第二十三話 ていうか、空間を飛び越えてリジーのために栄養ドリンクを!
「で、では、サーチには心当たりがあるのか!?」
「あるっちゃーあるんだけど……」
「何処じゃ!? 何処にあるんじゃ!? 行けるところなら今すぐ転移してやるぞい!」
「いや、たぶんマーシャンでもソレイユでも転移できないと思う……」
何てったって前世の世界だしねぇ……。
「成程の……サーチが元々いた世界かえ……」
「流石にこれは気軽に行ける場所じゃないでしょ」
ていうか、気軽に行けるんなら〝知識の創成〟も苦労はなかったろうし。
「いや、≪空間回廊≫があれば比較的簡単じゃぞい?」
「「「はいぃ!?」」」
ちょっと待て! この女王様、異世界への転移を『比較的簡単』とか抜かしやがったわよ!?
「目標を定めぬ、ならな。≪空間回廊≫の難しさは、行き先をピンポイントで選定する事なのじゃ」
「……あ、あぁ。そういうこと。普通の≪空間回廊≫は、対象を未知の世界に飛ばす目的の魔術ってわけね?」
「そうじゃ」
「それを応用して、目的の世界へ行くことができると?」
「理論上はな」
……理論上ってのは、一番くせモノなのよね……。
「しかしそれには膨大な魔力が必要となる。それがこの魔術の欠点じゃな」
「大丈夫! 大量のMPポーションは確保済み!」
「術を使いながら飲めるわけなかろう! かなり繊細な制御が必要な魔術なのじゃ!」
う〜ん……なら。
「エカテル、悪いけどナイアを呼んできてくれない?」
「わかりました」
「……そういえば、ナイアは……」
そう。ナイアは≪魔力変換≫という魔力を供給する魔術が使えたはず。
「……というわけで、マーシャンの魔力が枯渇しそうになったら、≪魔力変換≫をしてやってほしいの」
「全然構いませんわ。それでリジーが助かるのならば、安いモノですもの」
「うむ、よろしく頼む……それにしても、月の魔女が実在しておったとはのう……」
「ワタクシも驚きましたから。女王陛下のご尊顔を拝しまして、恐悦至極に存じますわ」
「ああ、そう固い事は言いっこ無しじゃ。月の魔女ならば、妾と同等の立場故にな」
「そ、そう言っていただければ幸いですわ」
そんな会話がなされてから、マーシャンとナイアは具体的な魔術話を始めた。私には理解不能な内容なので割合する。
「ではサーチ、お主の思考を借りるぞい」
……はい?
「要はお主の記憶を頼りに、行くべき世界への道を探るのじゃ」
「べ、別に構わないけど……何か具体的なモノを想像すればいいの?」
「そうじゃ。その方が辿りやすい」
「OK。いつでもいいわよ」
マーシャンの手が私の頭に置かれる。よし、イメージするんだ、イメージ。
「…………」
い、いざイメージしようとすると……結構ムズいわね……。
(要は向こうの世界の何かを考えればいいわけよね? なら……)
向こうの世界での印象深いこと…………うーん、少し小腹が空いた……じゃなくて! ん? 小腹?
「……あ、ラーメン」
「よし! 見えたのじゃ!」
……ァァァアアア!
ゴゴゴゴ……
「……よし、成功じゃ。これでサーチのいた世界と繋がった」
めっちゃ簡単に次元の壁を越えやがったよ! しかもラーメンで!
「……ラーメンは次元の壁をも超越するのね……」
「? 何を言うとる?」
いえ、何でもありません。
「さて、ならばワシが実験台として空間を渡るかの」
マ、マーシャンが!?
「ちょっと、大丈夫なの?」
「おそらくはな。もしも不測の事態が起きても、ワシならある程度は魔術で何とかできるわぃ」
「で、でも……」
「それに……妾もリジーの事は心配なのでな」
……普通なら感動的なシーンなんだろうけど、マーシャンが明らかに『恩を売りつけて、リジーには身体で……ぐへへへ』っていう顔をしてるから、嫌悪感しかない。
「では言ってくるかの……せやっ!」
すぽんっ!
「……逝きましたね」
ヴィー、字が違う。
「ワタクシが想像していた女王陛下と、少ぅし違いましたわ……」
いや、かなりでは。
……クコココ
「あ、戻ってきたみたいですよ」
ゴゴゴゴ……すぽんっ!
「あっちゃああああああ! 熱! 熱! 熱!」
マーシャンは片足を真っ赤にして戻ってきた。
「あちあちあちあち! ヴィ、ヴィー! 治療してくれぃぃぃ!」
「あ、はい。≪回復≫」
足を……ヤケドしてる?
「どうなさったんですの? まさか敵の攻撃?」
「い、いや、何がなんだか……」
私はマーシャンの足に付着していた白くて細長いモノを摘まんだ。
「……うん、間違いない、ラーメンだわ。マーシャンは麺を茹でていた鍋に足を突っ込んだのよ」
「茹でていた鍋!? 何故そのようなモノが転移先にあるんじゃ!」
たぶんラーメンを想像した私のせいです。
「でもこれで私の前世の世界に繋がったことが証明されたわ」
「そ、そうか! では……」
「ええ。リジーを救うために必要なモノを手に入れられる!」
あとはどこをイメージするかよね……コンビニかな? 薬局かな?
「さて……ナイア、魔力を頼む」
「わかりましたわ」
するとナイアは、マーシャンをギュッと抱きしめ……えぇ!?
「ど、どうしたのナイア!? あんたまでマーシャンに毒されちゃったの!?」
「どうしたもこうしたも、こうしないと≪魔力変換≫が出来ないんですわ」
…………あ、なるほど。
「む、胸が……ムホ♪」
「陛下、そのように顔を動かされるとくすぐったいのですが……」
あ、それより私はイメージしないとダメだったんだっけ。コンビニをイメージイメージ……。
「……これか!?」
マーシャンが空間の穴に飛び込んでから五分後。私が伝えた通りのパッケージの箱を手に、マーシャンが戻ってきた。
「うん、○ンケル……ちゃんと必要な栄養素も配合されてる……OK! マーシャン、これで大丈夫よ!」
「「「よっしゃああ!」」」
全員で喜びを爆発させる。何だかんだ言っても、リジーは愛されキャラだ。
「ではワシはリジーに飲ませてくるわい。口移しじゃい、うほほーい♪」
ちょっと待てい……っていいか。マーシャンも骨を折ってくれたんだから、それくらい役得があったって。
「これで正真正銘全部解決ね。ふぁ〜あ」
私が背伸びをしていると、誰かが私の肩を叩いた。
「ん、な〜に?」
「サーチ……最初にマーシャンが空けた穴、様子がおかしいんですけど……」
マーシャンのヤツ、ラーメン屋に開通した穴を塞ぎ忘れたのね。
「大丈夫よ、マーシャンが戻ってきたら塞いで……」
ゴゴゴゴゴゴゴゴ!
め、めっちゃ巨大化してるんですけど!?
「きゃ……きゃあああああああ!」
「ナイア!」
吸い込まれそうになるナイアの手を、私が掴む。さらに反対側の手をヴィーの頭の蛇が掴まえた。
「ヴィー、耐えられる!?」
「これくらいでしたら……ただ、これ以上吸い込みが激しくなると……」
ちょうどヤバいときに、エイミアがドアを開けた。
「サーチいますか〜……って何事ですか!?」
「エイミア、今すぐマーシャンを呼んできて!」
「は、はい!」
エイミアが間に合ってくれれば……って!
「エイミア、反対反対! マーシャンはリジーのとこに」
ガタッ
「「「あ」」」
ヴィーの掴んでいた壁が崩れ……!
「「「ぎゃ、ぎゃああああああぁぁぁぁぁ……」」」
……ゴゴゴゴゴゴゴゴ!
どんがらがっしゃああああん!
「きゃ!」「んぐ!」「ぐふぅ!」
い、いたたた……な、何が起きたの?
「い、いらっしゃい……ませ?」
へ? いらっしゃいませ?
「こ、ここは……」
ラ、ラーメン屋!?
明日から新章です。ていうか、新舞台の現代編へと移行します。




