第十七話 ていうか、ドナタネズミが活躍して、ダンジョン内が詳しくわかって楽。
「ドナタってことは……あんたまだ生きてたの、アントワナ!」
短剣を構えると、それに倣ってヴィーとナイアも戦闘態勢に入る。
『ちがうちがう。わたしはしょうしんしょうめい、ほんもののどなた』
「はあ? だからアントワナなんでしょ?」
『わたしはうまれてすぐにしんだどなた。ほんとうにほんものだよ』
「……どういうこと?」
『うまれてすぐにしんで、そのまますぐにうまれかわったのがわたし』
「……はいい?」
……あまりにも辿々しい説明なので、私が割合して説明する。
このネズミのドナタは生まれてすぐに死んで、転生した姿なのだそうだ。どうやら三つ子というモノは魂の結びつきが強いらしく、たまたま近くで生まれたどくどくネズミの子供に転生した……ということらしい。そのままカナタとソナタを見守りながら共に成長してきたが、ある日元の自分の身体を悪用する者が現れた。それがアントワナだったのだ。カナタとソナタの身を案じて近くをウロウロしていた際、アントワナに≪統率≫されてしまい……。
「……で、私が徹底的に洗って聖白鼠にしちゃって、現在に至る、と?」
『そう。あんとわなにばれないために、しゃべることをがまんして、めいれいにもしたがってた』
……そういうことか。
「なら私達を助けるために来てくれたの?」
『んーん。ないあのふくろでおひるねしてたら、いつのまにか』
ああそう。やっぱこいつはドナタだわ。
『それよりさーち。よくもわたしをほーりーほわいとにしてくれたわね』
「へ!? どくどくネズミよりはマシじゃね?」
『わたしにはどくどくねずみとしてのほこりがあった!』
さいですか。
『それにどくどくねずみのほうが、せんりょくてきにはうえ!』
確かに。意味のわかんない役立たずブレスしか吐けないんだっけ。
「……ちなみに、あとは何ができるの?」
『あんとわなのえいきょうで≪鼠統率≫ができるようになった』
「えっと……つまりネズミ限定の≪統率≫?」
『そう』
微妙っちゃー微妙だけど、偵察要員としては優秀ね。
『それとわたしはないあのしもべだし』
……しもべ?
「しもべって……下僕?」
『ん。ないあにしかいをきょうゆうされたから』
……?
意味がわからず、ナイアに視線を向ける。
「視界を共有する為には、主従関係が必須でしたので……その……」
『……はじめてだったのに……』
……要はムリヤリだったのね……。
「……って、しまった! ハクミん……じゃなくてドナタとの話し合ってたら、時間が!」
「…………あ。一時間くらい話しちゃいましたね」
「急いで潜るわ! 行くわよ!」
『まってまって。そのことでていあんがある』
提案?
『わたしがねずみをつかって、だんじょんのなかをくまなくそうさくしてあげる』
えっと……要はハクミん……ドナタの≪鼠統率≫を駆使して、ダンジョン内のネズミを操っちゃおうってことね?
『そう。ていうか、よびかたはどなたでいいよ』
「そう? ならドナタん、早速お願いね」
『りょーかい……て、なんで「ん」をつけるのかな……』
何やらブツブツ言いながらも、ドナタんはダンジョン内へ飛び込んでいった。
……三十分後。
「……来たみたいですわ」
石柱に腰かけていたナイアが呟く。どうやらドナタんが戻ってきたらしい。
……シュポン!
『ただいま〜』
何でコルクが抜けたみたいな音が?
「……ねえヴィー。ちょっとダンジョンに入ってみて」
「は?」
「いいから」
「? は、はあ……」
「で、すぐ戻ってきてね」
「?? わ、わかりました」
ヴィーがダンジョンに侵入し、再び戻って……。
……きゅぽおおおん!
「戻りましたが……?」
「何で脱出するときだけ音が鳴るのよ!?」
意味不明すぎるわよ、このダンジョン!
「ああ、それはワタクシが設定したんですのよ!」
変なとこにこだわるな!
「……あ、やはり入る際にも音が必要ですの?」
ちがあああう!
その後、ドナタんがネズミを使って探索させたダンジョンを検証することになり、今日のダンジョン攻略は無しになった。
「それじゃダンジョン対策会議を始めまーす」
キャンピングカーのテーブルにお酒やおつまみを並べての、女子会的な会議となった。
「まずはネズミ経由ドナタん経由ナイア製作のダンジョン地図だけど……思ってたより階層は少ないわね」
『うん。さいかそうがちかさんかいで「あ、待って。ナイアに思念を送って。ナイアから説明してもらったほうが早い」…………そう』
少しムスッとしたドナタんは、ナイアに向かって一生懸命思念を送ってる……と思われる。
「…………サーチ、ドナタんからは『ペチャパイ』としか伝わってきませんことよ?」
「…………」
ぎゅむっ
『ごめんなさいごめんなさい! だからにぎりつぶさないでえええ!』
ドナタんは今度こそナイアにダンジョン関係の思念を送った。
「……ああ、全て来ましたわ。このダンジョンは地下三階の構造ですわ。宝箱は皆無、複雑な迷路もない……一本道ですわね」
「罠は?」
「……三箇所。そのうちの一箇所はサーチが潰しましたから、残りは二箇所。両方とも落とし穴ですわね………あ、あああ!」
「!? ど、どうしたの!?」
「な、何でもありませんわ……あ、あと出現するモンスターですが、有翼人の他に……メ、メドゥーサ? 人狼?」
「へ?」
「た、但し、意思は感じられませんわね……あ、あ、あ……きゃあああ!」
「ど、どうしたの!?」
「はあ、はあ、はあ……な、何でもありませんわ……」
いやいや、何でもないってことはないでしょ。
「さ、最後に……際奥に守護神も居ますわね………こ、これは……雷竜!?」
「だ、ダンジョンの守護神が竜だっていうの!?」
な、なんて厄介な……!
「そ、その奥に宝箱が……いや、いや、いやあああああああ!」
ナイアは甲高い悲鳴をあげると、顔を真っ赤にしてドナタんを掴んだ。
「あ・な・た・は……! わざとでしょう!」
ぎゅううっ!
『つ、つぶれる! つぶれちゃう! ごめんなさいごめんなさいごめんなさい〜!』
「ちょ、ちょっと! ナイア、どうしたのよ!」
「この娘ったら、ワタクシに送った思念に、死んだネズミの思念を混ぜていたのですの!」
死んだネズミの思念って……?
「罠があると言ったでしょう? あれは落ちて死んだネズミが居たんですわよ」
落とし穴に落ちてって……串刺し系!? その思念を送ってきたの!?
「モンスターに遭遇したネズミは、大半は捕まって……」
……食われた、と。
「最後の雷竜に遭遇したネズミは……」
「……焼き殺された?」
「それもあります。他に踏み潰されたり、食われたり、踏み潰されたり、食われたり……」
……絶対にそんな思念いらないわ。
……ドナタんが失神したころに、ナイアは握り潰しの刑を止めた。
ドナタん、お仕置き。




