第五話 ていうか、元の世界との連絡方法を考える。
「…………」
パスタを茹でながら周りを確認する。
まるでデザイナーが設計したようなキッチンは、今では当たり前となっている対面式。私の視線の先には、この世界のことを肴に会話に花を咲かせるナイアとヴィーがいて、幸せそうに微笑んでいる。
「……何か……何かが違う……」
結局私が思っていたモノと大きく変化してしまい、必要ないだろうと思っていた冷蔵庫や照明器具まで買うことに。さらに近くの電線からムリヤリ電気を引き(当然違法です)、さらにさらにケーブルテレビの回線まで引き込むことになってしまった。
結果として、大変に現代的なデザイナーズマンションと化してしまったのだ……。
「……この調子だとベッドもいるんだろうな……」
最近のヴィーのこだわりがハンパない。いつからリフォームの匠になったのやら。
「あら、天窓という真上に付く窓もあるのですね」
「では、中に居ながら月を拝めるんですわね! とても良いですわ!」
「なら早速明日から作業に入りましょう」
…………はあ。
「はい、できたわよ〜」
「「はーい」」
「……ていうか、あんた達はこっちの世界に馴染みすぎなのよ。少し前まで『な、何ですか、この不思議な板は!?』とか言ってた人が、普通にタブレットでリフォーム関連のサイトを検索しないでよ……」
「え? マズいでしょうか?」
いや、マズくはないんだけど……この間まで蛇や聖術を駆使してモンスターを撃退していた人が、普通にスウェットを着てタブレットで検索してるってのが違和感ありまくりなだけ。
「ヴィーさん、少し頼まれていただけます?」
「何ですか、ナイア」
「てれびを点けようとしたら、何か違うモノが回り始めますの」
「ナイア、それは扇風機のリモコンです」
ナイアを見ると安心する。ていうか、あれだけボタンの量が違うリモコンなのに、なんで間違えるのやら。
「ほらほら冷めちゃうから、さっさと食べなさい」
「「はーい」」
そう言いつつ私も食べ始める。スプーンの上でフォークをくるくるさせ、パスタを絡ませて食べる。
ズズズ〜ッ
「…………」
ズズズ〜ッ
……しまった。パスタとラーメンの食べかたの違いを説明してなかった。
とりあえず落ち着いた環境にはなったので、ご飯のあとに今後のことを話し合った。
「はっきり言って、どうしようもないです」
「そ、そうなの?」
「サーチの話ですと、こちらの世界には魔術自体が存在しないんですよね?」
「ええ。概念はあるんだけど、実在はしてない……と思う」
「つまり、魔術関連の補助具は一切期待できないわけです。そうなると、現状では自分達の聖術・魔術と知識しか頼りにならないわけです」
「え、ええ。そうね」
「で、私の聖術では空間を越えた念話は不可能ですし、空間を越えての移動なんて夢物語です。ナイアの月魔術はどうですか?」
「そうですわね。空間を超越した念話は難しいですが、空間に物を送るくらいは可能ですわ」
「ああ、≪ゴミ箱≫か」
「ゴミ箱ではありませんわ! ちゃんとした名前がありましてよ!」
「いいじゃん、≪ゴミ箱≫で」
「よくありませんわ! 大体ゴミ箱等と言うネーミングは……」
「でもゴミ箱以外に利用してないじゃん?」
「そ、それは……そうかもしれませんが……」
「サーチも、ナイアも。話が脱線してますよ」
あ、失礼。
「つまりナイアも打つ手がありません。現状では私達にはどうする事もできないのです」
「なら……どうするんですの?」
ヴィーはため息を吐いて……一言だけ。
「……陛下や魔王様に頑張っていただくしかありません」
……そうなるわね。魔術関連には門外漢の私でも、それはわかる。
「……一応聞くけどさ。ナイアの≪ゴミ箱≫って、空間を選別してモノを放り込んでるわけ?」
「ゴミ箱ではありませんわ! 因みにご質問の答えですが、一応空間は選別しています。大体は何もない空間に放り込んでますわね」
「つっこむとこはつっこむわねぇ……じゃあさ、ピンポイントでモノを送ることはできる?」
「……言いたい事はわかりました。つまり元の世界へ物を送れないか、という事ですわね? ワタクシには不可能ですわ」
「何で?」
「空間に穴を空けるだけでも、相当な集中力を必要とします。それに更に場所の選定まで必要となると、ワタクシ個人の限界を越えますわ」
「……ナイアが≪ゴミ箱≫に集中してる間、ヴィーが手助けするとか?」
「…………うーん……魔術と聖術のコラボですか? 一度も試した事はありませんが……」
コラボって……何で知ってるのよ?
「……モノは試しです。一度試してみましょうか?」
「やはりイメージする事が大切です。あちらの世界で印象深い事を思い浮かべましょう」
まずはビル内に残っていた瓦礫を送ってみることにし、ヴィーの助言通りに必死にイメージした。
(向こうの世界のイメージ……イメージ…………うーん……マーシャンへの恨みしか浮かんでこない……んん!?)
「ヴィー、場所とかじゃなくて、一個人を思い浮かべたらどうなる?」
「その場合はその個人の上空にモノが出現しますね」
……それだ。よし、マーシャンマーシャンマーシャン……!
……ブゥゥゥン……
「ん? 何じゃ?」
ブウンッ! ひゅ〜……すかんっ!
「んぎゃあ!」
「へ、陛下!?」
「……うまくいった……気がしますわ」
「ならコラボは成功ですね。サーチがイメージして、私が聖術でナイアにイメージを増幅して送る。そしてナイアが≪ゴミ箱≫でモノを送る、と」
「だからゴミ箱ではありませんわ!」
ナイアの抗議は放っておいて、次は手紙を送ることにした。
……ブゥゥゥン……
「またか。一体何なんじゃ!?」
ブウンッ! バリバリ!
「? な、何じゃ? 紙吹雪が……?」
「……失敗した気がします」
あ、そうか。今回のイメージはマーシャンへの強い恨みが原動力だから……。
「……たぶん凶器の方が送りやすいんじゃないかな?」
……ブゥゥゥン……
「い、一体何なんじゃ!」
ブウンッ! ビュビュビュ! さくさくさくっ!
「ぎゃあああああ!」
「へ、陛下の脳天に包丁が!?」
「……凄くうまくいった気がしますわ」
やっぱり! なら大きいモノに直接メッセージを書き込んで、それを転送すれば……!
「ヴィー、何か大きいモノない? メッセージを書き込めるくらいの!」
「お、大きいモノですか!? …………あ、確かあれが……」
……ブゥゥゥン……
「陛下、しっかりしてください! 出血が止まらないぞ!」
ブウンッ! ひゅ〜……べんっ!
「んぎゃあ! ……こ、今度はタライが……ん?」
「へ、陛下。何か書かれてますよ?」
「こ、これは! サーチの字ではないか! す、すぐにエイミアを呼ぶのじゃ!」
……ブゥゥゥン……ブンッ! ブンッ! ブンッ!
べんっ! べべべん!
「ふげっ! あぎゃぎゃぎゃぎゃ!」
「へ、陛下ーー!」
「間違いなくうまくいった気がしますわ」
ちょっと送りすぎたかな?
べんっ!




