第七話 ていうか、倒される前のアントワナが何かしてくれてるっぽい。
七不思議って言ったって……今では痕跡すら残っていない場所ばっかなのに。
「最初に目撃されたのはピラミッドだったそうだ」
ピラミッドか。まあ唯一現存してるしね。
「それからマチュピチュ」
は?
「太陽のピラミッドにストーンヘンジ、バベルの塔」
わ、私が知ってる七不思議と違うような?
「そして万里の長城……」
……?
「あと一つは?」
「まだ現れた形跡はない。確認されているのが、以上の六つだ」
「……その七不思議は誰が提唱したヤツなの?」
「俺だが」
何だよ、もう……ていうかっ!
「なら七つとは限らないじゃない! これで終わりかもしれないし、七つを超えるかもしれないでしょ!」
「何を言うか! こういうモノは七つと決まっている! ではないと七不思議では無くなってしまうではないか!」
知るかっ!
「はあ〜あ……何かムダな時間を過ごした気が……」
で、でも、世界各地の有名な遺跡の場所で動きがあるってわかっただけでも儲けもんか。
「七不思議ねえ……七つ七つ……〝八つの絶望〟じゃないんだから………ん!?」
ま、まさか、今奇妙な連中が現れてる場所と、〝八つの絶望〟と、何かしら繋がりがある?
「…………いくら何でも飛躍しすぎか。これだけ次元が違う世界で、繋がりがあるって考える方がおかしいわよね……」
大体それじゃ世界の八不思議になっちゃうしね。
結局それ以上の情報が獲られることはなく、トボトボと拠点へ帰った。
もうナイアは先に戻っていた。
「あ、サーチ。お帰りなさい」
「ただいま。どうだった?」
「新聞に面白い共通点がある事件が掲載されてましたわ」
共通点?
「この世界に点在する古い遺跡内で、なぜか殺人事件が起きていたのですわ」
「殺人事件って……そう珍しいことでは……」
カンボジアのアンコールワットなんかは、周りが内戦の舞台になってたくらいだし。
「それがですね、ヴィーがその件をネットで検索していたら、その殺人事件にはある共通点が見つかったのですわ」
また共通点?
「はい。何件かですが、殺人事件の現場の画像がアップされていたのですが……」
んなもんアップするな。また『ググってはいけない』ってヤツを増やしてるのかよ。
「どうも魔術的な痕跡があるようなのです」
ま、魔術的な!?
「そ、その殺人事件が起きてるのって、ピラミッド、マチュピチュ、ストーンヘンジ、バベルの塔、太陽のピラミッド、万里の長城だったり?」
「そ、その通りです! 何故知っているのですか!?」
はは……どうやら各遺跡で目撃された奇妙な格好した連中って、私達の世界に関わってるみたいね……。
「裏社会で出回ってる情報の一つに、遺跡に変な格好した人達が現れる、って話があったの」
「その場所と殺人事件の起きた現場が共通してるわけですね? なら、関わりがない方がおかしいです」
「サーチ、その変な格好した人達って、どのような格好でしたの?」
「……実際に見たわけじゃないけど、どうやら鎧やら盾やら剣やら……って感じだったみたいよ」
「なら間違いないじゃないですか! 私達がいた世界とその遺跡が繋がってるんですよ!」
……でもねぇ……そんなに都合よく繋がりがあるのかな?
「サーチ、可能じゃないですか。あのスキルを使えば」
……あ!
「≪万有法則≫なら……!」
「そうです。私達に倒される前にアントワナが空間の穴を作っていれば、向こうの世界から侵入は可能です」
「ていうか、その可能性が大だわね。あのバカ、余計なことを……!」
「サーチ、もしかしてですが、アントワナは碑文を向こうの世界へ持ち込もうとしていたのでは?」
「碑文を? 自分がくるときに持ってこればいいんじゃね?」
「それは無理でしょう。向こうの世界に渡ったのも偶発的でしたし、何より霊体では物理的に運搬は不可能でしょう」
た、確かに。
「だとしたら、アントワナ自身がその碑文を発見した場所から動かせてない……と見るのが自然でしょう」
「ああ、なるほど。いずれ身体を手に入れてから、自分で運搬するために空間の穴を空けておいたと?」
「ちょっとお待ちになって。ならばあちらこちらの遺跡に穴を空けておく必要はないんじゃなくて?」
「その点は私もわかりませんが、もしかしたら他にも碑文が存在したのかもしれません」
「あるいは碑文を見つけにくくするために、わざと囮の穴を作っておいたか。どちらにしても、私達がすべきことは決まったわ」
「……各遺跡を回る?」
「それしかないっしょ。先を越されてる感はありありだけど、まずは敵がどこの勢力なのかを知らないと」
「すでに敵が現れたであろう遺跡なら、何かしら手掛かりが残っているかもしれませんわね」
残念ながら、それに賭けるしかないわね。ホントに分が悪いこと。
方針は定まった。ならば行動あるのみ。
「……なんだけど……先立つモノがないのよね……」
ピラミッドはアフリカ大陸、バベルの塔は中東、太陽のピラミッドとマチュピチュは南米。ストーンヘンジはイギリスだ。
「一番近い万里の長城でも、正直言ってキビしいわね……渡航費に滞在費を考えれば、今の予算では中国でも難しい」
「また盗賊から巻き上げればいいんじゃないんですの?」
「あのねえ、そんなことばっかやってれば目立って仕方ないでしょうが」
ただでさえ私達の立場は微妙なのだ。あまり騒ぎを大きくして、私達の存在が悟られるようなことはしたくない。
「ならば一攫千金。一度に多くのお金を手に入れられればよいのでは?」
「一攫千金って……ヴィー、そう簡単に言わないでよ。どこにそんな大量のお金を保有してる場所があるのよ?」
ヴィーは私にネットの記事を見るよう促した。えっと、何々?
『○○で銀行強盗発生。犯人は三億円相当の現金を奪うと、そのまま逃走した』
……って、まさか!?
「その強盗したお金を、私達でいただいてしまえばいいのでは?」
う、奪うって……。
「ヴィーさんもサーチに染まってきましたわね」
……ナイアさん? 何気に失礼なんですけど?
「でもそれなら問題ないですわね。お金さえ奪って、犯人はそのまま警備隊に突き出してしまえばよいのですし」
「聖術で記憶を操作しておけば、100%バレる事もないですね」
ナイアとヴィーがニヤリと笑う。や、やべえ。私に染まってきたって話、否定できないかもしれない。
アントワナ、しつこい。




