第十四話 ていうか、決戦の地リングナイ「……ハアハア」
リングナイ。
暗黒大陸最北端に位置する港町で、帝国の大規模な砦がある。更に北にある氷河圏からのモンスターの流入を防ぐための、防衛の要として重要な町。ただ今まで一度も氷河圏からの侵攻はなく、普段は監視のための警備隊が数十人駐屯するだけで、どちらかと言えば静かな町である。
「……のはずなんだけど、ずいぶんと賑やかになってるわね」
アントワナが大軍を引き連れて籠っているので、人、人、人で埋め尽くされている。ていうか、ほぼ男だし。
「……目立ちますわね」
そりゃそうだ。さっきも言った通り、軍がきてる以上は男の比率が高くなるのは必至。しかも私、ヴィー、ナイア、リジーの美女四人組。目立たないはずがない。
「……視線が痛くありませんか、サーチ?」
「べっつに〜。普段からチラチラ見られるのには慣れてるし」
「……どちらかと言えば、欲情が沢山含まれた視線ですわね」
「あぁ、成程。サーチ姉のビキニアーマーが注目されてるんだ」
典型的な魔女姿のナイア、ローブを来ているヴィー、弓兵スタイルのリジー。露出らしい露出と言えば、ナイアの胸の谷間がよく見えるのと、ヴィーのローブが短めで脚線美丸見えなくらい。リジーに至っては露出はあまりない。それらに比べれば、確かに私は目立つか。
「それに対して肌見せまくりのサーチ姉。胸、腹、脚、背中。ほぼ見えてるんじゃないか、というくらいの露出ぶりが、最北限の警備なんてやらされてる軍の野郎共の本能を刺激しまくり」
「……そうやって言われると、私って結構ヤバい状況だったのね」
流石に数百人単位の飢えた男達に襲われたくはない。
「……というより、今更ですわね。やっと気付いたんですの?」
「気づいてたんなら、教えてほしかったんですけど!?」
「……と言うより、自覚が無い事が不思議ですわよ」
うっ。
「無駄無駄、ナイア姉。サーチ姉は天然由来の露出狂だから、自覚がある事すら疑わしぐぼぇ!?」
「……あんたは反省って言葉を知ってるかどうかも疑わしいわね。こうなったら脳みそに直接刻み込んでやろうかしら?」
「……サーチ、更に目立ってますよ」
「刻み込むんなら、強烈な体験をした方が、さらに鮮烈な記憶になるわよね!?」
「うぐぐ……え、ちょっと!? 何で服を……いやあああああ!」
「路上で脱衣ショーすれば、さぞかし鮮烈な記憶として脳に刻み込まれるでしょうよ!」
「いや、いやいやいや、いやあ! ちょっと、ブラまで……ぎゃあああああああああ!!」
「……サーチ、更に更に目立ってますよ」
漁港近くに手頃な旅館があったので、そこで宿泊することにした。他の旅館はアントワナの関係者が長期滞在しているため、ほとんど空きがなかったのも理由だけど。
「アントワナ様が駐留なさってるのはありがたいんだけど、近々戦争になるんじゃないかって、皆やきもきしてるんだよ」
でしょうね〜。普段は静かな港町なのに、軍服着た厳ついヤロー共が大量にウロウロしてるんだもんね。
「でもいいじゃん。旅館としては使ってもらえてウハウハでしょ?」
「とんでもない! あいつら宿泊代を一銅貨も払いやしないのさ!」
……へ?
「『今は非常時である。よって宿泊代を払うより、食料や弾薬を調達するのに使う方が優先である』とか言ってさ、全く払おうとしないさね」
……あらぁ〜……それは……。
「仕舞いにゃ略奪していくヤツまでいる始末。若い娘なんざ表に出せないさね」
……なーるほど。私達に不自然に視線が集まったのも、この辺りに原因があるみたいね。
「戦争を理由に支払いを拒むなど、本来はあってはならない事。指揮官の浅はかさを露呈していますね」
「……おかしいですわね。ワタクシが知っているアントワナは、そこまで愚かではなかったですわよ? 指揮官としては有能でしたわ」
「え? あんたアントワナのこと知ってるの?」
「元は同じ軍ですから。何度か共同で作戦を立案した事もありますの」
い、意外。ナイアって天然由来のボッチかと思ってた。
「……今、無性にサーチを殴りたいのですが……」
止めてください。
「とにかく、ワタクシが見ていた限りでは、そのような愚かな真似をさせる指揮官ではありませんでしたわ。但し暗殺に関わっているという黒い噂の絶えない方でしたわね」
「……てことは、やっぱり」
「ええ。今のアントワナも……手駒の一人に過ぎないのですね」
そこまで支配が及んでいる場合、エイミアの電撃でも≪統率≫は解除できないでしょうね……。
「でもそれだけ注意が散漫なら、砦に忍び込みやすいわね」
「ええ。でも焦らずに、まずは情報収集から始めましょう」
もちろん。情報は時にダイヤモンド以上の価値があるのよ。
とりあえずビキニアーマーに外套を纏って目立たないようにし、私達は情報収集に赴いた。リジーとヴィーはギルドで聞き込み、私とナイアとで裏からのアタックだ。
「こ、このような薄暗い路地に入って大丈夫ですの!?」
「大丈夫大丈夫。ここら辺のはずだから……よっと」
バサッ
「ちょっ……! このような場所でビキニアーマー姿に……!」
「いいんだって」
目立った方がいいんだから……今は。
「……おい」
きたきた。
「ビキニアーマーハアハア……おげぇっふ!」
「お前じゃない!」
「魔女ハアハア……ぐふぅおえ!」
「ぎゃああああ! 気色悪いですわ!」
な、何でこんな路地裏にヘンタイがいるのよ!?
「……おい」
また!?
「あんた、盗賊ギルドに関わりがある方ですかい?」
きたああ!
「はい、そうです!」
「と、盗賊ギルドハアハア……ぽげぇぇ!」
「何にハアハアしてるのよ、何に!?」
こ、ここまでくると流石に……!
「……おい」
「また!? またなの!? 今度は何にハアハアする特殊趣味なの!?」
「は?」
「はい?」
「と、特殊趣味って何だ?」
「あ、あれ? ヘンタイじゃないの?」
「誰がヘンタイだ!? 会って早々にヘンタイ扱いかよ!」
い、いや、だって……。私が足元に転がるヘンタイ達をチラ見していると。
「……あぁ、こいつらか。裏社会には、こういう連中も多いからな」
多いの!?
「お、俺は違うぞ。いたってノーマルだ」
……でしょうね。さっきから視線が私の胸やナイア胸に固定されてるし。
「で? 何の用?」
「ああ。盗賊ギルドの頭から念話をもらってる。ビキニアーマーを装備してる女に協力してやってくれってな」
よかったあ。脅迫しまくっといた甲斐があったわ。
「何故か涙目だったんだが……お前ら、ギルドの頭に何をしやがったんだ?」
知りましぇ〜ん。
「……じゃあ何か、あのアントワナをブッ殺してくれるってか!」
それからアジトに案内された私達は、バーみたいな造りの部屋に通され、そこで酒を振る舞われた。で、さっきの男に事情を話したのだ。
「そのつもりよ。アントワナさえ殺せば、リングナイを陥落させるのは簡単だし」
「……まあギルドの頭のお墨付きだからな。よし、信用しよう」
そらどうも。
「だったら姐さんに会ってもらえるか?」
「姐さん?」
「リングナイ周辺の裏社会の元締めだ。姐さんに話してもらった方が、話も進めやすいしな」
「まあ、確かにね」
「じゃあ呼んでくる……が。驚くなよ?」
……はあ?
しばらくして男が女性を連れてくる……が。
「「!」」
私もナイアも武器を構える。そう、驚きの人物だった。
元締めとは。
「初めまして……かな?」
……アントワナ、その人だった。
アントワナ?




