第八話 ていうか、無事にパンドラーネ到着?
随分……昔の話だ……。
私はある要人の暗殺を組織から命令され……それを忠実に実行した……。
けど、その頃の私は……まだ駆け出しで……逃げる際にドジって怪我を負わされた……。
血はドンドン出てきて……目が霞んできて……「ああ、私は死ぬんだな」なんて呟いてた……。
路地裏で踞って意識を失った私を……あいつは助けてくれた……。
その時は……熱が出て……朦朧としていた。
それでも……あいつの顔は……深く頭に刻みつけた……。絶対に……忘れることの……ない……あいつの顔……。
だって……あいつは……私が初めて……愛した人……。
怪我が回復して……組織に戻る日……私は……告白した。
その時に言われたのが……。
『お前のことは嫌いじゃないんだ。ただ……』
言われたのが……。
『俺さ……巨乳が好きでさ』
うっがあああああ!!
ばきっ! メキッ!
「ぽげぇぇぇぇぇぇっ!!」
へ? ぽげぇ?
「きゃあああ! マーシャン! 大丈夫ですか!?」
「いま『メキッ』ていってたぞ!」
「やっぱりこの人達といると嫌だった!」
な、なんか騒がしい……?
「え〜と……私なんかしちゃった?」
そう言って起きると、リルが振り向いた。
「あ、起きたか。マーシャンが腕をやられた仕返しに、目覚めの愛撫をしてやるのじゃ! って言ってな……」
何やろうとしとるんじゃ!
「で、あと数㎝ってとこでサーチの左のフックが極まった、て感じだな」
あ、危ない……!
だからあんな昔の夢をみてたんだ……!
「じゃあ『メキッ』てのは……マーシャン?」
リルが床を指差す。
視線を向けると……。
「マーシャン! しっかりしてください!」
「ブクブクブク……」
首を180°曲げて横たわるマーシャンがいた。
……ていうか、ここどこ?
しばらくしてから、騒ぎを聞きつけたギルドの職員によって事情を説明された。
簡単に言えば、いきなり空からワイバーンと女の子が降ってきた。
女の子はワイバーンがクッションになってくれたこともあり、気絶する程度で済んだ。
ワイバーンはしばらくすると泣きながら逃げていった。
気絶した女の子は全員ギルドの治療所に収容された。
で、最後まで意識が無かった女の子が、ようやく目覚めた←いまここ。
「……そっか……」
うん……いろいろと聞きたいことはあるけど。
アンギャ……達者でね。
「でも危なかったわね〜……アンギャが下になってなかったら全員お陀仏だったわ」
「アンギャ? おだぶつ?」
あ、しまった。
「あ、ごめん。アンギャは私がワイバーンに勝手につけた名前。お陀仏は…………古代語よ」
だんだん古代語って言い訳も苦しくなってきてるわね……気を付けないと。
「え〜と……おだぶつ、おだぶつと……意味は?」
リルは何でメモってるのよ!
「……死んじゃったって意味よ……」
めっちゃ熱心ね、リル! メモの表紙に「古代語大全」て書いてあるし!
「話が逸れたわ……私どれくらい寝てたの?」
「一日と少しです。私とリルが一番最初に気が付きました。あとマーシャンとリディアはサーチの少し前に」
私以外は目が覚めてたわけね……ん!? ちょっと待って!
「じゃあ何!? マーシャンを誰も止めようとしなかったわけ!?」
リディアとリルが視線を逸らした。
「私が来た時には『メキッ』でしたから……」
……ふーん。
「リル……リディア……」
「私は止めようとしてたよ!」
「あ、はい。私が来た時にリルはマーシャンを羽交い締めしてましたよ……一応」
一応か。
「でも『あと数㎝』とか言ってたわね」
半分は止めようと、半分は面白がってたわね。
「リル、腕出して」
「なんでだよ!」
「う・で・だ・し・て!」
迫力に圧されて渋々腕を出す。
「くらえ! 古代の秘技しっぺ! ちぇすとー!」
ぺしぃ!
「いでぇ!」
私の渾身のしっぺが炸裂した。
「なんだこれ! めちゃくちゃいてえぞ……!」
腕を抑えて涙目のリルが呻いた……ていうか、これもメモるのかしらね。
「さ〜てリディアは……」
びくっ! と反応した。
「エイミア。リディアはどうだった?」
「のりのりでしたね」
「のりのりだったな」
「はい、警備隊ね」
「痛かった! 痛かった! 痛かったー!」
私に耳を引っ張られたまま、リディアは警備隊に突き出された。聞いた話だと相当な被害が出てたらしく、結構な報奨金が出た。
リディアは盗んだお金+賠償金を支払うまで警備隊監督の下で奉仕作業だそうだ。初犯だからこんなものらしい。
別れ際に「もうサーチ達と一緒は嫌だった……」て言ってたから少しは懲りたのかな?
でもリディアとは妙な縁で後々も絡むことになるんだけどね。
さて。ギルドに戻るとしますか……てあれ?
エイミアが泣きながらダッシュしてくるんだけど……?
「…………ぁぁああさああああちいい!!」
何このドップラー効果。
「ど、どしたの?」
「はやく! はやく戻ってきてえ!」
何? 何があったの?
そのままエイミアに引っ張られてギルドに向かった。
「ちょっとエイミア! 痛いって……あれ?」
そのままギルドになだれ込むと。
「リ、リル!?」
リルを片手で掴みあげて佇む大男がいた。瞬時に戦闘状態にスイッチが入る!
「リルに何してんのよ! てめえ!」
≪偽物≫でリングブレードを作る。同時に靴裏を鉄板で覆って蹴りをいれる!
「おしおキィィィック!!」
どげっ!
「ぽげぇぇぇぇぇぇ!!」
え? 二度目のぽげぇ?
そのまま大男はカウンターに頭から突っ込んで動かなくなった。
「リル大丈夫? 怪我はない?」
「あ、ああ大丈夫だ……助かったには助かったんだけど……」
……歯切れが悪いわね。
「え゛!? サーチ殺っちゃったんですか!?」
いや、死んではないわよ? 今から殺るつもりだったけど……。
「じゃあさっさと止めを」
リングブレードを首筋に……。
「「ダメっ!」」
……何で止めるの?
「いい、サーチ。私達ってワイバーンと一緒に墜ちたじゃない」
「う、うん」
「そのワイバーンが墜ちた下にあった家の家主だよ、その大男」
げっ!
「しかもギルドマスターです」
げげっ!
「……家の賠償金で揉めてたとこだったんだ……」
げげげっ!
「……あの〜大丈夫ですか? てへ☆」
「…………てへ☆ じゃねえわああああ!!!」
ですよねー……。
結局。
リディアの報奨金丸々と、ドラゴンの牙十本を賠償金としてとられた。
結構痛い出費だった……ぐすん。
明日に仕事に復帰。
ようやくです〜。