第四話 ていうか、何ということでしょう。あの廃ビルが立派な住居に早変わり!?
とりあえず拠点は手に入った。だけど。
「「「汚い……」」」
当たり前っちゃー当たり前か。十数年間、悪霊によって占領され、肝試しにモノ好きがたまーにくるぐらいな場所だ。キレイなはずがない。
「そうなると掃除ね。あとは内装か」
うーん、お金がかかるなぁ。自分達でできる限りやるしかないか。
「それじゃあ中の掃除は……」
「ワタクシにお任せくださいな」
え? ナイアが?
「……何ですの、その疑いの目は?」
「い、いや、ナイアって元貴族令嬢でしょ? 掃除とかしたことなさそうなイメージが……」
「……ワタクシには専属の侍女が居なかったんですの。ですから自分で身の回りの事は……」
「すんませんした!」
無意味にナイアのボッチ歴をえぐってしまい、ドンヨリとした状態で掃除を開始させてしまうことになった。ごめんよう。
「ヴィーは聖術を使って害虫駆除をお願い。絶対にネズミやらダニやらいっぱいいるから」
「了解しました」
「それと……ナイアを手伝ってあげて」
「わ、私にその役を振るのですか!? 完全にサーチのせいじゃないですか!」
「そう言わずにさ。ね? ね?」
「…………はぁ、わかりました。貸しですからね。それより、サーチはどうするのですか?」
「私? ちょーっとやらなくちゃならないことがあってさ……ヴィー、ちょっと壁を背に立ってくれる?」
中古で買ってきたデジカメを取り出した。
ヴィーとナイアを撮り終えてから二駅分ほど移動し、オタクの聖地として有名な歓楽街に入る。そこから路地裏をいくつも曲がり、とある行き止まりで足を止める。まだ営業してるかな?
コンコン
壁を二回叩き、しばらく待つ。そして、さらに壁をを五回叩いた。
『……誰だ。セールスマンはお断りだぞ』
やりぃ。まだ営業してたわ。
「そう言わずに。ウチのポチはよくネズミを狩るわよ」
合言葉を伝えると、足元にあるマンホールがゴトゴトと動き。
ゴトッ ズズズッ
「……入れ」
出てきた男に促されるまま、私はマンホールに潜った。毎回思うけど、壁を叩いたのに、なぜマンホールが出入口?
マンホールから階段を下りると、三つほど頑丈なドアを通過する。相変わらず厳重な警備だこと。
奥の事務所らしい場所に着くと、ソファに座るよう促された。
「……仕事は?」
お茶が出される。ペットボトルだけど。
「三人分のパスポート偽造。あとは国際免許も」
「……以上か?」
「それと、とある物件の取得の手続き」
「物件だぁ? 不動産屋に行けや」
「○×町の心霊ビルなんだけど」
「……あれか。あれはどこかのヤクザの持ち物だったな……わかった。報酬は?」
「某国会議員の闇口座の情報」
「……足らないな」
「ええ!? なら……某有名大学の裏口入学のリスト! これ以上は出せないわよ!」
「……リストに名前のある人物は?」
「現外相の娘とか」
「いいだろう。それで手を打とう」
く……! とっておきだったのに……!
私が来てるのは、前世で度々利用していた裏の便利屋。パスポートの偽造や公的書類の改ざんなど、非合法な情報操作を得意としている。お金があまりない現状では、有用な情報で依頼を引き受けてくれるのはありがたい。
「は〜あ。まさかとっておきを二つも失うとは……」
さっき取引に持ち出した情報は、前世で私が手に入れていたモノだ。もう使うことはないと思ってたんだけど、とっておき情報が……ま、役に立ったんだからいいか。
「……まずは物件の取得だが、これは完了した。今日中には書類も全て渡す」
早っ!
「但しパスポートと国際免許に時間がかかる。待つか?」
一旦戻ろうかな。いや、その前に家財道具を見ていこうかな。
「時間は?」
「半日」
……四時くらいか。
「ならお願い。あ、これ、画像のデータね」
デジカメごと渡すと、出口に向かった。
「おい、国籍はどうするんだ?」
……あ、忘れてた。
「私とナイアって娘は台湾でいいわ。ヴィーは……」
あの容姿からいったら……それにメドゥーサだし。
「ギリシャ」
しかないっしょ。
ズ……ズズズッ
「お、重いぃ……!」
前世より『力』は落ちてるんだから、当然だわね……! 苦労してマンホールのフタを戻すと、周りに人がいないか確認する。
「……よし、大丈夫ね」
手始めにパソコンと……ヴィー達にはタブレットの方がいいかな。
「聖術の応用で電化製品使えないかな……。いざとなったら、近くの電線から拝借するしかないか」
とりあえず必要なのは情報収集のためのパソコンとテレビ、寝具は……野営用の寝袋でいいか。
「流石に室内で火を焚くわけにはいかないから、ガスコンロくらいは欲しいな……」
よし、カセットコンロにしとこ。あとは電子レンジもあると便利か。
「偽装用にキャリーケースを三つ買って……よし、お金は十分足りるわね」
ついでに食材も買っていこう。
四時十分前。やっぱりこういう時間厳守は、自分を日本人だと痛感する……元だけど。
「はろはろ〜」
「……出来ているぞ」
そう言うとパスポートを三冊と国際免許を一枚を投げて渡してくる。
「おお、本物と見間違えるくらいの出来ね」
「当たり前だ。本物以上だからな」
豪語するだけあって、細かい箇所も徹底的に作り込まれている。
「私がチ○ン・リーでナイアがフ○イ・ロン? どっかで聞いたような……」
細部にこだわるんなら、名前を手抜きすんじゃないわよ。大体フ○イ・ロンは男だぞ。
「ヴィーは…………おい、何だよ、ヴィー・ライダーって……」
安直すぎるっつーの。確かにライダーもメドゥーサだったけど……。
「ん? 何でメドゥーサのことを知ってる?」
ウヤムヤにされて何か気になったけど、気にしてもしょうがないので拠点の廃ビルに戻ることにした。
「……ん? あんなキレイな建物だったっけ?」
妙に白くなったような……?
「あ、サーチ、お帰りなさい」
「ただいまヴィー。窓拭きまでしてるの?」
「はい。掃除は早く終わりましたので、ついでに内装に手を加えました」
うん、素晴らしい。ていうか、内装はついでにやるもんじゃないわよ?
「それより中を見てください」
「あーはいはい。夕ご飯の準備もするわ」
そう言って中に入ると……。
「な、何じゃこりゃああああ!?」
何ということでしょう。あれだけ荒れ放題だった玄関が、モダンでオシャレな洋風の玄関ホールに変身したではありませんか!
「ど、どうやったの!?」
「ビルに落ちていた雑誌を参考にしました」
えっと……『月刊手作りリフォーム』……そんな雑誌あるんだ。
「一階はダイニングキッチンとユニットバスを置きました」
どこから持ってきた、ユニットバス!?
「二階は三人分の個室。二部屋ほど余りましたので、後々収納にでも」
は、はあ……。
「私とサーチの部屋には秘密の出入口が」
いらん。
「それに防音は完璧にしてあります」
いらん。ていうか、ナニするつもりだよ!
「三階は完全なフリースペースの予定です」
予定?
「今ナイアが壁をぶち抜き中」
どっかああん!
パラパラ……
「ナイアが見事な破壊を繰り広げてくれましたから、作業はスムーズでした」
どっかああん!
パラパラ……
……あんた達、リフォーム業で食っていけるわよ……。
聖術万能すぎるだろ。




