第二十話 ていうか、正体がわかった以上は一切容赦いたしません! アントワナ、覚悟!
コトノハ? 要は言葉のことよね?
「ヴィー、一体何なの?」
「……あ……あ……」
「……ヴィー?」
様子がおかしい?
「≪万有法則≫とは、全てのスキルの原点と言われる『始まりのスキル』ですわ」
始まりのスキル?
「あくまで、遥か昔に存在した、と研究者の間で囁かれていた、推測の域を出ない……都市伝説のようなスキルですの」
「……読めた。要はアダムとイブみたいな存在ってことね」
「あだむと……いぶ?」
「あ、ごめん。気にしないで」
私達のやりとりを聞いていたアントワナが、ケタケタと笑い出した。
「いやいや、中々上手い表現じゃねえか、殺。そうだ、≪万有法則≫ってのはスキルのアダムとイブみたいなもんだ」
「まあいいわ。で、その化石みたいな天然記念物スキルが、どうしたって言うのよ!」
「はぁ? わかんねぇかな〜……ま、わかんねぇから突っかかってくるんだろうなぁ……あひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!」
「ちょっと! ドナタの声で変な笑いかたをするんじゃないわよ!」
「ひゃひゃひゃ! ドナタだぁ? この身体は俺の死霊魔術で作り上げた、意思のない作り物の身体だぜぇ?
「作りモノって言うな……ん? ……っていうか、俺の死霊魔術って……あんた、魔術まで使えるの!?」
「あぁ、使えるぜぃ」
「……いやいや、ちょっと待ってよ。魔術が使えるですって? あんた≪女王の憂鬱≫や格闘系スキルまで使ってたわよね?」
「そうだ、使えるぜぃ」
まるで方向性の違うスキルに、リファリスくらいしか使えないような珍しいスキルを覚えてる? そんなあり得ないことが……。
「……ん? 待てよ。全てのスキルの原点ってことは……どのスキルにも進化し得るってことよね。つまりは………ま、まさか≪万有法則≫ってのはどんなスキルにでもなる万能スキルってこと!?」
「ピンポンピンポンピィンポォォォォン! 大正解だ! あひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!」
あ、あはは……ウソでしょ。何よ、そのジョーカーみたいな反則スキル!
「サーチ、全てのスキルが使えるわけではありませんわ。おそらく知識にないスキルは使えませんの」
「その通りだ! 俺が使えるスキルは、あくまで俺自身が見聞きして知れたスキルのみ。だから全てのスキルを使えるわけじゃないってのは、ある意味あってるんだぜぃ……あひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!」
そのとき。カタカタと震えていたヴィーが顔を上げ、アントワナに向かって聖術をぶっ放した。
ズドオオン!
「ぅお!? 危ねぇなあ、お嬢ちゃんよ!」
ズドオオン!
「きゃあああああ! こ、これは≪聖々弾≫!?」
「そうだ! たった今、あんた自身が使った魔術と同じだぜぇ?」
アントワナは次々と≪聖々弾≫を撃ち出す。ヴィーは必死に避けて、私達のところまで戻る。
「逃がさねぇよ!」
「任せて! ≪呪われ斬≫!」
ザシュザシュザシュ!
そこへ割って入ったリジーが、全ての≪聖々弾≫を斬り捨てた。
「ほぉう? それは≪呪われ斬≫って言うんだな。こうやるのかい?」
アントワナはナイフを持ってリジーに斬り掛かる。それをリジーは介錯の妖刀で受ける……が。
ガギィ!
「ぅあああ! な、何、この威力!? 私より上!?」
「何だよ、このスキルは相手を斬らないと発動しないのかよ。折角『即死の呪い』をかけてやろうと思ったのによ……あひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!」
一撃受けただけで、リジーの手は衝撃で痺れたようだ。
「リジー! すぐに回復を」
!!
「ダメ! あいつの前で聖術を使っちゃダメよ!」
「! そ、そうでした! ならポーションで……」
ヴィーは取り出したポーションをリジーの手にかけてやった。すぐに痺れは治ったみたいで、手の平をグーパーしている。
「ありがと、ヴィー姉」
「いえいえ。しかし困りましたね」
「全くよ。あいつの前ではヘタにスキルが使えない」
「そうですわね。ほとんどのスキルが『スキル名を叫ぶ』事が発動条件ですから、下手にスキルを使えませんわね」
なら常動スキルで戦うのみ! 魔法の袋から短剣を取り出すと、いくつかのアサシンのスキルを発動させて斬りかかる。
ギギィン!
「おっと。近接なら俺を殺せると思ったか?」
私の刃がアントワナの肌に届くより先に、薄い鉄の膜が攻撃を遮る。
「こ、これは私の≪偽物≫!?」
「おうよ。中々に便利だな、これ!」
鉄の膜を収束し、巨大な剣に変えて私に振り下ろす!
「! くぁぁ!」
とっさに≪偽物≫で盾を作り、その攻撃を受ける。
ビキ……バキィ!
「ミ、ミスリル製を砕くのかよ……!」
鉄の大剣自体の重さだけで、砕けるような盾ではない。ならば何かしらプラスアルファが?
「お前の考えてる通りさ! 俺は全ての攻撃に≪重力≫によって数倍の重さを加算してるからな!」
ちぃぃ! 厄介なことを……!
「ていうか、人の心を読むんじゃないわよ!」
「あぁ? お前は俺の飼い犬だった頃、プライバシーなんてあったかよ?」
……無かったわね。一切合切カケラも無かったわ。
「だから今は重要なんだよ! 人の心を覗いた報い、しっかりとうけなさい!」
ドスッ!
「がっ!? な、何だと!?」
ふふ、引っかかったわね!
「あんたが前に集中してる間に、羽扇から背後にワイヤーランスを伸ばしておいたのよ。致死性の毒をたっぷり塗ったヤツをね」
「お、あ、が……!」
さあ、今のうち!
「全員総攻撃! 一気に潰すわよ!」
「わかりました! ≪聖火弾≫!」
「月よ月夜に月見頃! 伸びろホウキ!」
ヴィーとナイアが遠距離攻撃で、私とリジーが直接斬りかかった。
「うぐ……あぐ……ぐ、ぐぅぅ!」
……アントワナ、何かをしようとしてる?
「リジー、ストップ!」
ズザザザザァ!
「な、何? サーチ姉?」
「何か……様子が変なのよ」
ドオオオン!
ちょうどヴィーの≪聖火弾≫が炸裂し、アントワナが炎上する。
「ナイア、ホウキを止めて!」
「え!? わ、わかりましたわ」
……全身燃え盛ってるのに、全然堪えてない……?
「そんな!? ドナタの身体がゾンビなら、この聖火は致命的なはずなのに!」
「……少し離れるわよ。イヤな予感がする」
私の言葉に従って、全員が退去した。
「ぐ・が・が……がああああああアアあアアああ!」
「こ、声が……」
ドナタの声じゃなくなってく!?
「グガ……ギェアアアアアアアアアアアア!!」
やがてドナタの身体は裂け始め、あちこちから人間とは明らかに違う肌質のモノが見え始め。
グガアアアアアアアア!!!
姿をだんだんとモンスターへと変えていった。
ドナタファンの皆様、ごめんなさい(……いるかな?)




