第十九話 ていうか、本性を表したドナタ=アントワナ! その口から語られたのは、恐るべきスキル……?
「なんで? なんでわたしがあんとわななの?」
「よくよく考えてみれば、あんた以外にはあり得ないのよ。で、なぜ私の剣を受け止められたのかしら?」
「えーっと……ぐうぜん?」
私の本気の攻撃を止められた理由が「偶然」の一言で済まされてたまるか!
「それじゃあ改めて聞き直すわ。統率者になってスキルを全て失ったはずのあんたが、何で≪急所攻撃≫を防ぐことができたのかしら?」
「!」
「≪急所攻撃≫はアサシンのマスタースキル。その刃は当然、必殺の一撃。どんな斬撃でも致命傷にできるスキルを、スキル無しでどうやって防ぐわけ?」
「えっと、えーっと……なんでたろ?」
「……」
考え込む振りをするドナタの足を、背後からの高速足払いが襲う。
ズビシッ!
「きゃう!?」
足払いで宙に身体を投げ出されたドナタは、そのまま頭から落下…………することなく、それは見事に宙返りして着地した。
「あ、あぶないあぶない……ねえ、みんなもとめてよ。さーちんがごらんしんだよ?」
ドナタの声に反応する者はいない。ただ一人、エイミアだけが驚愕の視線を向けていた。
「ド、ドナタちゃん。今何をしたかわかってます?」
「? なにが?」
「今の宙返りは≪完全受身≫……格闘系の中位スキルです。格闘系の職業以外では、絶対に覚えられないんですよ?」
「あ………ぐ、ぐうぜん?」
……まだしらを切るつもり? 往生際が悪い。
「なら決定的証拠ね。ハクミん」
チュ?
「こっちいらっしゃい」
チュー!
私の声に反応して肩まで登ってくる。ふふ、可愛い。
「ほら、この子はあんたが≪統率≫してるんでしょ? なら操って私の首筋を噛ませてみなさいよ?」
「え?」
「あんたがホントに今までのドナタなら、絶対にできるはずよね?」
「え? え? そ、そんなことしたら、さーちんが……」
「やってみなさいよ。まさか統率者のあんたが、それくらいできないはずないわよね?」
「えっと……その……いいの?」
「だからやってみなさいっつってんのよ!」
「……っ……さーちん、ごめん! はくみん、よわくかんで!」
…………チュー!
「ぎゃああああああああああああ!」
「あ、ごめんなさい! はくみんがつよくかんじゃった………え?」
チュチュ♪
「あああ………あー、喉が痛い。叫ぶ振りも楽じゃないわ」
「え? えぇ?」
「残念でした。ハクミんの≪統率≫は、エイミアに頼んでとっくに解除してもらってるわ」
「な……!」
「で? ハクミんが強く噛んでごめんって……何のことかしら?」
「あ……う……」
「どうせ事故に見せかけて、私の頸動脈を噛み切らせるつもりだったんでしょ」
「そ、それは……」
「それから、リファリスからの貴重な情報ね。≪統率≫は元々≪女王の憂鬱≫の下位互換のスキルなんだって。つまりモンスターだけを操ることができるスキル」
「そ、それがどうかしたの!?」
「モンスター特化のスキルゆえに、モンスターとの結びつきはとても強い。つまり……ハクミんの≪統率≫が解除されたことに気づかないはずがないのよ」
「!!」
「もしも≪統率≫じゃなく≪女王の憂鬱≫で操ってたんなら、解除されても気づかないでしょうけどね……って、これはリファリスが言ってたことだけど、その辺りはどうなのかしら、ドナタ?」
「……」
「もしも使ってたスキルが≪統率≫じゃなく≪女王の憂鬱≫だとしたら……他のスキルも使えるわよね?」
「……き、きのせいだよ〜」
流石にその誤魔化しはムリがあるわよ?
「はいはい、それじゃあ止めね。あんた、正統王国軍全員にも軽く≪女王の憂鬱≫かけてたわよね。当然、カナタとソナタにも」
「!」
「リファリスが解除してくれたけど、全員が口を揃えて同じことを言ったわよ……『ドナタ様が生きているはずがない』って」
「……っ」
「ついでにカナタとソナタにも確かめたけどね、ドナタは生まれてすぐに亡くなったそうよ」
「……くっ」
「さ、これでチェックメイトよ。さっさと正体を現しなさい、ドナタ……いえ、アントワナ!」
「……く………ちっくしょおおがあああああああ!」
ズダアン!
ドナタ……いや、アントワナが拳を地面に叩きつけた。
「あれは……≪鉄の拳≫ですね」
格闘系スキル……。
「折角ここまで慎重に進めてきた計画が! 全部! 全部おじゃんだああああ! うがあああああああ!」
ズドオオン! ダンダンダアン!
……単なる子供の地団駄よね、これ……ちょっと威力があるけど。
「……くそお……全部お前のせいだよ、殺アアアアアア!」
まさにリアル『謀ったな!』ってヤツね。シャアはシャアでも私は女だけど。
「相変わらず自分の思い通りにならないと、当たり散らすのね」
「うるせえええ! お前にわかってたまるか! 俺はこの世界に生まれてから、ずっとこの計画を進めてきたんだぞおおお!」
「生まれてからって……ん? あんたって何に生まれ変わったのよ?」
ドナタは生まれてすぐに死んでるんだし。
「俺は生まれ変わってねえよ………俺はお前に殺されてから、ずっと霊体としてさまよっていたんだ」
霊体で!?
「そしてある日、俺は前の世界で不思議な碑文と出会った」
「ひ、碑文? 話の展開が急すぎるんだけど? 私はあんたにそんなことを」
「黙って聞けよ。これから俺と戦うんだろ? なかなか貴重な情報になるだろうぜぃ」
……? 自分から手の内を……?
「で、その碑文なんだが……前の世界のどの言葉にも当てはまらない、全く未知の文章だった」
……何が言いたいの?
「で、暇な俺は、ずっと碑文の意味に頭を悩ませていたんだが……ある日、空に霊的な穴が生じた」
「霊的な……穴?」
「その穴から変なジジイが飛び出してきやがってよ、どっかに行っちまったんだ」
ジジイ……? …………あ、まさか!
「……〝知識の創成〟?」
「は? 誰だそれ………まあいいけどよ。で、そのジジイが出てきた穴、しばらく閉じなかったんだ」
「じゃあ、あんた……その穴を通ってこの世界へ!?」
「そうだよ! つーかよ、実際は吸い込まれたんだがな」
あんの〝知識の創成〟……自分が通ってきた穴くらい塞いどきなさいよ!
「で、この世界にきてビックリだ。謎の碑文は、何とこの世界の文字だったんだからな!」
この世界の!?
「そして碑文を解読した俺は、唯一無二のスキルを手に入れたのさ……そう、碑文はスキルを覚える為の呪文だった」
「それが≪女王の憂鬱≫?」
「いんや、もっといいスキルさ。これさえあれば、俺は神にもなれる……てくらいのな」
聞いていたヴィーは、顔を真っ青にして口を開いた。
「ま、まさか……まさか……コトノハ?」
コトノハ?
「そうだ! 俺が身に付けたスキル、それは≪万有法則≫だ!」
コトノハとは?




