が不自然なほうを向く。
「えっと、その…………そうです! 肌を密着させて≪回復≫をかける為です!」
「そう……つまりは肌を密着させるような行為をおこなってたわけね?」
「はぅあ!? そ、そうなんですけど……そ、それは必要な事でして……」
「わざわざ汗だくになるまで?」
「きょ、今日は暑いですから!」
「普通に長袖じゃないと寒いくらいだけど?」
「ひぅあ! そ、それは………えへ♪」
「えへ♪ じゃなあああああい!」
ごぐわん!
「いったああああああいいっ!」
……ヴィーの頭の上には、季節外れの雪だるまができた。
「さあ、今日はいよいよ地下三階よ! ますますモンスターも増えてくるだろうから、気合い入れていくわよ!」
「頑張りますわ!」
「……頑張ります……」
「なーにーよー、まだ拗ねてるの? いい加減に立ち直りなさいよ」
「拗ねてるのではありません! 頭が痛くて大きな声が出せないだけです!」
「あははは……我慢我慢」
「我慢じゃありません! 誰のせいでこうなったと思ってるのですか!」
「誰のせいだろうね〜? まさか私のせいだって言いたいわけ?」
「うっ! そ、それは……」
「治してくれたことを感謝した上で、拳骨一発で勘弁してあげたんだけどな〜……あと二つくらい雪だるまがいるのかな?」
「うぅ〜……た、大変申し訳ありませんでした……」
「よろしい。じゃあいくわぐごっ!?」
頭への凄まじい衝撃に、涙目になりながら振り向くと……そこにはホウキを振り下ろしたナイアが立っていた。
「い、いったぁ〜……な、何するのよ、ナイア!」
「いえいえ、サーチの論理ですと、被害者には加害者へ仕返しする権利があって当然、となりますわね?」
「ま、まあ、そうね」
「ならチョークスリーパーで昇天されかけたワタクシにも、仕返しする権利はありますわね。死にかける程の事態でしたが……」
ぶおんっ ごぎゃ!
「んぎゃ!」
「ワタクシも雪だるま一つで勘弁してあげますわ。宜しいですわね?」
「ちょ、ちょっと待ってよ! あれはわざとじゃ「よ・ろ・し・い・で・す・わ・ね?」………はい」
雪だるまを増やされたくはない。
「ならばこの件はこれで終わりです。さあ、時間は無限にはございませんわ。さっさと参りますわよ」
そう言ってナイアは先に空間の扉に飛び込んだ。
「……行きましょう」
苦笑いしながら促すヴィーに笑い返すと、私達も穴に飛び込んだ。雪だるま仲間同士、仲良くやりましょ。
地下三階に入ったとたん、周りの空気が一変した。
「……凄まじい殺気ですね……」
これだけ殺気を放たれたら、他のモンスターは一切寄りつかないだろう。この階は襲撃される心配はなさそうだ。
「守護神のいる部屋まで一本道だけど……ナイア、扉の前に立っている鎧は何?」
「わかりませんわ。ワタクシ……というより鼠が通る際には、何も反応しませんでしたもの」
……単なる飾りにしては、あまりにも意味ありげね。
「……一応気をつけながら進みましょう」
鎧を警戒しながら、慎重に慎重に扉に向かう。やがて問題なく扉にたどり着くと、私達はようやく警戒を解いた。
「はああ……とんだ見かけ倒しだったわね」
「警戒させる事自体が目的だったのかもしれません」
あり得る。結構消耗しちゃったからね。
「それじゃ入りましょうか。ヴィー、開けてもらえない?」
「わかりました」
こういうときこそ、ヴィーの≪怪力≫がモノを言う。
ギギ……ギギギギィ
「これは……かなり重い……!」
「フレー、フレー、ですわ」
応援してるのか茶化してるのかわからないナイアを見たとき、背後に空気の揺れを感じた。
ギィィィン!
とっさだったので、背中周りにオリハルタイト製の壁を作って攻撃を受け止める。
「ま、まさか……鎧が!?」
壁を霧散させて短剣を構えると、やはり鎧が攻撃を加えてきていた。
「そ、そんな! ただの鎧ではなかったんですの!?」
「多分だけど、扉を動かすと起動するようになってたんじゃないかな」
鎧はハルバードを振りかざすと、私に斬りかかってきた。
ギィィィン! ビシ、ビキ!
い、一発受けただけで短剣にヒビが……!
「ちぇい!」
どがっ!
鎧の腹を蹴飛ばし、反動で飛び退いて距離を空ける。
「威力がハンパない……! 受けることはできないわね……!」
これは苦戦しそうだわ。仕方ない。
「ヴィーとナイアは先に行きなさい。こいつは私が何とかするわ」
私はミスリル製のリングブレードを作り出し、ブーツの表面もミスリルで補強する。
「さあ、最初から本気でいくわよ!」
私が走り出したとき。
かちんっ
「あぁ、石化できましたね」
「動きませんわね。これでもう大丈夫ですわ」
…………。
「さあ行きましょう、サーチ」
「どうかしましたか? 何か消化不良な顔をしてますわよ?」
「…………いえ、何でもありません」
……何だかなぁ……。ごめんね、鎧。戦う前に石にしちゃって。
石化はチート。




