第十六話 ていうか、ストーンヘンジのダンジョンへ潜ったんだけど。
扉に飛び込んですぐに、長い長い階段が地下へ延びていた。
「……とりあえず何も気配はないわね。私が前衛、ヴィーが真ん中で前後を聖術で援護、ナイアが後衛。ゆっくり進むわよ」
「「了解」」
あまり時間がないのはわかっているけど、慌てて進んで罠に引っ掛かったりしたら、目も当てられない。ここは慎重に進む。
「……っと、ストップ。早速だわ」
「モ、モンスターですか?」
「違う違う、罠よ。ちょっと待ってて……」
ナイフを使って罠の解除をする。そんな難しい構造ではなかったので、すぐに完了した。
「ふう……左右から槍が突き出る仕掛けだったわ。もう大丈夫だから先に進むわよ」
「……重装戦士の割に……器用ですわね……」
「まーね。私は出自の関係で、見た目は重装戦士、中身はアサシンって感じなのよ」
「あぁ、転生したのでしたわね。ではこの世界でアサシンを?」
「そうよ。だからアサシンのスキルが多いのよ……あ、広い場所が近いわね」
「え? 見えませんわよ?」
「声の反響の変化でわかるわよ。ナイアはダンジョンの経験はないの?」
「初めてですわ」
「そう。ならこのダンジョンは初歩的な感じだから、ここで経験を積むといいわ」
「わかってますわ。そうさせてもらいます」
やがて階段を下り終えて、かなり広い地下空間にたどり着いた。
「……本当に広い場所ですわね……」
ナイアが天井を見渡して感心していると、奥から羽音が聞こえてきた。
「! ワタクシでもわかりましたわ。どうやらモンスターのお出ましのようですわね」
「ヴィー、援護お願いね」
「わかっています」
私は短剣を構え、ナイアはホウキをハンマー型に変える。
……バッサバッサバッサバッサ!
「あれは……有翼人!?」
キシャアアアア!
……とはいえ、ソレイユの配下の連中とは違って、意思はないみたいね。なら容赦する必要性なし!
ザクッ! ザシュ!
ギアアア!
交差した瞬間に先頭の有翼人の翼を斬り飛ばす。翼を失って地面に転がると同時に、ナイアのハンマーが振り下ろされてペチャンコになった。
「≪聖々弾≫!」
バボボボボッ!
まるでマシンガンのような勢いで発射される。
ボンッ! ドンドンドン!
キィエアアアアア!?
「……八割は削ったわね。ヴィー、だんだん威力が上がってない?」
「そうでしょうか? ただネットゲームに出ていた魔術を真似しただけですが」
ネトゲやって強くなったの!? ていうか、ネトゲにまで手を出してたの!?
「……ヴィーがオタク街道まっしぐら……」
「サーチ、ナイアもですよ」
へっ!?
「うりゃりゃりゃりゃりゃりゃ〜〜ですわ!」
ズシャアアアア! バガガガガガガ!
ギィア!!
ホウキでドリフトって……器用ね。
「ほらほらほら〜! 何人たりともワタクシの前は走らせませんのよ〜!」
ゲームが何なのかスッゴく気になるけど……どうやらカーレース系らしい。
「……ナイアには絶対に免許とらせちゃダメね」
ホウキで飛び回って有翼人を轢いたり蹴倒すナイアを見ながら、私は呟いた。
有翼人を全面させてから、一旦休憩。
「でもこれでモンスターがいることは確定ね。もしかしたら元の世界に繋がってるのかも」
「いえ、違います」
私の推測を、ヴィーはキッパリと否定した。
「……何で?」
「私が知る限りですけど、有翼人は意思を持っている者が普通です。それに……」
ヴィーは有翼人の死体の頭部を指し示す。
「骨格そのモノが全く違います。私達の世界の有翼人にはクチバシはありません」
確かに。私の知ってる有翼人はちゃんと顔は人間だった。
「やはり未知の世界だと考えた方がいいかと」
未知の世界かぁ……。
「……なら一旦退却しましょう」
「「えぇ!?」」
「最初からこの規模だから、絶対に五時間程度じゃ攻略できない。見たこともない世界に取り残されるリスクを背負ってまで進む必要はないわ」
「そう……ですね」
「サーチの意見に同意しますわ」
「……満場一致ということで、それじゃ戻ろう」
私は迷うことなく踵を返した。
「……ふはぁ!」
再びストーンヘンジに戻った私は、おもいっきり背筋を伸ばした。
「何時間くらい経ってます?」
「? ……えっと……一時間弱ってとこかな」
スマホで時間を確認。何でヴィーは時間を気にしたのかな?
「そう……ですか。ならダンジョン内とこちらで、大体二倍の時差がありますね」
「時差? ……ああ、そっか。ダンジョンには二時間くらいいたはずよね」
時差というより、時間の流れそのモノが違うのか。
「……となると、こちらの世界の一時間が、向こうでは二時間……。つまり、五時間経ったとしても、あちらでは十時間ってことか……」
うーん……十時間でもキビしいなぁ。せめて三日間くらいは欲しいのよね……。
「たどり着いた箇所から再び出発、なんてできれば最高なんだけど……」
「あら、出来ますわよ」
「「できるの!?」」
「ええ。要は空間を固定すればよいのですから、それくらいはチョチョイのチョイですわ」
「じゃあさっき進んだ場所までショートカットできる!?」
「ええ。お待ちなさいな」
ナイアはそう言うと、上半身を空間の扉に突っ込んだ。一生懸命作業してるらしく、上半身がさらに奥に入っていき、スカートがめくれ上がり……おぉ、紫。
「……はい、完了ですわ……どうなさいました?」
「「い、いえ……」」
意外と大胆な下着を選ぶんだなー、と思って。
「これでワタクシ達が進んだ場所で空間が繋がるようになりますわ」
「ダンジョンから脱出するときはどうなるの?」
「その場合は入ってきた場所まで戻る必要がありますわ。これは調整のしようがありませんの」
「別にいいわよ。進んだ先から再スタートできるだけでも儲けもんだし」
一応二週間の滞在って申告してあるから、一日六時間潜ったとしても……八十四時間。その二倍だから……ざっと七日間は潜れる計算か。余裕ね。
「さーて、それじゃあと四時間分……余裕を見て三時間半、ダンジョンに潜りましょうか」
「そうですね。少しでも進めておきましょう」
「ワタクシも賛成ですわ」
『わたしもさんせい』
「はーい、四人とも賛成ってことで……って、四人?」
……私でしょ、ヴィーでしょ、ナイアでしょ、ハクミんでしょ………………ん? んんん??
「ハ、ハクミん、しゃべった?」
『うん、しゃべったよ』
え………ええええええええええ!?
「ど、どういうことよ!? ハクミんがしゃべったわよ!?」
「わ、私に聞かれても……」
「お待ちになって。貴女の声、聞き覚えがありますわよ」
『ああ、おぼえててくれたんだ。さすがないあおねえちゃん』
「ナ、ナイアお姉ちゃんって……まさか貴女、ドナタですの!?」
へ!?
『うん、わたしどなただよ〜』
え………えええええええええええっ!?
ドナタ!?




