第二十一話 ていうか、非道なアントワナに鉄槌が下される!
「こ、これは……大王炎亀!?」
ドナタの身体は完全に姿を変え、私達の目の前には難敵である大王炎亀の姿があった。
「クソがああああ! 折角長年時間をかけて馴染ませてきた身体に、強烈な毒なんぞ撃ち込みやがって!」
ん? 大王炎亀の上から声が……?
「あ、あんたはアントワナ!?」
そこには元々のアントワナの姿があった。
「もう代わりに使える身体も少ないからな……さぁて、お前の相手はこのドナタ亀だ。禁術≪身体変成≫によって生まれ変わったドナタは、普通の大王炎亀とは、一味も二味も違うぜぃ?」
「し、≪身体変成≫ですって!? あ、貴方は何処まで腐り切ってるんですの!?」
「知ってるの?」
「ええ。人間の体内に仕込んだモンスターの細胞を急速に成長させる死霊魔術の一種ですわ。人間の身体を栄養として成長する為、仕込まれた対象は必然的に助かる方法はありません」
「な、何てエグい……」
「あまりにも人命軽視の術故に、何時しか禁術とされて魔術書も廃棄されたと聞いていましたが……」
「まだ記録は残してあったのさ。人間の欲深さってヤツなんだろうなぁ……あひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!」
やがてモンスターの変成は完了し、私達が知っているモノとは全く違う大王炎亀の姿になった。
「どぅだぁ? 以前お前らが苦戦した大王炎亀より、更に強くなった突然変異種だ」
「あんたは……ドナタの身体をオモチャにしておもしろいわけ!?」
「はぁぁ? 何言ってやがる。どうせ対象は死ぬんだから、お前のやってる事もそう変わらんだろうが?」
「私は人の尊厳まで殺してるつもりはないわ!」
「人の尊厳かぁ……その言葉、今まで死んでいった大王炎亀にも聞かせてやりたかったなぁ……あひゃ、あひゃひゃひゃひゃ!」
今までのって………ま、まさか!?
「あの大王炎亀も、全部元人間だったっての!?」
「その通りだよぉぉ! あんな危険な亀、飼育するよりは≪身体変成≫で生み出した方が安全だからなぁ……あひゃひゃひゃひゃ!」
「ひ、人の命を何だと思ってるのよ!」
「何でもねぇよ。俺にとっては、人の命は塵芥に等しいってな……あれ、俺もしかして、めっちゃカッコよかったか? 何気に名言を残しちゃったか? あひゃひゃひゃひゃ!」
「もう黙りなさい!」
ヴィーの≪聖々弾≫が大王炎亀とアントワナに迫る。
ズドオオン! ズドドドオオン!
「ふぅー……ふぅー!」
「ヴィー、落ち着いて。怒れば怒るだけ、冷静な判断ができなくなるわよ」
「す、すみません……どちらにしても、全く効いてないようですね……」
ヴィーの言葉通り、舞った砂ぼこりの中から。
「あひゃひゃひゃひゃ! 効かねぇ、効かねぇんだよおおおっ!」
「っ……サーチ、あれ以上ドナタを弄ばれるのは我慢なりません。だから……」
「わかってるわ」
魔法の袋から砲弾と弾薬を取り出す。
「……一発で決めてやる」
「あひゃ、あひゃ、あひゃひゃひゃひゃ! 止めてみろよ! 止めてみせろよぉぉぉ!」
ずしぃん! ずしぃん!
「誰も新生ドナタを止められないのさ! さあ、特大の≪火炎放射≫をお見舞いしてやれぇ!」
グガアアアア!
「……装填完了」
あとはドナタが隙を見せるのを待つだけ……!
ゴオオオ……
「……よし。あいつらを炭に変えるくらいの炎は溜まったな。よし、放てぇ!」
……大きく口を開けた! 今だ!
「発射!」
ずどおおおん!
ドチュン!
ガグワ!? ゴァ………
ズズゥゥン……
「何だ!? どうしたドナタ!? 動け! 動きやがれ!」
…………
「クソがあ! なら死霊魔術で……!」
……ゴァ……ゴ、ゴァァァ……
「クソ! 何で死霊魔術が成功したのに動かねぇんだ!? 動け! 動きやがれ!」
「どうやったって動かないわよ。今の大砲の一撃で、ドナタの背骨を木っ端微塵にしたから」
「な、何ぃ!?」
「いくらゾンビだからって、神経の中枢である背骨を砕かれたら、身体中に信号が行き渡らないわよね。つまりどうやったって動くことは不可能」
骨だけのスケルトンでも、背骨が弱点なくらいだ。
「つまりあんたは、今後一切ドナタの身体を弄ぶことはできないのよ!」
「く……っ! こ、この役立たずがぁぁ!」
ドゴオッ!
グォッ!?
……ズズゥゥン……
身動きできないドナタの巨体を蹴り飛ばし、アントワナは血走った目を向ける。
「殺してやる……お前ら全員ぶっ殺してやる!」
そう言って無数の≪聖々弾≫を作り出すと、私達に向けて放った。
「はあああああああっ!」
全てミスリルのトンファーで叩き落とすと、そのままアントワナの背後に回った。
「させるかぁ!」
すぐに首回りをガードするアントワナ。けど……甘い!
ごがあんんっ!
「あぎゃああああ!」
フルスイングでアントワナの股間にトンファーを振り上げた。ここは男じゃなくても痛いですから!
「あ、あああ、あ゛あ゛あ゛!」
「よーし! アントワナが悶絶してる間に、全員でフルボッコよ!」
「「「おおっ!」」」
リジーの梯子が振り下ろされ、ヴィーの蛇が噛みつき、ナイアのハンマー型ホウキが唸りをあげ……。
ガンガンドカバキメコドゴグシャメキャボカア!
「ぎゃああああああ! や、止めてくれぇぇ!」
「まだまだよ! こいつが≪万有法則≫を使う間を与えちゃダメ! 徹底的に、徹底的にフルボッコしてやるのよ!」
「「「おうっ!」」」
メキャグチャゴシャバキャア!
「ぐっ! がっ! ぐあ! ぎゃ! げえ!」
「よっし、そろそろ止めよ! ≪絶対領域≫発動! ……からの」
羽扇を長刀を変えて、下段に構える。
「……秘剣≪竹蜻蛉≫! 滅殺バージョン!」
ズバババババババババッ! ザシュ!
「がああああああああっ!!」
「……魔術やスキルを司る仙骨を含め、身体の筋という筋を全て断裂したわ。これで終わりよ、アントワナ……」
マジで有効利用、≪急所攻撃≫。
ドサァ
「が、がは………チ、チクショオ……」
「いくらスゴいスキルを持ってたって、使い手次第ってことよ。ただでさえ感情の起伏が激しいあんたには、スキルを使いこなすことは到底不可能だったのよ」
「ごぼ……あ、あひゃひゃ……あひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!」
「……? な、何よ」
「ひゃひゃひゃひゃ……空中に穿て、≪空間回廊≫」
……ゥゥゥアアア!
ゴオオオッ!
な……! そ、空に穴が!?
「よ、他所の世界へ飛ばしてやらあ! 全員道連れだあああ!」
「く……! こ、これ、塞ぐことはできないの!?」
「無駄だぁ! 霊的な物体で蓋をしない限り、こいつは永遠に全てを吸い込むぞ!」
霊的な物体かぁ……なら。
「えい」
「ぐふっ!? ……がくっ」
よし、死んだわね。
『……うぅ……ま、また霊に戻っちまった……』
よし、霊的な物体出た。
「ほいっ」
ぺしっ
ミスリル製のハエ叩きでアントワナ……じゃないか、ロバートの霊を穴へ向かって叩く。
『ぶごぉ!? ふぐ……ぶがぁぁぁぁぁ!!』
「バイバーイ、ロバート♪ 立派にフタになってね♪」
『チ、チクショオオオオオオオォォォォォォ………………』
シュウゥゥ……すぽんっ!
ぢゅるぢゅるぢゅる! ……ィィィ……プスッ
まるで掃除機のノズルにゴミが詰まったみたいな音がしてから、空の穴は塞がった。
こうして私とロバートとの前世からの因縁は、永久に断ち切られた。
あまりにも呆気ない幕切れ?




