第十一話 ていうか、幽霊旅館を出立なんですが、幽霊全員の感謝の印が『恨めしや〜』
ヴィーに慰めてもらって……ていうか、弄ばれて? ……すっかり元気になった私は、朝から温泉に向かった。
「いやっほううううっ!!」
ドボオオオン!
「ぶぎゅる!」
ん? 何か声がしたような……?
「……あ、リジー」
「ぶくぶくぶく! ぶはあ! はあはあはあはあ………な、何するぅ!」
「あはは、ごめんごめん。飛び込んだ先にリジーがいるとは思わなかったわ」
「嘘つき! わからないはずない!」
「いやいや、ホントにわからなかったって! あんたどこにいたの!?」
「潜ってた」
わかるかよっ!
「何で潜ってたのよ!?」
「……童心に帰る?」
あんたはそれが現在進行形なんだからね!? 生まれてからまだ一桁なんだからね!?
「少し考え事をしてた」
「考え事?」
「サーチ姉のこと」
「私? 何を?」
「……私には経験がない事だからわからないけど、自分が大切に思う者と離れ離れになるって事」
「…………」
ばしゃ!
「がぼっ!?」
「あんたはね、せっかく人の気持ちが上がりかけてるときに、わざわざ下げるようなこと言わないの!」
「がばっ! ごぼごぼごぼ!」
「昨日一晩ヴィーが一生懸命慰めてくれたのに! それわかってんのかな!?」
「がぼごぼぶぼ! ぶくぶくごぼごぼ!」
「ほら、何か言いなさいよ! 言ってみなさいっての!」
「ごぼぼぼぼ……ぶく……ぶくく……」
……あ。
ぷかあ〜
「し、しまった! ちょっとリジーしっかりして! リジー! リジー!?」
「……お願いしますから休ませてください」
「……ごめんなさい……」
ぐっすりと寝ていたヴィーを叩き起こし、茹で上がったリジーを回復してもらった。
「それに単なる湯あたりですから、私を叩き起こして≪回復≫する程ではありませんよ?」
へ? 湯あたり?
「……私は溺れたのかと思ったわよ……」
「呼吸してる段階で気付きませんでしたか?」
確かめてなかったわ……。
「ふぁ……すみません、もう少し横になってきますね。昨日の夜は全然寝られませんでしたから……」
誰のせいだよ! そういう意味じゃ、私が被害者だからね!?
「……まあいいわ。出発するのはお昼過ぎだから、十時くらいまでなら寝てていいわよ」
「でしたらサーチ、一緒に寝「遠慮しとく」……そうですか……」
トボトボと部屋へ戻るヴィー。元気ねー、あんた。
「……ぅぅぅ……ぁっぃ……」
「ん? リジー、気がついた?」
「……あれ? 私、ホットでヒートな世界でアチチしてたはず……」
あかん。まだ頭の中は沸騰中らしい。
「露天風呂で湯あたりしたのよ。覚えてない?」
「……うむむ……覚えてないでござる」
ならちょうどいいや。私の犯行だってことは忘れててもらおう。
「ん!? 何故かサーチ姉の顔がチラつく!?」
「そんなのいいから早く朝ご飯食べてきなさい! お昼過ぎには出発するから!」
「はーい」
……ふう。危ない危ない。
「お早う御座いますですわ。サーチ、朝からリジーとのお風呂は如何でしたかぶべぇ!」
「? ナイア姉どうしたの?」
「何でもないから早く行きなさい!」
「……?」
リジーは首を傾げながら、食堂へと向かった。
「…………ふぅぅ。危ない危ない……ナイア、大丈夫? ナイア?」
「…………」
ありゃ。もろ鳩尾に入っちゃったみたいね。
「……また怒られるかなぁ」
嫌そうな顔をするヴィーを想像しながら、もう一度起こしに向かった。
「すいません、お世話になりました」
『いえいえ、こちらこそありがとうございました。お陰様で旅館繁盛の道筋が立てられました』
『本当に……』
ヒュ〜ドロドロ
『なんとお礼を……』
ヒュ〜ドロドロ
『言ったらいいのか……』
……お礼を言いに出てくるのはいいけど、何故そんなに恨めしそうなの?
『『『だって、幽霊だもの』』』
名言みたいに言うな! ていうか、人の心を読むな!
「サーチ、貴女は顔に出過ぎですのよ」
毎回言われるんだけど、自分では全く自覚がない。
「自覚がないと考えてる……と思われ」
「げっ! リジーにまでバレバレなわけ!?」
「リジーどころか、通りすがりの他人にまでバレバレですわよ?」
「マ、マジっすか………………仕方ない、私の心を読んだ連中は全員地獄に堕とすしか」
「止めなさい」
ヴィーに止められた。チッ。
「では皆さん、お世話になりました。さようなら」
『『『さようなら〜〜!!』』』
『『『お達者で〜!』』』
『『『恨めしや〜……』』』
「何でお別れの場で『恨めしや〜』なのよ!?」
『え、だって……』
『恨めしや〜……は私達幽霊のアイデンティティーだし』
そんなアイデンティティー嫌だよ!
『あ、それよりも、呪剣士の方がいらっしゃいませんでしたか?』
「はい、私」
『今回のお礼として、呪剣士である貴女様に≪幽霊の加護≫をお送りします』
「幽霊の……加護?」
……夜中に涼しくなる加護かしら?
『この加護の持ち主には、無条件で幽霊が味方します』
幽霊が味方!?
『ご本人に憑いている守護霊の強化、相手に憑いている背後霊の強化、行く先々での浮遊霊の協力、そして呪いを使用する際の強化等々』
「おおーっ」
『また呪いと引き合う性質により、新たな呪われアイテムの発見も容易』
「ぜひ加護をくださいちょうだいっていうかよこせ」
『呪剣士様落ち着いてください!』
珍しくリジーのテンションが上がってるわねー。
「加護はありがたく私がいただきます」
『は、はい。どうぞ』
地縛霊女将の手から光が飛び、リジーに吸収される。
「……ん、スキル欄に≪幽霊の加護≫が追加された。これで世界中の呪われアイテムは私の手に」
……リジーには渡してはいけないスキルだった気が……。
「早速≪幽霊の加護≫発動」
『へ? もうですか?』
「この近辺にある呪われアイテムを回収」
『『『恨めしや!』』』
そう言って幽霊達は飛び立っていった。それにしても威勢のいい『恨めしや』だったわね。
『……お待たせしました! 「呪いのナイフ」です!』
「ご苦労」
『お待たせしました! 「血塗れの兜」でございます!』
「うむ」
『お待たせしました! 「自爆の靴」でございます!』
「うぃ」
何か偉そうね、リジーのヤツ。
「では次の指令。大陸中の呪われアイテムを回収して」
『『『……は?』』』
さ、流石にそれはムチャでしょ。
『う、恨めしや〜』
『う、恨めしや〜』
『う、恨めしや〜』
ヒュ〜ドロドロ……ヒュ〜ドロドロ……
……本当に恨めしそうね。少しずつ進みつつも、『恨めしや〜』とか言って私達を振り返ってる。
……仕方ない。
「リジー、いい加減にしときなさいよ」
『恨めしや!?』
「駄目。加護を受けたのは私なんだから、私の思うまま」
『…………恨めしやぁ…………』
……なんで恨めしそうな視線を私に向けるのよ……………………ああもう! わかったわよ!
「あっはっは! 世界中の呪われアイテムを我が手におごふぅ!!」
「リジー、ちょっと眠っててね」
「ぐふげふぅっっ!? ……がくっ」
「はい、加護を受けた本人が気絶したら、命令は取り消されるはずよね?」
『『『おおーーーっ!!』』』
『ありがとうございます! 恨めしや!』
『何と言えばいいのか……恨めしや!』
恨めしやはいいから。
『貴女様こそ≪幽霊の加護≫を受けるに相応しい! ささ、どうぞ!』
「……え?」
『この呪剣士殿では、私達が過労死しかねません』
死ぬの!? 幽霊が過労死するの!?
『というわけで、楽ができそうな貴女様に』
……ああそう。
こうして、私が≪幽霊の加護≫を受けとることになった。幽霊全員コキ使ってやる……。
恨めしや〜。




