第十話 ていうか三億円獲得の慰労パーティー!
「かんぱーい!」
「「かんぱーい!」」
銀行強盗からの三億円強奪計画は見事にうまくいき、私達の活動資金もできた。おまけに銀行と強盗犯との保険金詐欺も発覚し、銀行のお偉方が次々と逮捕されている。いやぁ、愉快愉快♪
「ヴィーもナイアもよくがんばってくれたわ。今日は腕に縒りを掛けて作ったから、たーくさん食べなさいよ!」
「「はーい♪」」
今日はすき焼きをメインに、他にもいろいろと作ってみました。計画完遂を祝して牛肉パーティなのだ♪
「スキヤキと言うんですの? 甘辛くて美味しいですわ!」
おお、ナイアには好印象だ。牛肉も超有名ブランドのA5を選んできたんだからね♪
「……」
と思ってたら、ヴィーはフォークを止めたまま動かない。も、もしかして牛肉苦手?
「ヴィー、どうしたの?」
「……これ……」
準備しておいた生卵を指差し。
「何度言ったらわかるのですか! 私は生卵の丸飲みはしません!」
「あー、そういうことか。違う違う。この料理は生卵につけて食べるのよ」
「あ……あぁ、そういう事なのですか。なら最初に言っていただければ……」
「あはは、言ってなかったっけ。ごめんごめん」
お詫びに私が卵を割ってあげる。無論、片手割りはお手のモノ。
「ナイア、あんたも卵……」
「はい? ワタクシ、既に食べてしまいましたの」
…………へ?
「か、殻は? 卵の殻は?」
「? 皆さんは丸飲みなさいませんの?」
ヴィーじゃなくてあんたが丸飲みするのかよ!
「なかなか喉越しがまろやかで、癖になりそうですわ」
「「…………」」
……私とヴィーは顔を見合わせ。
「ヴィー、生卵まるごとって喉越しいいの?」
「知・り・ま・せ・ん!」
……怒られた。
「そういえばあんた達には好き嫌いがないわね。特に嫌いなモノはないの?」
牛肉を足しながら聞く。すき焼きの具の減り具合を見る限り、二人ともがっつりと肉食だ。
「そうですね……私は以前にサーチが朝食に出してくれたナトウ? が嫌いです」
納豆だよ。どっかの軍事同盟じゃないんだから。
「そうですか? ワタクシは大変美味でしたわよ」
「……あんたって意外と順応性高いわね。もしかしてらっきょうや梅干しもイケるんじゃない?」
「どのような食べ物ですの?」
冷蔵庫に入れてあったらっきょうと梅干しを出し、ナイアに渡した。
「どれどれ……あら、中々香しい匂いですわね」
らっきょうの匂いをそう評せるって、相当な通だよ。
「どれどれ……あら、甘酸っぱくて歯応えがあって、美味しゅうございますわ」
……通だ。
「次はウメボシですの? こちらも刺激的な匂いですわね」
あ、迷わず口に入れて……ちょっと顔をしかめて。
「く、癖になりますわね。ご飯が進みそうですわ」
……マジで通だ。
「そ、そんなに美味しいんですか……ぱく」
あ、ヴィーが梅干しを……。
「……っっ!? 〜〜〜っ!!」
「わかるわかる。酸っぱいのね?」
ちなみに、今のヴィーの顔はまさに(´*`)だ。
「こ、これが食べ物なのですか!? これが身体に悪影響を及ぼさないのですか!?」
「塩分さえ気をつければ、かえって身体にいいんじゃないかな」
「か、身体に良い……? こちらの世界の食文化は、奥深いのか理解の範疇を越えるのか……」
私の故郷に対して、何気に失礼だっつーの。
「そうですか? ワタクシはとても共感が持てますわよ? ポリポリ」
……らっきょう一瓶食べちまいやがった。
「……あらら、ビールが切れちゃったわね」
「他にアルコールはありませんの?」
「ワインがあるわ。どうせだから開けちゃおか」
「ワインですか、いいですね」
すき焼きを平らげたあと、おつまみとビール片手に談笑していたんだけど、ビールからワインへの切り替えと同時に、おつまみも一新することにした。
「ワインといえばチーズ。今回は手の込んだモノはないけど」
「チーズですか。全然問題ありませんよ」
「チーズですの……ワタクシは遠慮しますわ」
あら? ナイアの手が止まった?
「ナイア、チーズが苦手なの?」
「チーズそのモノと言うよりは、匂いが苦手なんですの」
匂いかぁ。たまにいるよね、そういう人。
「そうですか? とてもいい香りだと思いますが」
ワイン片手にパクパクとチーズを食べるヴィー。さっきとは立場が逆転してるわね。
「ハムがあるから切ろうか?」
「お、お願い致しますわ……」
冷蔵庫を開けてハムを取り出し………あ、これもあったんだ。
「ヴィー、このチーズは食べられる?」
私は含み笑いをしながら、そのチーズをヴィーに渡した。
「はあ……あら、とてもいい香り」
「はあ!? そ、それ、ブルーチーズよ!?」
とっても臭いことで有名な、独特なチーズなんだけど!
「え? 美味しいですよ?」
すでに食べてるし! ていうか、ナイアは半泣きで逃げてるし!
「か、換気ですわ! 換気してくださいまし!」
ヴィーがブルーチーズを食べ終わってから、換気扇と聖術の応用で室内の空気の入れ替えをした。それでようやくナイアが納得してくれた。やれやれ。
「お互いに苦手な匂いには気を付けましょう」
「そうですわね。スメルハラスメントは、気配りで防げますわ」
ま、お互いに苦手なモノがわかったのは良かったのかもしんない。
「それじゃ、私のとっておきを出すわ。マジでうまいわよ〜」
そう言って大量の唐揚げを出した。
「いただきます………あ、美味しい」
「本当ですわ、美味しいですわ」
「お互いに口直しになるでしょ。見た目と違ってさっぱり系なのよね」
「へ!?」「み、見た目って……」
「はい、次はこれ。香ばしくてうまいわよ〜」
私が出したモノを一目見て。
「「ぎいゃああああああああああああっ!!」」
ヴィーとナイアは悲鳴をあげた。
「何よ、蜂の子は立派な食べ物よ?」
「サ、サササーチ! さっき私達が食べたのって……!」
「え? カエルだけど?」
「「い、いやああああああああ!」」
「何言ってんのよ。食用蛙っていうくらいだから、カエルは食べられるのよ?」
「そ、それは! そうかもしれませんけど!」
「せ、せめて一言言ってくださいまし! こ、心の準備が……!」
「なーに言ってんのよ。サソリやタガメよりは見た目はマシでしょ」
意外とおいしいけどね、サソリとタガメ。
「ま、参りました……サーチは私達の次元を遥かに越えています!」
「ワタクシ達の好き嫌いなんて、まだまだ甘いモノでしたのね……」
ちょっと、何か悟った目で私を見るのは止めてくんない?
「……そんなこと言っちゃうんなら、とっておきを開けちゃうぞ」
そう言って私は、シュールストレミングを取り出した。
サーチ、シュールストレミングはテロだよ?




