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第十六話 ていうか、近づく最終決戦! その前に甘味処で、乙女のハートを逆撫で……リジーが。

 エカテルを肴にして雑談に花を咲かせつつも、リングナイ砦攻略の話も詰めていく。


「それじゃあ裏の搬入口から?」


「ええ。そこに私の部下を潜り込ませてるから、合言葉を言えば協力してくれる」


「合言葉?」


「片耳に切り傷がある男がいたら『アントニアのバストはBカップ』って言えばいい」


 何つー合言葉だよ!

 ていうか……確かにBカップくらいかな……。


「……何を注目してるのかな、二人して?」


「な、何でもありませんです!」

「ななな何でもありませわ!」


「……ふん、DとEか。いい気になるなよ」


 ……見ただけでカップ数当てやがったよ……。


「……ていうか、あんたも自分の傷を抉るような合言葉にしないでよ」


「ううう五月蝿い! 部下共が勝手に決めたんだよ!」


 あーはいはい。部下に愛されてるのねー。


「でも、よく自分の部下を潜り込ませましたわね。正規軍の方ではありませんの?」


「さっき言ったでしょ、諜報組織の頭もやってたって。急に人が変わったように振る舞う私を不振に思って調査を始め、そこから本物の私が闇病院の汚い部屋で昏睡状態になってるのを突き止め、更に治療に必要なエカテルを探し出してくれたのが今の私の部下。優秀さは私が身をもって知ってるわ」


 スゲえじゃん!


「あ、だから部下達の勝手な合言葉を是正できないのですわね?」

「五月蝿いっての!」


 ナイアの意地悪な笑顔に、アントニアは逆ギレ気味に応酬した。



「……うん、こんな感じね。たぶんイケると思う」


「はぁあぁ……これで念願だったアントニア……じゃなかったアントワナ討伐が実現するわ」


「……でもさ、ここまで準備できてんなら、あんた達で殺れたんじゃないの?」


「ムリだよ。私達はあくまで諜報がメインであって、戦う事は極力避ける傾向が強い。そんなのが暗殺専門の連中に勝てると思う?」


 ……確かに。


「大事な部下をそんな事で消耗するわけにはいかないのよ」


「……愛してるのねぇ、部下達を」

「な……!」


 あ。アントニアの顔が噴火しそうなくらい赤くなった。


「アントニアさんは、逆ハータイプなのかしらぁ?」

「!!!」


 ボンッ


 あ、噴火した。図星だったみたい。


「あらあら。照れちゃって可愛いですわね」


「……ぅぅぅううう五月蝿い五月蝿い五月蝿ああああい! 出てけ出てけ出てけえぇぇぇっ!!」



 アントニアに叩き出されて路地裏から表通りに出ると、バッタリとヴィー達に会った。


「あ、サーチ。会えたんですか?」


「あ、ヴィー。会えたんですよ?」


「何ですか、その返事は……」


「協力してもらえる?」


「ええ、協力は取りつけたわ。でもナイアが相手を怒らせちゃって」


「な!? 怒らせたのはサーチじゃありませんこと?」


「『あらあら、可愛いですわね』とか言って止め刺したのナイアでしょうが」


「うっ! そ、それは否定できませんわ……」


「というわけでナイアの責任ということで」


「はぁ……わかりましたわよ」


「はい、認めました。よってナイアの奢りで甘味処へ」

「「わーい」」


「何だか色々とおかしくありませんか!?」


 ナイアの抗議を受け流しつつ、一番最初に見つけた甘味処へと入った。



「ん〜♪ あんみつ最高ですわ♪」


 ……あんなにブーブー言ってた人が、一番ノリノリで食べてるし……。


「サーチは……相変わらず甘さ控えめのモノですね」


「まーね、元々が辛党だし。けど甘いのが嫌いなわけじゃないから、甘さ控えめがちょうどいい」


「んまぁ!? 甘味処へ来て甘いモノを食べないなんて、邪道ですわ邪道!」


 ……なるほど。ナイアは甘党なのね。


「まあまあ。何を食べるかは個人の自由ですし」


「何を仰るのですか!! 甘いモノが食べられるという事が、どれだけ幸せな事かわかりませんの!?」


 ……はあ?


「毎日毎日々々々々パン数個と水、少しだけ豆が浮いた薄いスープ……そんな食事を何十年と続けていれば、甘さに過大な憧れを抱いたって仕方ありませんでしょ!?」


「……辛かったのねぇ……っていうか、ナイアって何歳なの?」


「う゛っ!」


「今『何十年と』って聞こえたんだけど、それなりの年齢に達してないと、そういう表現はしないわよね?」


「う゛う゛っ!」


「ま、まあいいじゃないですか、サーチ。乙女には知られたくない事もありますよ」


「…………そうね。ごめんなさい、ナイア。今度からこの系統の話題には気をつけるわ」


 ヴィーがナイアに助太刀したのを見て、ヴィーの気持ちを察した私は、追求の手を引っ込めた。

 が。


「おほほほほ! ワタクシはナイア姫! 嫁ぎ遅れのオールドミスですわよ!」

 ぴきぃぃぃぃん!


 ……あ。世界が凍りついた。


「……はぁ……バカリジー。ヴィー、ナイア、ほどほどにね(・・・・・・)

「「わかってます」わ」


「へ? な、何でヴィー姉まで怒ってるの?」


「……誰が嫁ぎ遅れのオールドミスですって?」


「え、えええっ!? 私、ヴィー姉の事は……」


「おそらくですが、私がパーティで最年長ですよ?」


「あら、でしたらワタクシは二番目ですわね。どちらにしても、ワタクシを愚弄するおつもりだったのですわね?」


「え!? わ、私はナイア姉を愚弄するつもりなんか……」


「なら私を愚弄するつもりだったと?」


「ひぇ! ち、違う違う違う違いますぅぅぅ!」


 ダッ!


 あ、逃げた。けどワイヤーで……。


 びぃん! ドタッ!

「ひゃぐ!? な、何かに引っ掛かって……」


 顔を上げた先に私。ニッコリ笑って手を振り。


「ごゆっくり〜♪」


 死刑宣告した。


「サーチ姉ぇぇぇっ!?」

「まずは石化ですね」

「いいですわね。そのまま粉々にしますか?」

「それでは生温いですね……」

「リジーが一番嫌がる事は何ですの?」

「露出ですね」

「なら剥いてしまいましょう」

「そのまま軒下に吊るしておきましょう」


「嫌ぁぁぁぁぁぁ! ごめんなさいごめんなさいごめんなさいぃぃぃぃ!!」



 リジーの背中に「甘味処、美味しいです」と書いて素っ裸で吊るし、店の看板にしておいたそうだ。


「何か興を削がれましたわ。もう一度甘味を味わいたいですわね」


 また!?


「いいですね。私も付き合いますよ」


 ヴィーまで!?


「「サーチも来ますよね?」」


 ……これって拒否権ないよね。


「わかったわよ。でも二人の奢りだからね」


「「勿論です!」」


 ……いつの間に意気投合したのやら。


「まあ食べるのは結構だけどさ、気をつけないとカロリー高いわよ、甘味って」


「「う゛っ!」」


年齢と体重は禁句なり。

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