第十八話 ていうか、有翼人達の決死の抵抗。
次の日の夕方。キャンピングカーの中で装備を整えた私達は、ヴィーに再び人払いの聖術をかけてもらい、ストーンヘンジの中央に向かう。
「それじゃフォーメーションは昨日と同じで。ドナタんはここに残って、周りの警戒をお願いね」
『りょーかい』
「よし、行くわよ!」
「「はい!」」
私達は扉へ飛び込んだ。
「……ここは……昨日有翼人を撃退した場所ね」
地下とは思えないほど広々とした場所。これだけ広ければ、有翼人も生息できるわけだ。
「ナイア、まっすぐでいいのよね?」
「そうですわ。但し、幾つも有翼人の巣があるようですから、お気を付けあそばせ」
「無問題無問題。強敵ってわけじゃないんだから、昨日と同じように当たれば楽勝よ」
そう言って私から歩き始める。そのあとをヴィー、ナイアの順で続いた。
……バッサ……バッサ
「……なんて言ってたら、早速おいでなすったわよ」
短剣を構えると、上空を睨む。ヴィーも聖術の準備をして待ち構える…………が。
バッサ……バッサ……
「……? 上空を飛び回ってるだけね」
「攻めあぐねているのでしょうか?」
「かもしれませんわね。前回の戦いでワタクシ達に恐れをなしたのかもしれませんわよ」
……サーーーッ
「っ!!」
ドンッ!
「きゃ!? 何ですの!」
私がナイアを突き飛ばすのと同時に。
ビュン!
ナイアの頭があった場所を、銀色の光が通りすぎた。
「え……?」
「敵襲よ! ボサッとしない!」
魔法の袋からボーラを取り出すと、こちらに滑空してきた有翼人に投げつける。
ブウン! ぐるぐるぐる!
クワアア!?
翼を絡め取られた有翼人はバランスを崩して頭から墜落し、真っ赤な鮮血を散らして絶命する。
「≪聖風の壁≫!」
ヴィーの聖術が見えない風の壁を作り出し、連続で突っ込んできた有翼人達を軒並み吹っ飛ばした。
クァアア!
ブウン! ぐるぐるぐる!
クァ!? アアアァァァ……!!
吹っ飛ばされて混乱する有翼人達に次々にボーラが巻きつき、地上に落ちていく。
「空中戦ならワタクシも負けませんわ!」
ホウキに跨がって空中へ舞い上がったナイアは有翼人のさらに上を飛び、鋭い蹴りで翼を折る。
クワアアァァ……!
飛べなくなった有翼人達は重力に逆らえずに墜落し、衝撃に耐えられずに死んでいった。
しばらくこれを繰り返し、十分も経たないうちに勝敗は決した。
ケァアアアアア!!
一匹が大きい声をあげると、他の生き残った有翼人達は一斉に回れ右し、上空へ退散していった。
「……もう……来ないわよね?」
「……どうやら……逃げていったようです」
ヴィーも警戒を解き、追撃していたナイアも戻ってきた。
「ふ。空中戦でワタクシに勝てるとでも?」
私はため息をついてナイアに近寄ると、後頭部を叩いた。
「痛……何ですの?」
「あんたね、私が突き飛ばしてなければ、アレで真っ二つにされてたわよ?」
私は有翼人が足に握ってっていた剣を指差す。
「そ、そうでしたわね。助かりましたわ」
「滑空して背後から奇襲してくるなんて、なかなか手強い連中だわ。さっきは無問題なんて言ったけど、やっぱ取り消す。相手はどんな手を使ってくるかわかんないから、最大限に警戒しながら進むわよ」
「わかりました」
「……で、ナイアには別任務を頼みたいんだけど」
「ワタクシに? 構いませんけど……何ですの?」
さっきよりは慎重に歩を進める。
「……今のところは……何もありませんね」
「油断は禁物よ。絶対に何か仕掛けてくるから」
「はい」
……コツ……コツ……
足音だけが洞窟内に反響する。
「……静か……いや、静かすぎるわね……」
「…………」
コツ……コツ……
ドスンッ
!!
「ヴィー、上空に警戒!」
「はい!」
…………ヒュウウウウ
やっぱり!
「岩が落ちてくるわ! ヴィー、私のそばに!」
ヴィーが私の背中に背中を合わせたのを確認して、≪偽物≫で頑丈な屋根を作り、その上をヴィーが聖術で地面の色に偽装する。
ヒュウウウウ……ヒュウウウウ……
ドスンッ! ズドンッ!
「サーチの言う通りでしたね。上空から岩を落としてくるとは」
上空の利を活かして、背後から奇襲してくるような知恵のある連中だ。上からモノを落とすくらいのことはしてくるだろうと思ってたけど、ホントにやってくるとは……。
ごぐわんっ!
「きゃ!」
「わっ!」
わ、わざわざヴィーが地面の色に偽装したのに……?
ごがん! がんごんぐわん!
「サ、サーチ、あちらは私の位置を正確に掴んでいますよ!」
ちぃぃ! あいつら、熱を感知できるのね!
「ヴィー、目眩ましはいいから、この辺り一帯の熱を下げて!」
「え? あ、はい! ≪聖氷の加護≫!」
私達を含む一帯の気温が急激に下がる。
「私達の熱が伝わらない程度に、私達のすぐ上の温度を特に下げて」
「や、やってみます」
急激に温度が下がったから、ヤツらの熱感知も少しの間混乱するはず。その間に周りの気温にとけ込めれば……!
……ヒュウウウウ……ドスンッ! ドスンッ!
再び爆撃が始まったけど……全く私達から離れた場所に落ちている。
ドスンッ! ズドンッ! ドスンッ!
「……どうやらうまくいったみたいね」
あとはナイアがうまくやってくれれば……!
ヒュウウウウ……ドサン!
岩じゃない。有翼人だ!
「ナイアの奇襲がうまくいったわ!」
ドサドサ! ドスンッ!
次々と有翼人が落ちてくる!
「ナイアはがんばってくれてるみたいね……うわっと!?」
ドスゥンッ!
「ま、まだ岩も落ちてくるみたいだから、ヴィーも気をつけてね!」
「は、はい。きゃあ!」
ドスンッ!
「も、もう一度≪偽物≫で……うぎゃあ!」
ズドン!
「こ、これは避けるしかない! ≪偽物≫を使うヒマが……うひゃい!」
ドサン!
「お、落ちてくる有翼人も結構な凶器……いやあ!」
ドサドサン!
ナ、ナイア、早く何とかしてえええ!
「はあ、はあ、はあ……」
「ひい、ひい、ひい……」
ど、どうやら……止まったようだ。
「……ら〜ららら〜ら〜♪ おーっほっほっほ! ワタクシが全員叩き落としてあげましたわよ!」
「…………ありがと」
「…………助かりました」
「あら? どうしたんですの? ワタクシ達の大勝利ですのよ? もっと喜んだら如何ですの?」
「……そうね」
「……そうですわね」
私とヴィーは視線を合わせて頷き。
ゴスッ! ゴスッ!
「痛あああい!」
ナイアの頭に拳骨を落とした。
「な、何故ですの!? ワタクシが何をしたと言うんですの!?」
「別に」
「何もしてません」
「なら、何故!?」
単なる八つ当たりだよ。
ドスンッ!




