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第二十一話 ていうか、銀狼の皮を剥いだあとは、ゾンビ化しないように焼却しましょう!

銀狼(シルバーウルフ)!?」「銀狼(シルバーウルフ)ですって!?」


 ……銀狼(シルバーウルフ)とは、長い年月を生き延びて念話を使いこなせるようになった狼系のモンスターのことだ。人間同様に年老いて毛が白髪に変わったことが銀狼(シルバーウルフ)の名前の由来。

 元来長生きする種族でもなく、毛皮が高額で売れる(・・・・・・・・・)ことも相まって、乱獲の末に絶滅したモンスターだ……私達の世界では。


「狼系のモンスターでは最高位に位置するため、大きな群れを率いていることが多い。それがA級指定の理由であって、銀狼(シルバーウルフ)自体は大したことはない」


『言ってくれるじゃねえか。だったらお前の身体で試してみるか? 俺の……圧倒的強さを!』


 そう言って私にまっっすぐ突っ込んでくる。私は半歩右へ移動すると、足を伸ばして待つ。

 すると、案の定。


 ケンッ

『うわ!? うわわわわわ!』

 ズドドドドバタドタアアアン!


 見事に引っかかって頭から地面につっこみ、そのまま動かなくなった。


「……毛皮よ」

「……毛皮ですね」

「……毛皮ですわ」


『い、いててて……や、やってくれるじゃねえか……ん? 何でそんなニヤけた顔して近づいてきやがる? お、おいおい、ちょっと怖いんだけどよ』


「「「毛皮……毛皮よこせ……」」」


『け、毛皮って……おいおい、ちょっと待てよ。シャレにならねえって。お、落ち着こうな。な、な?』


「わかったわ……」

「落ち着いて……」

「やりますわ……」

「「「毛皮剥がしを」」」


『違うって! 落ち着けってのはそういうことじゃなく……い、嫌……助けて……誰か助けて! いやああああああああ!』


 狼が悲鳴をあげるな、みっともない。



「な、何よ、この肉! 硬いしパッサパサだし、不味くて食えたもんじゃないわ!」

「爪も年季が入りすぎてボロボロですね」

「骨も相当脆いですわ。かなり骨粗鬆症が進行してますわね」


 ぶっ飛ばして毛皮を剥いたあと、使える箇所が無いかいろいろ試したんだけど……流石は年寄り狼だけあって、素材になり得るモノは何一つ無かった。


「仕方ないわ。毛皮だけ貰ってあとは廃棄ね」


 ……こうして数少ない超稀少モンスター銀狼(シルバーウルフ)は、誰にも知られることもなく、再び絶滅した。合掌。



「さっきの狼達でモンスターは終わりかしら?」


「いえ、まだ居るはずですわ。とは言え、あそこまで集団化したモンスターはもう居ません」


 ならあとは散発的に出てくるくらいか。


「一応警戒しながら進むわ。だけど狼達のせいで予定がかなり狂っちゃったから、ペースを上げて進むわよ」


「わかりました」

「了解ですわ」


 ダンジョン自体は一本道とわかっている以上、そこまで難しいことはない。(トラップ)も難しいモノじゃないみたいだし、楽勝かな。



 ……甘かった。


「確かに集団化したモンスターはいないけど……」


 あちこちからチクチクチクチクと。しつこいったらありゃしない!


「あ、メドゥーサ三匹現れましたわ」

「背後から狼人間が五匹」


 ああ、もう……! ていうか、天井にぶら下がってるのって、どう見ても有翼人(ハーピー)よね!?


「各自対処で各個撃破! ナイアが狼人間でヴィーが蛇人間! 私は鳥人間を倒すわ!」

「「了解!」」


 ボーラを投げて鳥人間を全部落とし終わったころ、ヴィーとナイアも終わったようで、あちこちにモンスターの死体が転がっていた。


「統率されていないと、こうも弱いモノなのですね」

「集団の力は侮れませんわよ。戦いの基本的な戦術は『大で小を叩く』ですわ」


 確かに。少数派が勝つってことは、相当な実力差がないと難しいからね。まだ呻いている鳥人間に止めを刺しながら、ナイアに残りの行程を聞く。


「そうですわね……あと三十分くらいで地下三階へ行けますわ」


「そう……なら今日はそこまで行って終わりにしましょうか」


「わかりました」


 死体を焼却してから、私達は再び出発した。


「……あ、そういえば。最初に倒した鳥人間って、誰か焼却してくれたの?」

「「……え?」」

「え?」


「わ、私は知りませんよ」

「ワタクシも知りませんわ」


 …………へ?


「じゃ、じゃあ、死体はどこいったのよ?」


 …………。


「「「ま、まさか……」」」


 私達は一斉に後ろを向いた。


 ズル……ペチャッ ズル……ペチャッ


「な、何か引き摺る音がしませんか?」

「き、気のせいじゃない?」

「サーチ、現実逃避は止めましょう。確実に匂いが漂ってきてますわよ」


 うええ……!


 ズル……ペチャッ ズル……ペチャッ


 ぅぼおおおおおっ!


「うっわ、ゾンビどころじゃない。グールに進化してるわ!」


 ゾンビの上位クラス、生肉を求めてさ迷い歩く食人鬼のグールだ。


「ヴィー、≪聖々弾≫(ホリホリだま)を連発でお願い!」


「ホリホリだまって……まあいいですけど。≪聖々弾≫ホーリー・ホーリーバレット!」


 縮めて言ったほうが楽なのに。


 バボボボボボ!!

 ドドオン! ズゴオオオン!

 グボォアアアア!


「き、効いていません! 聖属性なのに!?」


「グールは属性変化を起こす事がありますわ! 炎系もお試しあそばせ!」


 属性変化って……。


「わかりました! ≪聖火弾≫ホーリー・ファイアバレット!」


 ゴオオオッ!

 グボォアアアア!


「き、効きませんよ!?」


「属性変化が激しいんですのね。でしたら……」


 ボカドガゲシィ!

 ギィヤアアア!!


「直接殴ればいいんじゃない?」


「え、あ、まあ、そうですわね」


「というわけで掃討開始!」


 いくらゾンビの上位種ったって、こんだけノロマなら全然平気♪


 ザクッ! ザンザンザン!


 おお、ミスリルだとよく斬れるわ。


 ザシュウ! ザクザクザクッ!


 ここまで斬れ味抜群だと気持ちいいわね。


 ズバズバズバズバズババババババババ!


「ちょ、ちょっとサーチ?」


 何これマジでおもろいわあはははははははは!


 ザンザンザンザンザンザンザンザザザザザン!


「あはははははは!! 楽しいわこれ! あはははははははは!!」


「「…………」」


 斬れる斬れる斬れるわ! 斬れる斬れるキレてるわあっ! あっははははははは!



「……落ち着きましたか、サーチ?」


「…………ご、ごめんなさい……」


 あれから暴走しまくった私は、洞窟の壁を切り刻みかけたところで、ヴィーに水をかけられて正気に戻った。


「忘れてましたね、サーチ。グールは≪虐殺化≫キリング・バーサーカーを使ってくるんですよ?」


 ぐぁ……! 忘れてた……! ≪虐殺化≫キリング・バーサーカーってのは対象を無差別殺人鬼に変える、という精神干渉系スキルだ。無差別殺人鬼ってくらいだから、当然敵味方関係なく襲いかかるし、殺す対象がいなくなったら自分の首を斬り落とす。「冒険者が選ぶ、絶対にかけられたくない術ランキング」の上位に必ず入るスキルなのだ。


「それにしても……≪虐殺化≫キリング・バーサーカーにかかって壁を斬り刻んだ人は、なかなかいませんよ」


 でしょうね……私も初めて聞いたくらいだし。


「……何故私達には襲いかからなかったのでしょうか?」


「あれじゃないですの、ヴィーさんへの愛ゆえに……という事ではへぶぅ!」

「やぁぁだぁぁもおお! 愛だなんて、愛だなんてえええ!」

「ぶくぶくぶく……」


「ナイア、大丈夫? ナイア?」


 ……照れ隠しでナイアを瀕死にしやがったよ、この蛇娘……。

ぅぼおおおおおっ!

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