第十五話 ていうか、ストーンヘンジを調べてみたら……?
一晩ぐっすりと寝て観光の疲れを取ってから、朝一番でレンタカーを借りた。
「どうしてクルマを借りたのですか?」
「ストーンヘンジに行く方法がね……電車やバスを乗り継いでだと、ナイアは絶対に酔うでしょ?」
「うっ……ひ、否定できませんわ……」
「それとツアーもあるらしいんだけど、そうなると人の目があるから、ヘタなことができないし」
「下手な事っていいますと?」
「……ここ、立ち入り禁止らしいのよ」
「た、立ち入り禁止!?」
「何故入れないんですの!?」
「……この遺跡ね、世界遺産っていうのに登録されててね、維持管理にめっちゃ気を使われてるわけなのよ」
「で、では、維持管理の為に入る事ができないと?」
「そう。だから何らかの手を講じないと、ストーンヘンジに近寄ることすらできないのよ」
「…………だからレンタカーを?」
「ええ。近くで夜まで待機して近づけば、何とかならないかと思って」
今回私が借りてきたのは、ズバリキャンピングカーです。
「ひ、広い! 広いですわ!」
「流石にお風呂とトイレはないけどね。だけどこれだったら、車の中で浮いていられるでしょ?」
「……あ、成程。サーチがわざわざ大きい車を借りてきた理由はそれですか」
キャンピングカーだったら人の目を気にしなくていいから、ナイアも酔い止めのためにホウキで浮いていられるのだ。
「サ、サーチ……ワタクシの為に、ここまでしてくださるなんて……」
「べ、別にあんたのためじゃないんだからね!」
別にツンデレというわけではない。リアルにこうしないと困るのだ。
「電車・バス。どれで行ってもナイアに【ぴー】される可能性が高いし」
「あ、ああ……そうでしたね……」
「ひ、人を【ぴー】ばかりしてるように言わないでくださいまし!」
「「【ぴー】ばかりしてるじゃない!」」
私もヴィーも直接食らってるんだからね!
……これは立ち入り禁止にするわけだわ。
「凄い……本当に人・人・人ですね……」
車で約一時間半。どうにかこうにか到着したけど……神秘的な雰囲気を醸し出すパワースポットのはずが……。
『あれがストーンヘンジか。本当に神秘的だね』
『はるばる見に来た甲斐があったと言うモノだ』
『ママー、おしっこ』
『ええ!? 少し我慢しなさい』
……周りが人だらけだから、雰囲気も何もあったもんじゃない。これじゃ調べることもできそうにないわね。
「仕方ありません。私が団体に紛れて、聖術を組んで歩いてきます」
入場チケットを購入しておくとストーンヘンジを一周できる。ちょうど団体がその最中なので、それと一緒に歩いてくるそうだ。
「じゃあ頼むわ。私達はキャンピングカーで待機してるから」
「わかりました。では」
……キャンピングカーに戻り、備え付けのキッチンで夕ご飯の準備を終えて、待つこと……二時間。
「……遅い……ですわね」
「いくら何でも時間かかり過ぎよね?」
ヴィーのことだから大丈夫だとは思うけど……少し不安になった私は外へ駆け出した。すると。
「サ、サーチ? どうかしたのですか?」
「ヴィ、ヴィー! 無事だったのね!」
「ぶ、無事ですよ? 一体何があったのですか?」
「何があったって……あまりにもあんたの帰りが遅いから、心配してたのよ」
「あ……そういう事でしたか。それは申し訳ありません。あのストーンヘンジとかいう遺跡が、あまりにも……」
な、何か手がかりがあったの?
「あまりにも綺麗なフォルムでしたので、つい見とれてしまいました」
「…………は?」
「あの削られ方! あの配置! 全てが芸術と言っても過言ではありません! あの遺跡を作った方々は、相当に岩の美に精通された天才だったのでしょう!」
…………。
「あの這ってみたくなる表面のザラザラ……ああ、登ってみたい」
…………さすが蛇。普通に美的センスが違うわけね。ていうか。
「……それで二時間も見とれていたわけね。それより、ちゃんと聖術はかけてきたんでしょうね?」
「あ…………今から行ってきます」
……ミスリル製のハリセンを作り。
「え゛。サ、サーチ、それは勘弁してください! 謝ります! 謝りますから!」
すぱああん! すぱああん! すぱああん! すぱああああん!
「きゃああああああああああああ!!」
……緑の草原に、ヴィーの悲鳴が響き渡った。
「い、痛いぃぃ……お尻が三倍に腫れましたよ」
「あらあら、良かったわね。さぞかしグラマーになったでしょうよ」
「そ、それって私が凹凸に欠けると言いたいんですか!? 言わせていただきますが、胸はサーチよりも大きおぐっふぅ!」
「悪かったわね! どうせ私は胸が小さいわよ!」
「そ、そこまで言ってな……ぐふっ」
……さーて、ヴィーが人払いの聖術をかけてくれたみたいだから、今のうちにストーンヘンジを調べますか。
「……別に魔術的な要素は感じないわね」
「…………そうですか?」
「……? ナイアは何か感じるの?」
ナイアはジッと月を見上げて、ストーンヘンジの岩の配置に視線を向けた。
「……これは……」
「……?」
「月よ月夜に月見頃、月並みに踊れや……≪真月≫!」
ナイアは月魔術で偽物の月を作り出す。こ、この月の配置は……!?
「わ、私達がいた世界の月!?」
「はい。この世界の月に元の世界の月、その全ての月が揃った時……!」
……石柱の影が……中央で交わって……!?
バリ……バリバリ……
「これは……異世界の扉!?」
異世界って……まさか!?
「私達の世界?」
「わかりません……ただ、一番奥に何か強大な力を感じますわ」
強大な力……なら。
「≪万有法則≫の碑文?」
「可能性は十分にあり得ると思いますわ」
「この扉、いつまで開いてる?」
「この世界の月が光を失うまで……つまり夜明けですわ」
夜明け……あと五時間くらいか。
「わかったわ。私が行ってみる」
「行くんですのね? ならばワタクシも」
「月魔術は大丈夫なの?」
「この世界の月に力を借りていますわ。十分に持ちこたえますの」
そういうとナイアはパチンと指を鳴らす。すると一瞬で月の魔女スタイルになった。
「も、もうフル装備完了? 早いわね」
「この服は魔力で編んだモノですから……ほら、サーチも早く準備なさいませ」
「わかってるわよ」
急いで服を脱ぎ捨て、ビキニアーマーを取り出す。素早く装着して……はい、装備完了!
「ん〜……久々のビキニアーマー、感触が最高♪」
「サーチも準備完了ですか。私もOKです」
「ヴィー、いつの間に復活したの!?」
さ、流石は。
「蛇ですから。どうせ蛇ですから!」
……何も言ってないわよ……まだ。
「さて。なら久々のダンジョン攻略、開始よ!」
やっぱサーチはビキニアーマー。




