第十二話 ていうか、おかえりセキト! その後ろに付いてきた馬車は?
「……私の幽霊さん達が……ブツブツ」
目が覚めたら≪幽霊の加護≫が無くなっていたリジーは、歩きながらブツブツ言っている。
「なーにをブツブツ言ってるのよ。幽霊を酷使しようとしたあんたが悪いんでしょうが」
「そ、それは……冗談だった……と思われ」
……それで冗談だったと受け取ってくれる相手、まずいないと思うわよ。
「それより何でサーチ姉が持ってるの!? 持ってたってサーチ姉には使えない!」
リジーの言う通り、≪幽霊の加護≫は私には使えない。このスキルは前提条件が必要で、自分自身が呪いに耐えられなければ使えないのだ。つまり≪呪い耐性≫を持つ呪剣士専用スキルと言える。
「そうよ。それと一緒に≪一時譲渡≫っていうスキルももらったわ」
「ああ、成程。サーチに監視をしてほしいのですわね?」
「スキルの許可制なら、リジーも個人的には使えないですね……幽霊も安心でしょう」
「許可制!? 監視!? 酷い、私を信用できないの!?」
「「「コキ使うって宣言したヤツ、誰が信用できるか!!」」」
三人から同時につっこみを受けたリジーは、視線を泳がせて……何も言わなくなった。
……ヒヒーン!
「……あ、いたいた。セキトー!」
そんなときに街道の向こう側に、特徴ある赤みがかった馬体が見えてきた。行方不明になってから二週間、ようやく私達はセキトと合流できた。
「「「「うっわー……」」」」
エイミアのヤツ、一番上等な馬車をセキトに繋いだわね。三日ほど前に『セキトが旅立ちました!』という念話があったけど、そのときに馬車に関しては含んだ言い方してたのは、これが原因か。
「凄い……この幌、ワイバーンの羽根の皮膜ですよ」
「馬車本体の素材はウッドサラマンダーですわ。しかも相当な古竜ですわね」
「使われてる釘まで特別製。おそらく呪い竜の牙を再生した釘。微かに呪いを感じる」
「ていうか、これってゴムタイヤよね!? いや、ゴムじゃなく皮膜だわ。たぶん土竜の背中の革……」
見た目は普通の馬車の外見だけど、実際はとんでもない金額かかってるわ、これ。
「ま、まさか、これを皇帝権限で作らせたんじゃ……?」
「いや、それは無理ですわよ。一朝一夕で手に入る素材ではありませんし、例え素材が揃っていても、製作には年単位かかりますわよ」
「……ってことは中古品か……やれやれ」
よくよく見てみれば、ちょこちょこと使用感は感じられる。たぶん豪商が高級品の運搬用に作らせたヤツじゃないかな?
「ま、今回はエイミアの好意に甘えましょ。これだけ立派な馬車なら、セキトが二十四時間引っ張ったってビクともしないし」
ヒヒィン!?
「ナイアがリジーに二十四時間折檻したってビクともしないし」
「えぇ!?」
「あら、耐久テストをなさりたいのなら、ワタクシは何時でも大丈夫ですわよ?」
「ひええっ!?」
顔が笑ってる。ナイアのヤツ、ちょっとからかってるわね。
「うわわわわっ!」
リジーはセキトにしがみつき、一緒にガクブルしている。
「冗談ですわよ……それよりエイミアさん達の位置ですわね」
「あ、そうだった。エイミアのヤツ、いまだに念話水晶に出ないのよね」
……ホントに下克上されてたりして。
その頃。
「エイミア様、お命ちょうだいいいい!」
「≪鬼殺≫!」
カキィィィン!
「うひょぅぇぇぇ………」
「……ほーむらん」
「はあ……本当に何人来るんですか、これ?」
「エイミアァァ! エイミアは何処かぁぁ!」
「ま、またですか!?」
……相変わらず下克上されまくっていた。
カッポカッポカッポカッポ
スー……
さすがゴムタイヤモドキ。木の車輪みたいにガラガラいわないわね。
「……何だか気持ち悪いですね。『ガラガラ』とか『ガタッ』という音に慣れていると、静かすぎて落ち着きません」
確かに。結構石に乗り上げたりして『ガタッ』とか言ったり……。
「……ん? そういえば全然震動がないわね。さすがにゴムタイヤモドキで震動を吸収しきるのは、ムリがあると思うけど……?」
お昼ご飯の休憩の際に、馬車の下を覗いて納得した。
「なーるほど、このゴムみたいな繊維でタイヤの軸を引っ張りあって、ショックアブソーバにしてたのか」
誰が考えたのか知らないけど、0からこれを考えたってスゴいわね。
「どうしたのですか、サーチ」
「ん? ああ、あまりに震動を感じないから、何か仕掛けでもあるのかなーって……そう思って下を見てみたら、ほら」
馬車の下を指し示すと、ヴィーも覗き込む。
「これは……跳竜の後ろ足のアキレス腱を束ねたモノですね」
またドラゴン素材!?
「……一体いくらかかってるのよ、この馬車……」
さすがにエイミアの好意に甘えるレベルじゃないような……。
「もう使ってしまいましたから、返す事はできませんよ」
「……そうね……まあ乗り心地は最高なんだし、使わないほうがもったいないし」
「……あら? 何でしょうか、この紙」
紙?
「馬車の底に何か貼ってあります」
ヴィーの声に促されて覗いてみると。
「……ん? お札?」
書いてある字は全く読めないけど、字面的にお札っぽい。
「ん〜……このパターンってどっかで見たような……………あ」
そうだ。ホテルの部屋の額や掛け軸の裏。
「これって……呪われアイテムとか?」
お札で呪いを封印して「えいっ」……へ?
「ふう。取れました」
……あ……ああああああああああああ!
「ヴィー、気をつけて! その馬車、間違いなく呪われアイテムだから!」
「へ?」
ぐいっ
「きゃ……きゃあああああああああああ!」
ば、馬車の下から触手が!?
「ち、違う! 跳竜のアキレス腱だわ!」
ヴィーのスカートの端を掴んで………あ、ブルー。
「離して! 離してくださあああい!」
ヴィーも頭の蛇を解放して対抗する。
シュルルッ
「シャアアア!」
シュルッ シュルルッ
「シャシャアア! シャアアア!」
触手vs蛇。似た者同士だから絡まる絡まる。
シュルル……シュシュ!?
「シャ? シャシャアア!?」
「あ、あら? 動かない……!」
あーあ、完全にほどけないレベルにまで……。
「サ、サーチ。助けてもらえませんか?」
「え、えーと……まずはアキレス腱側の動きを止めないと……リジー!」
呼ばれたリジーは、ご飯茶碗片手にやってきた。
「あむあむ……何? うわあ、蛇玉!?」
「この馬車、呪われアイテムだったみたいなのよ! 封印のお札を剥がしちゃったんだけど、何とかならない?」
「呪われ!? お任せ」
茶碗を放り出すと、リジーは馬車の屋根に飛び乗った。
「私は呪剣士リジー! 私に従って私のコレクションとなれ! ≪呪従≫!」
シュシュシュルル……パタッ
「……よし。触手を戻せ」
シュルル……ギュッ
「あ。ごめん、ヴィー姉。更に固く固く結ばった模様」
「ちょっとおおおおっ!?」
「落ち着いてヴィー。一旦頭の蛇を大蛇にしちゃえばいいじゃない」
「……あ」
大蛇化することでアキレス腱を引き千切り、ヴィーは無事に脱出できた。
「ふぅ〜……酷い目に会いました」
ヴィーは何とかなったけど……。
「あ゛あ゛あ゛! 呪いが! 呪われアイテムがあああ!」
呪いの元だったアキレス腱が引き千切られたことで、馬車の呪いは霧散。ただの馬車と化してしまった。
「……エイミアが私達にこれをプレゼントしたんじゃなく、押しつけたのね……」
……エイミア、折檻ね。
エイミア、処刑確定。




