第十四話 ていうか、ついに来ましたロンドン! ストーンヘンジは忘れてホームズを堪能!
「り、陸です! 陸ですわ! ついに陸が見えましたわよ!」
「わかったわかった。ちょっと恥ずかしいから、黙ってましょうね〜」
いまだに船酔いから脱出できないナイアが「風に当たりたいですわ……」と言うので、甲板に連れてきたら……ちょうどジャストタイミングで陸が見えてきたのだ。
「ビバ、イギリス! ビバ、サウサンプトン!」
ナイアのはしゃぎっぷりったら、もう……ていうか、めっちゃ元気じゃん。
「ほらほら、さっさと降りる準備するから、あんたも荷物をまとめなさいよ」
「わかりましたわ……う」
う?
「は、はしゃぎ過ぎて……【見せられないよ】ーー!!」
「うっぎゃあああああああああ!」
な、生暖かい何か、何かがああああああああ!
「ご、ごべんばはい……」
たんこぶだらけのナイアが私に頭を下げる。
「ぜっっったいに許さないんだから!」
シャワーで全身を流したけど、まだ気持ち悪い。着てた服!? 全部捨てたわよ!
「サーチ、いきますよ……≪消臭≫」
「くんくんくん……あぁ、匂いが消えた………ありがと、ヴィー」
「いえいえ、私も経験者ですから」
白い目で見られて、ますます縮こまるナイア。
「あんたは船に乗ってる間は、ホウキで浮かんでた方がいいわ」
「そ、その手がありましたのね……!」
愕然とするナイア。ていうか、とっくに気づいてると思ってたわよ……。
長い長い旅の果て、私達はついに大英帝国へとたどり着いた。私達がいるサウサンプトンはイギリスでは有数の港町として知られ、世界一有名な沈没船が出港した港としても有名だ。
「ストーンヘンジという場所には、どのようにして行くんですの?」
「ん〜……正直よくわかんないから、とりあえずロンドンに行ってみましょう」
ていうか、私が個人的にロンドン市内を見てみたいだけなんだけど。
「でしたら電車で二時間程ですね。早速駅へ向かいましょう」
タクシーに乗って駅へ。そこからロンドン行きの電車に乗り、一路ロンドンを目指す。
「電車とは不思議な乗り物ですね。何とも言えない情緒を感じます」
「う、【汚物故に注意】ー!」
「……ナイアがいなければ……」
いやはや、情緒もくそもあったもんじゃない。私はナイアの背中をさすりながら、周りの皆様に頭を下げた。騒がしくてすいません……。
「え、駅は近いですわ……! そ、それまで、耐えてみせ……う! 【マジで汚いよ】ー!」
いや、耐えれてないでしょ……!
「おお……! ここが魔法学校行きの……!」
パーティの中で唯一原作を知っている私だけが感激し、全く知らないヴィーとナイアは首を傾げるだけだった。
「何ですか、その9と3/4というのは?」
「これはね、この世界で有名な魔法使いの小説の舞台の一つなのよ」
「魔法使いの小説?」
「ええ。原作ではこの壁が通り抜けられるようになっててね、その先にある汽車に乗っていくと……」
「通り抜けられるんですの?」
え、ちょっと待っ……!
びたあああああああん!
「い、痛いんですの……」
ズルズル……パタッ
おお〜〜!
『余程のファンなのでしょうね』
『あれだけ勢いをつけて突っ込むとは、原作愛が無ければ無理でしょう』
『いやはや、ファンの誉れですな』
……は、恥ずかしいことしないでよ……! スマホで撮られまくってるから、間違いなくネットに晒されるわよ……!
半泣きのナイアを回収して、私達はロンドン市街に出た。名物のロンドンタクシーに乗り込む。
『どちらまで?』
「えっと……まずはホテルですか?」
「そうですわね、まずは泊まるところを」
『ベイカー街っっ!』
「「……は?」」
『ベイカー通りね。ただし221Bは無いよ?』
『わかってますよ。でもシャーロキアンなら行くべきでしょ?』
『はいはい。ベイカー街ね』
「……サーチ、ベイカー街とは何ですか?」
ぐあっ! ヴィーのヤツ、ヒアリングできたのね!
「えーっと、その……私の大好きな……その……」
「私の大好きな?」
「えーっと…………私の好きな探偵が住んでるという設定の街よ!!」
もうこうなったら意地でも意思を押し通す!
「わかりました。サーチがそう言うのでしたら」
…………へ?
「い、いいの?」
「好きなモノなのでしょう? でしたら構いませんよ……ね、ナイア?」
「そうですわね。サーチが好きなモノでしたら、致し方ありませんわね」
「ふ、二人とも……」
「それに……」
「サーチの我が儘を聞かなかったら……」
「「後が怖いですから」」
「あ、あんたらねえ……」
私の様子を見てクスクス笑うと、ヴィーは少しだけ笑みを消して。
「それに……いつまでこの世界にいられるか、わかりませんから……」
「…………そうね。わかったわ、堪能させてもらうわ」
確かに……その通りね。ヴィーとナイアの好意に甘えさせてもらうわ。
「キャーー! ホームズの銅像よ銅像! この道をホームズは歩いたのよ! 見てよ見て見て、ホームズの博物館があるわよおお! そ、それにちゃんと221Bもあるわよ! あのロンタクのおっさん、ないとか言ってたのにちゃんとあるじゃない………って、何で引いてるのよ、二人とも」
「「い、いえ……」」
とある探偵マンガに影響を受けてから、夢中で小説を読み漁ったけど……あぁ、幸せ!
「……で、しゃーろっくというのは何方ですの?」
「どうやら架空の人物らしいですが……サーチをここまで夢中にさせるとは、なかなかの人物のようですね」
はぁぁ〜……満足満足。
「それよりサーチ、そろそろ泊まる場所を見つけませんと……」
「あ、そうね。もうこんな時間か」
ようやく夢から覚めたような心地の私は、いくつかのホテルを頭の中でピックアップする。
「……そうね。ここから十分くらい先にホテルがあるから、そこにしましょ」
「そうですね。サーチに付き合わされて、もうクタクタです」
「何ですって?」
「あ、いや、その……」
「まあまあサーチ、ポロッと本音が出てしまう事もありますわよ」
「あんですって!?」
「あ、つ、つい……」
「つい、じゃないわよ! あんた達、私をそういう目で見てたわけ!?」
「「はい! ……あっ」」
「あっ、じゃないわよおお! あんた達だけ違う部屋にしてやるからね!」
「そ、そんなああっ!」
「ま、ワタクシは別に構いませんが」
ま、あんた達のおかげで、この世界で再びホームズを満喫できたんだから……許してやるか。
サーチ、意外とシャーロキアン。




