第三話 ていうか、 新しい世界でも新しい拠点探し。
どうにか三人でベッドで寝た。ていうか、めっちゃ狭い。リルやエカテルとなら少しは楽だったかも……胸囲的に。
朝は早めに起きて、近くの喫茶店でモーニングをいただく。
「な、何ですか、この茶色い液体は?」
「え、コーヒー知らないの?」
「そういえば暗黒大陸にはありませんでしたね」
そう言ってからヴィーは一口すする。完全なブラック派だ。
「うん、美味しい。それにとっても良い薫りです」
「た、確かに良い薫りですわね……ならワタクシも一口」
ヴィーを真似て少し飲んだナイアは、速攻でおしぼりを口に当てた。
「に、にっがあああ!」
「あはは、私でもブラックは苦手なのよ」
そう言ってミルクを入れて、さらに砂糖も入れる。私は全部入れるタイプだ。
「……うん、ちょうどいい。苦いのがイヤなら、こうすればいいのよ」
「…………」
ナイアは私を真似て、ミルクと砂糖を入れて挑戦するが……それでも表情は芳しくなかった。
「すいませーん、紅茶いただけます?」
代わりに出してもらった紅茶は暗黒大陸でもお馴染みだったので、ナイアは喜んで飲んだ。完全に紅茶派だったのね。
「さて……ホテルをチェックアウトしてからだけど、早速物件を見て回る?」
「物件? 新しい拠点ですの?」
「ねえヴィー、聖術で建物の修復とかできる?」
「大丈夫ですよ」
「ならお祓いは?」
「それでしたらワタクシもできますし、サーチはミスリルを作れますでしょ?」
あ、そうだったわ。これはヴィーに頼らなくてもイケるわね。
「なら……荒事も全く問題ないわよね?」
そう言って伝票を手に取った。
とりあえずは路地裏へ。しばらく歩いてみれば。
「ひゅー♪ おいおい、綺麗な娘達が路地裏に迷い込んできてるぜー」
「迷子の迷子の子猫ちゃん♪ 俺らと一緒に遊ばない?」
早速出てきたヤンチャな子達。早速。
どごべきがんがんがんぼごぉ!
「「へぶぅ!」」
気絶しない程度に張り倒し。
「さて、あんた達のたまり場へ案内しなさい」
「だ、誰が……おごおおおっ!?」
「さて、次。たまり場へ案内するか、男として不能になるか。どっちがいい?」
「全力で案内させていただきます!」
股間を押さえて泡を吹く男を転がしたまま、私達はもう片方の男の案内で移動した。成仏しなさいよ、南無。
「へばあ!」「ぎゃひ!」「ぐふぇ!?」
たまり場にいた男女十数人も分け隔てなく張り倒し、全員ロープでぐるぐる巻きにして転がす。
「さて……どう、ヴィー、ここは?」
「そうですね……老朽化が激しいですね。骨組み自体にもダメージがあるようです」
どっかああん!
ナイアがハンマー型ホウキで壁に穴を空け、鉄筋を剥き出しにする。
「これでいいんですの、サーチ?」
「ありがと。あらら、鉄筋もあんまり入ってないわね。こりゃ手抜きだわ」
三人で相談の上、この物件は却下となった。
「おい、お前ら! 俺達にケンカ売ってただて済むとひぎゃああああ!」
とりあえずは不能にしておいて、ポケットにあった長財布を頂戴する。ち、シケてるわね。
「あ、あんた達、アタシ達に恨みでもあるの!?」
ケバい女の子に聞かれたけど。
「ない」
「な!? なら何で!」
「何でって……案内された先がここだったから」
「そんなフザけた理由でぃぎゃああああ!」
うるさいので股間を一蹴りして黙らせ、ハンドバッグから財布をいただく。お、大量。
「さて、ヴィー、ナイア。全員潰すわよ」
「ぎゃああああ!」
「ぐあああああ!」
「きゃああああ!」
「があああああ!」
全員股間を押さえて失神したのを確認してから、ヴィーに念入りに≪初期化≫で記憶を消してもらった。
「さーて、次の物件にいきますか」
「……サーチ、あそこまでする必要があるんですの?」
「いいのいいの。盗賊とそんなに変わらない連中だから。まあ殺されないだけマシってもんよ」
この辺りの治安が異常に良くなったって、警察が喜ぶでしょ。
「よーよー姉ちゃんよー」
ほらほら、来た来た。同様の手口で男を一人確保し、再びたまり場へと向かった。
「……うーん……やっぱ廃ビルは廃ビルなだけあるわね……」
五件ほど回ったけど、どれも似たような感じ。地震があれば即崩れそうな建物ばかりだった。
「……あら、この廃ビルは比較的新しいみたいですわよ?
トボトボと路地裏を歩いていると、比較的新しい割には無人なビルが目に入った。
「三階立て……見た感じは悪くないけど……」
めっちゃイヤな感じしかしないわね。
「間違いなく呪われていますね」
リジーがいたら大喜びの物件だわね。
「じゃあ……ここ行ってみる?」
「そうですわね。立地的にも問題ありませんし」
「ゾンビくらいなら楽勝ですの」
ゾンビいたら大変なことになるわよ、この世界。
……ォォォォ……
いい感じにオドロオドロしいわね♪
「間違いなく呪われていますね」
「さっさと祓っちゃいましょうか。悪霊さーん、出てきてくださいなー♪」
……ォォォ……ウオオオ!
あ、来た。
「お、これはなかなか……落第」
「見た目はゾンビ以下ですわね」
「呪いの力も大した事ありませんね」
姿を見せても驚かず、しかも散々に自分をコキ下ろす侵入者にキレたらしく、悪霊は牙を剥いて私達に向かってきた。
が。
「≪偽物≫」
ぼかっ!
ごぅえええ!?
ミスリルのトンファーでブッ飛ばされ、廊下の奥へ消えていく。
「あらら、今の一撃でほぼ消滅状態ですわね」
弱っ。
「……いや、周りを悪霊達が囲み始めてます。どうやら辺りの仲間を集めて、一斉攻撃を仕掛けるつもりのようですね」
一斉攻撃って……悪霊が物理的な攻撃できるのかな?
……ァァァァァ……
「あ、来ましたわね。今度はワタクシが蹴散らしますわ」
そう言ってホウキを片手に、スタスタと歩いていく。
ア゛ア゛ア゛!
脅かすつもりで怖い顔をする悪霊達だけど、モンスターに慣れきってる私達には効果はない。
ア゛ア゛! ア゛ア゛ア゛!
一切無視をしていたナイアは、近寄ってきた悪霊をホウキで叩いた。
ァヴ!?
「ほーらほら」
サッサッサッ
ギャ! ギャアア!
まるでゴミでも掃くかのように、ホウキで悪霊達を掃き集め。
サッサッサッサッ ポイ
空間に穴を空けると、そこへまとめて放り込んだ。あの何とかって魔術。えっと………≪ゴミ箱≫だったかな?
「はい、これで終了ですわ……何を悩んでいらっしゃるの、サーチは?」
「さあ……」
……やっぱ≪ゴミ箱≫でいいや。
こうして日本中で『史上最悪の心霊スポット』と呼ばれていた廃ビルが、私達の新しい拠点となった。
拠点確保。




