第十一話 ていうか、私達が空港へ来て飛行機に乗るまでの話。
「さて、まずは最初の探索地を決めたいと思います」
危ういところで最臭兵器の発動は回避され、今私達の心は一つになった。
「蛙は嫌! いくら美味しくても、蛙はもう無理です!」
「タガメは禁止ですわ! 二度と食卓にあげないでくださいまし!」
まだバラバラか。食べ慣れるとヤミツキなんだけどな〜。
「とにかく。最初はどこにする?」
「そうですね……一番近くとなると、やはり万里の長城でしょうか」
「ただ万里の長城って名前は伊達じゃないわよ? 確か全長は7000㎞はあったはず」
「「はあっ!?」」
「中国っていう国の各時代の王様が、徐々に増築していったのよ。現存してるのから、すでに荒れ果てちゃったのも合わせれば、途方もないわよ」
「そ、それを全て調べるんですの?」
「そうね。全部歩いて、細かく細かく」
「……とりあえず回避しましょう。逆に短期間で調べられそうなモノは何ですか?」
「ストーンヘンジ、太陽のピラミッド、バベルの塔かな。この辺りは単一の建物だから」
「他は何ですの?」
「マチュピチュは都市の跡、ピラミッドは巨大な墓ね。ただいくつもあるのよ」
「太陽のピラミッドは何か違うのですか?」
「共通してるのは『形が似てる』ってことくらいかな。エジプトにあるピラミッドがあまりにも有名で、あとから見つかった似た建物は『〜のピラミッド』なんて言われたりするのよ」
「成程。で、どれにしましょうか?」
「そうね〜……私的には、ストーンヘンジ辺りからが無難じゃないかな、と思うんだけど」
「ではストーンヘンジで」
「決まりですわね」
そ、そんなにあっさりと……まあいいけど。
「で、旅の手段は歩きですか? クルマとかいう、便利そうな移動手段ですか?」
……それだと年単位じゃね?
「この世界には飛行機ってのがあるから、かなり早く到着するわよ。えっと、ヘルシンキ経由で半日くらいかな」
「……ストーンヘンジというところまで、距離的にどれくらいですの?」
「えーっと、たぶん10000kmくらい?」
「「い、一万!?」」
前の世界で例えますと、新大陸から東側へ飛んで、ゴールドサンを少し越えたくらいの場所ですな。
「そ、そんな距離をたった半日で!? こちらの世界には、何て恐ろしいモノがあるのですか!」
恐ろしい……かな?
「元こっち側の人間だった私にしてみれば、魔術や聖術、多種多様なスキルのほうがよっぽど驚異的だけどね」
ほぼデメリット無しで大砲並みの威力出せるって、小型戦車が歩いてるようなもんよ。
「え? こちらの世界の技術には、何かしらのデメリットがあるのですか?」
「飛行機だと大量の燃料消費と、それに伴う大気汚染がデメリットかな。魔術だとせいぜい魔力の消費じゃない?」
「そうですわね。それにしても、タイキオセンとは何ですの?」
向こうじゃ大気汚染なんてあり得ないもんね〜。
「空気中に……毒ガスを蔓延させてるって感じかな?」
「で、では、そのヒコーキというモノは、この世界を汚染しながら飛んでいるんですの!? な、何という愚かな事を……」
「だけど飛行機がないとこの世界は成立しないのよ。魔術がない代わりに違う手段……科学によってこの世界は進歩してきたの。だからやむを得ない面も多いのよ」
「で、ですが、この世界には毒ガスが蔓延しつつあるんですよね? だったら、いつか滅亡してしまうのでは?」
「このままだったら、ね。今は滅亡を阻止するための研究が急ピッチで行われているし、実際にデメリットの少ない代替エネルギーも生まれつつある。あとはこの世界の人間次第なのよ」
「人間次第……ですか」
「私達の世界でも言えることだけど、つまらない意地の張り合いを止められるかどうかってことよ」
数日後、旅の準備を終えた私達はある国際空港へ向かった。
「バ、バスっていうんですの、この乗合馬車のお化けみたいなのは」
「馬が引いていないのに勝手に走るとは……」
……私達は元の世界の言葉で話してるから、周りには理解されない。どこかの外国語、くらいに認識されるだろう。
「ちょっとサーチ、ワタクシ達何故か注目の的ですわよ?」
「そりゃそうでしょ。私達は端から見れば外国人なんだから」
しかも美少女三人組。目立たないわけがない。
「あ、そうだ。私達は注目されてる分、男に絡まれやすいだろうから、あまり大げさな対処はしないでね?」
「絡まれやすい……とは?」
「ま、ナンパされたり、チカンに狙われたりって感じね」
「ナ、ナンパ!?」「痴漢!?」
「向こうの世界と違って、人がぎゅうぎゅう詰めになることがしょっちゅうでさ。もちろん、老若男女関係なく」
「お、男と女が密着するんですの!?」
「当然あり得るわねぇ」
「……でしたら、男女別々に乗ればいいのでは?」
「全くその通りなんだけどね、実際にあるのは女性専用車両のみなの」
「女性専用って……男性専用は?」
「無いわね。私が知る限り」
「「…………」」
二人ともポカンとしている。
「な、何故そのような争いの種を蒔く真似を? 最初から男女別にした方が良かったのでは?」
全くもってその通りなんだけどね……この辺りが難しいとこなのよ。
「「うわああ……」」
二人にとって空港は、生まれて初めて見る巨大施設だったようで、田舎者丸出しの状態でポカンと口を開けている。
「ちょっとちょっと、置き引きにあっても知らないわよ」
「置き引きって……このキャリーケースですの?」
「どうせ囮ですから問題ありませんよ」
私達には魔法の袋という超便利アイテムがあるので、本来ならばキャリーケースなんかいらないんだけど……手ぶらだとかえって怪しまれるから、一応一つずつキャリーケースを持っているのだ。
「あのねえ、キャリーケースだって安くないんだからね? そこら辺に忘れてきたりしないでよ?」
「「はーい」」
私達は早めに搭乗手続きを済ませて荷物を預け、近くの喫茶店で軽く食事を済ませる。そしてすぐに保安検査場を抜けて、飛行機に乗り込んだ。
「せ、狭いですわね」
エコノミーですから。ケチってすいません。
「サーチはいいですわね、小柄ですから不自由ないでしょう」
「……ヴィーはともかく、あんたは私と大差ないじゃない」
「お生憎様、ワタクシまだ身長が伸びておりますの」
ま、いいけどね。私的には小柄がほうが戦いやすいし。
「……ここはWi-Fiがあるのですね。助かりました」
ヴィーは早速持ち込んだノートパソコンを広げ、イギリスやストーンヘンジについて調べ始めた。私も一台だけ契約したスマホをいじり始める。ナイアはワクワクした様子で窓の外を眺める。
こうして、私達は初めてのフライトを経験することになった。かなり最悪な事件に巻き込まれるとは知らず。
さあ皆さん、トラブルの時間は間近だ。




